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『万引き家族』彼らが暮らす下町を歩く~合羽橋と南千住

 ゆったりモードでロケ地を訪ね、町を散歩し、美味しいものを食べ、“旅”として、東京を楽しむ日本映画散歩の第3弾。行ってみました! カンヌ国際映画祭パルムドール受賞作、是枝裕和監督の『万引き家族』(2018)の住む町、もといのロケ地である下町散歩へ。

『万引き家族』上映中 (C) 2018フジテレビジョン ギャガ AOI Pro.

 『万引き家族』、最初に観た時より、いま何気なく再生した予告編にやられてしまいました! 号泣です。予告編の作りのうまさもあるんでしょうが、映画ってたぶん観るタイミングがあるんだと思います。機が熟すというか、自分と映画の出会うべきポイントがあるというか。いや、歳を重ねることで、映画のどこに反応するかは変わり、それが面白さのひとつなので、本当はいつ観たっていいんですけどね。


 東京の下町の小さな家で、肩寄せあって暮らす大家族。名前は紹介されるが、映画の中に姓は出てこない。それもそのはず、彼らは戸籍上の、本当の家族ではないからだ。子どもから大人まで、何らかの理由で行き場をなくした人々が辿りついた場所。それがこの“家族”だった。

 父の治(リリー・フランキー)は土木現場、母の信代(安藤サクラ)はクリーニング工場で働いている。にも関わらず、その収入は祖母の初枝(樹木希林)、長女の亜紀(松岡茉優)、次女のりん(佐々木みゆ)、長男の祥太(城桧吏)ら家族を養えるものではない。何のぜいたくをしているわけでもないのにだ。だから初枝の年金も当てにするし、ちょっといかがわしいところでのアルバイトも、万引きもする。“家族”はそうやって日々の生活を立てているし、この関係を継続させるためのバランスを取っているのだ。

“家族”が暮らす町を訪ねて

 そんな“家族”が暮らす町を訪ねてみた。

 設定は、東京の下町。原案・脚本の是枝監督は、台東区、荒川区あたりをイメージしているのだろう。実際にロケが行われたのも、このあたりが多い。まず、初枝が亜紀と一緒に年金を下ろしに行くシーン。このシーンが撮影されたのは 「朝日信用金庫合羽橋支店」(台東区松が谷3-18-13)。

朝日信用金庫合羽橋支店(撮影:Avanti Press)

 台東区フィルムコミッションによると、「朝日信用金庫さんには通帳などの小道具作成のご協力のほか、実際に勤務されてらっしゃる行員さんにも撮影当日ご出演いただいた」そうで、撮影は、信金さんの全面協力のもと行われたようだ。

ここに来ればいつでも飲食店を開けるだけの材料が揃う合羽橋(撮影:Avanti Press)

 「朝日信用金庫合羽橋支店」があるのは、料理道具、食器、厨房設備、白衣などの専門店が並ぶ合羽橋のど真ん中。外国からの旅行客の間では、本物そっくりに作られた食品サンプルが人気のおみやげとなっているようで、街はいつも賑わっている。

 河童でなく合羽、しかも橋もないのに“合羽橋”。その由来は、近くにある「曹源寺」(台東区松が谷3-7-2)に記されていた。

合羽橋ゆかりの寺、曹源寺(撮影:Avanti Press)

 江戸時代、水はけが悪く、洪水に悩まされていたこの地区に、堀を作り、住民を救ったのが、雨合羽を商う商人、喜八。彼にちなみ、その堀にかかる橋の名を合羽橋としたのだとか。江戸時代、朝日信用金庫の前の通りは喜八が作った新堀川だったのだ。商店街の端にある信号の名前は、いまでも菊屋橋信号だ。

『万引き家族』の飯テロシーンの店へ!

 話が脱線してしまった。続いて訪ねたのは、銭湯の帰りの治父さんと祥太が、家族に内緒でコロッケを買うシーン。このシーンが撮影されたのは、南千住にある昔ながらの商店街 「ジョイフル三ノ輪」。お昼前であったためか、平日にもかかわらず活気にあふれていた。

下町グルメ食べ歩きスポットとしても有名な商店街(撮影:Avanti Press)

 撮影が行われた 「肉の冨士屋」(荒川区南千住1-31-8)を訪ねると、ショーケースにはおいしそうなピンクのお肉が並んでいた。

ジョイフル三ノ輪のなかにある肉の冨士屋。店の脇には映画ポスターが(撮影:Avanti Press)

 仕事終わりだったら、絶対、買って帰らずにはいられない美しさ! しかし……と葛藤の末、映画に出てきたコロッケで我慢しようと声をかけると……。

ショーケースにはおいしそうな肉が並ぶ。しかもリーズナボー!(撮影:Avanti Press)

 「映画、観たんだね? すみませんね。うち、コロッケやってないんですよ」と意外な答え。『万引き家族』を観た人々の間で、“飯テロ”発言さえ出た肉屋のコロッケがない! ここで散歩の楽しみ、つまみ食いを実行しようと思っていたのに残念。意気消沈していると、「この並びの惣菜店にあるから行ってみたら」と店のご主人。

メンコロは180円。ソースもかけ放題!(撮影:Avanti Press)

 「冨士屋さんから紹介していただきました!」と、総菜店「とりふじ」(荒川区南千住1-30-6)にうかがうと「どうぞ! どうぞ!」とすこぶる愛想よく出迎えていただいた。一押しだという「メンコロ」を購入。「そこにソースがあるからたっぷりかけてね!」と気前もいい。

実はテレビ出演経験もある有名店(撮影:Avanti Press)

 牛肉もじゃがいももたっぷり。おーいしーい! これで次のロケ地へと向かう気力が復活した。続いては、コロッケを食べながら歩く治と祥太が、団地のベランダ状の通路に一人たたずむりんを見かけるシーンのロケ地へ。

 「肉の冨士屋」から徒歩で15分ほど。「荒川自然公園」(荒川区荒川8-25)の野球場側入口から公園を背に進んでいくと、見覚えのある団地が見えてくる。冬の寒い日、部屋に入れてもらえないりんが、ぽつねんと座っている姿が甦る。りんを家に連れて帰る二人。誘拐ではないかと責める亜紀に、治は「脅迫も身代金の要求もしていないので誘拐ではない。保護だ」と返す。

路地の奥の小さな家

 “家族”が住んでいるのは、町工場や商店街とともに、庭が小さめの戸建て住宅が密集する下町という設定。ひと昔前であれば、誰もが顔見知りであっただろう地域だが、いまは昔ながらの住人を失って空き家になっていたり、建て替えられて新たな住人を迎えていたりと、近所付き合いは乏しくなっている。

 年齢層のばらけた大家族が住んでいるのに、その実態に気づく者はいない。子どもたちが、大人もコミュニティと付き合わざるを得ない学校に通っていないのが、大きな理由だと思う。そんな彼らが唯一、交流していたのは、皮肉にも小売りを生業とする商店の人々。物を売る/買うという行為、もしくは物を盗む/盗まれるという行為が、なによりも“家族”が生きていることを示していたのだ。

静かな家(撮影:Avanti Press)

 “家族”が住んでいた家は足立区で撮影されているが、こちらは「こんなところに!?」と思うような住宅街のエアポケットにあるので写真で雰囲気だけご紹介。『万引き家族』の住む下町散歩、これにて失礼つかまつる。

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