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桐山青年に寄り添う川へ…『3月のライオン』隅田川ウォーク

 ゆったりモードでロケ地を訪ね、町を散歩し、美味しいものを食べ、“旅”として楽しむ日本映画散歩の第2弾。今回、ご提案するのは神木隆之介主演作 『3月のライオン』(2017)のロケ地、隅田川沿いのお散歩。

『3月のライオン』ファン必見の情景は中央区新川に(撮影:Avanti Press)

 『3月のライオン』の原作は、羽海野チカ原作のベストセラーコミック(白泉社刊。現在も「ヤングアニマル」で連載中)。最近、なにかと話題を集める将棋の世界を描く物語だ。主人公の桐山零(神木隆之介)は高校生棋士。家族を事故で亡くした零少年は、引き取られた先がプロの棋士の家だったことから、将棋の世界に傾倒していく。だが、将棋にのめり込んだ本当の理由は、面白さに惹かれてというより、自分の居場所を確保するため。その設定が、ほんわかしたタッチで、コミカルに描かれる本作に、闇を作り、将棋の勝負だけでない面白さをもたらしている。

 羽海野チカ作品の面白さは、デフォルメされたキャラクターがもたらす突き抜けた笑いと、コマとコマの間に書き込まれる、リリカルな主人公の心の声だ。心の声はナレーションでなんとかなるとしても、デフォルメされたキャラをどう実写映画に落とし込むんだろうと思っていたら、映画は“父と息子”の物語に比重を置き、若干シリアスな作品になっていた。それでも丹念に取材することで知られる羽海野チカ作品が提供したロケ地が放つ魅力は、映画にも変わらず継承されており、天気のいい日の隅田川沿いを散歩するのにぴったり。前置きが長くなったが、それでは『3月のライオン』散歩に出かけてみよう。

主人公・桐山零に寄り添う隅田川

 まずは主人公、桐山零が住む隅田川沿いのマンションへ。コミックでは、堀が隅田川に注ぎ込む場所に建っている設定だが、映画は異なり、駒形橋と厩橋の間でロケされている。都営地下鉄浅草線の蔵前駅で降りて、隅田川堤防内に作られた遊歩道テラス 「隅田川テラス」へ。

映画では桐山零青年の部屋がある設定で撮影されたマンション(撮影:Avanti Press)

 コミックも映画も作品を見る限り、部屋に入るとバーンと隅田川が目に飛び込んでくる間取り。孤独な桐山青年に寄り添うのは隅田川だけなのだと、理解させられる。ここは生活されている方がいるプライベートな場所なので、隅田川テラスから見るにとどめたい。

中央大橋のたもとに何やら見たことのある建築物

 蔵前駅から、人形町駅で乗り換えて、八丁堀駅で下車。フランスのデザイン会社が設計したという美しいフォルムの中央大橋を目指して歩くと、再び隅田川沿いに出る。このあたりは川幅も広く、海の匂いが濃い。

 中央大橋を渡る前に、右手を見ると「隅田川テラス」の端に「霊岸島水位観測所」(中央区新川2-32-1)が見える。現在は役目を終えているが、名前の通り、水位を観測する施設だ。しかし、『3月のライオン』ファンの皆様なら見ただけで鼓動が早くなるはず。

桐山零青年の気分でたたずみたい(撮影:Avanti Press)

 なにかことが起こるたびに、桐山青年がたたずむ場所。それが「霊岸島水位観測所」なのだ。物語のなかでは桐山の部屋の近所という設定だがそこはご愛敬ということで。

桐山青年のように中央大橋を徒歩で渡って川本家へ

 それでは中央大橋を渡って、佃島に足を踏み入れてみたい。佃島には、『3月のライオン』のサブキャラクター、川本一家が住んでいる設定。川本家は、和菓子屋を営むおじいちゃん相米二(前田吟)と、母を亡くした三姉妹で構成される。三姉妹の長女あかり(倉科カナ)は和菓子屋を手伝いながら、叔母が経営する銀座のクラブで働いている。次女のひなた(清原果耶)は中学生。いまどきの少女のようで、強く優しいひなたに桐山は惹かれている。あとは、幼稚園に通う三女モモ(新津ちせ)。ひょんなことから身も心もよりどころとなった川本家に、桐山は中央大橋を渡って、足しげく訪れる設定。

美しい中央大橋を渡ると、桐山じゃなくても心が弾む(撮影:Avanti Press)

 橋を渡ったら 佃小橋を目指す。赤い欄干のかわいい橋。昭和59年(1984年)に架けられた橋だが、江戸時代から同じ場所に橋があった。佃島は、本能寺の変の際に、徳川家康を手引きして逃がした大阪の佃村(現在の大阪府大阪市西淀川区佃)の漁師が祖で、家康が江戸幕府を開いた際に呼び寄せ、この地と漁業権を与えたと言われている。川本家もそんな漁師の子孫かもしれないと思うと、散歩が時空を飛び越えるものに変わりそうな気分。

月島は大部分が埋め立てられた島だが、佃島はもともと島だった場所(撮影:Avanti Press)

 佃村から漁師が移住した翌1646年(正保3年)に創建された 「住吉神社」(中央区佃1-1-14)もぜひお参りしたいポイント。祀られているのは、摂津国佃の住吉社(現・田蓑神社)の分霊(住吉三神)と、息長足姫命(神功皇后)、そして東照御親命(徳川家康の霊)の分霊なのだそう。夏の初めには、江戸時代から変わらない独特な踊りを奉納する 盆踊り(東京都指定無形民俗文化財) も行われるそう。ぜひまた訪れてみたい。

人気のパワースポットでもある住吉神社(撮影:Avanti Press)

高層マンションと、昔ながらの風景が残る佃島のコントラストが面白い(撮影:Avanti Press)

散歩とはお腹が減るもの

 散歩は小腹が減るもの。佃島の名物には、佃煮がある。老舗の佃煮店 「つくだに丸久」(中央区佃1-2-10)に、「佃源 田中屋」(中央区佃1-3-13)、そして 「天安本店」(中央区佃1-3-14)をめぐれば、ご飯が進むこと間違いなしの佃煮に出合えるはず。だが、『3月のライオン』めぐりの流れなら、やはり和菓子でしょう、と月島に和菓子店を探してみた。

和菓子屋「二葉家」(撮影:Avanti Press)

 佃小橋を後にして、東京メトロ有楽町線の月島駅方面に歩いたところにありました! 1868年(明治元年)創業の老舗和菓子店「二葉家」(中央区佃2-14-3)。「手間暇を惜しまず、良いものを丁寧に」を信条に、毎日、店で手作りしているのだそう。相米二おじいちゃんが営む「三日月堂」もこんな感じなのかなと思いながら、お饅頭を購入。行儀は悪いが、立ち食いでいただきます。うまい!

お饅頭うまし!(撮影:Avanti Press)

 お饅頭で胃を落ち着かせて、ふらふら駅の方に歩いていると、もう夕方。5時になると開店する焼鳥店「幸侍」(中央区佃2-16-11)が準備を始めていた。実はここ、昼間は老舗の「尾崎畳店」。夜だけ焼鳥店に変身するいっぷう変わった居酒屋なのだ。高校生の桐山零君なら絶対入らないだろう居酒屋だが、これはもう入らずにはいられない。こんな予定外の展開も、散歩の楽しさだと言い切ってしまおう。

 午後から夕方にかけての、ゆっくり『3月のライオン』隅田川散歩。それでは居酒屋の前にて失礼つかまつる!

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