ツイート シェア

悪が存在しない「美しい箱庭」へようこそ~『マンマ・ミーア!ヒア・ウィー・ゴー』

 ロングランのミュージカルを映画化し、世界で大ヒットとなった『マンマ・ミーア!』(2008)。結婚を控えた娘とその母、パパ候補3人による怒涛の展開が、ポップグループABBAのヒット曲とともに大団円へ向かう様はなんとも爽快だった。あれから10年、満を持して登場する続編が『マンマ・ミーア!ヒア・ウィー・ゴー』(2018)だ。今回もあの疾走感は健在だが、前作よりも勢いは増している。

左から若きドナ、ソフィ、ドナ。ドナが故人になっている状況には少々戸惑うかも (C)Universal Pictures

 舞台は前作同様、ギリシャのカロカイリ島。ソフィ(アマンダ・セイフライド)は亡き母ドナ(メリル・ストリープ)との念願だったオシャレなホテルを完成させ、グランドオープンの準備に走り回っている。彼女を見守る存在は“パパの1人”サム(ピアース・ブロスナン)や、ホテル支配人のセニョール・シエンフゴス(アンディ・ガルシア)たち。だが、NYにいる夫のスカイ(ドミニク・クーパー)とだけは、気持ちがすれ違ってしまう。そんななか、ソフィの妊娠が発覚して…と、以上が「現在」の物語だ。

 本作は「現在」と「過去」の物語で展開し、後者は若きドナ(リリー・ジェームズ)がカロカイリ島に定住する経緯を描く。前作で熟年トリオ芸人と化していた“3人のパパ”もヤングバージョンで登場するが、期待は裏切らない。サムは若いころ(ジェレミー・アーヴィン)からちょっと面倒なモラトリアム青年で、ビル(ステラン・スカルスガルド)も若いころ(ジョシュ・ディラン)から色々と大味なお坊ちゃんだ。そしてハリー(コリン・ファース)は若いころ(ヒュー・スキナー)からボケ担当の才能にあふれている。若きドナにいきなり初体験を申し込むなど、真面目が一回転した残念キャラは非常に愛らしい。

役割分担がきっちりしている熟年トリオ。本作ではさらにチームワークが光る (C)Universal Pictures

 こんなキャラ違いの3人と短期間で渡り合うとは、ドナの体力には頭が下がる。大学卒業からカロカイリ島への旅路、ソフィを出産するまでにしても、まさにパワフル一直線。「自分の道は自分で作る」と前進あるのみだが、あとから冷静に考えると無茶な部分も若干ある。それでも鑑賞中は「ほうほう、それで?」と彼女の人生に引き込まれるのは、なんといってもロケ地の魅力によるものが大きいだろう。

 カロカイリ島は架空の島のため、前作はギリシャのスコペロス島で撮影された。本作の「2代目カロカイリ島」は、アドリア海に浮かぶクロアチアのヴィス島だ。2017年9月から10月に行われた撮影では、海はもちろん若きドナが降り立つ波止場階段が印象的な市場など、島内の主要スポットがほぼフィルムに収められた。カロカイリ島行きフェリー乗り場やビル&ハリーが利用するレストランも、実際の撮影は島内だ。一方、ホテル内のシーンなどはイギリスの「シェパートンスタジオ」 WEB で撮影されている。

希望に満ちた表情でカロカイリ島へ到着したドナ。定住を決めるまでの過程もドラマチック! (C)Universal Pictures

 結果、スモールワールド感は前作よりも強くなった。まるで海に浮かぶ「美しい箱庭」。本作の隠れた主役とは、この「圧倒的な箱庭感」かもしれない。「美しい箱庭」とは、ソフィとドナが作り上げたホテルのことでもある。物語に登場する邪魔者は自然現象だけで、悪人やおかしな訪問客は存在しない。「美しい箱庭」で展開される平和な『グランドホテル』。だからこそ、本作は人を落涙させるのだろう。「ありえない」とわかっているからこそだ。

 ヴィス島はこうして、カロカイリ島を見事に「演じきった」。美しすぎる海や自然、日差しは、ドナの躍動感と作品のハッピーなイメージを増幅している。どんな出来事でも「太陽がまぶしすぎて…」や「海が青すぎて…」で済んでしまう(ような)世界。けれど、鑑賞者は承知している。「こんな世界はありえない」と。一方では、疲れた心が強く欲する。「こんなアナザーワールドがどこかにあればいいのに」と。

フェリーに乗り遅れたソフィを助けたのはビル。ボート上でのダンスシーンは圧巻 (C)Universal Pictures

 さらに、本作の新たな爆弾ことドナの母ルビー(シェール)が醸し出すアナザーワールド感もすばらしい。なにせドナの母だ、そもそも異次元の住人(失礼)であるシェールは適役だろう。全員が船で訪れる島にただひとりヘリコプターで乗りつけ、ちょっと天然な会話を披露したあとは、アンディ・ガルシアとまさかのラブシーン。そこらの若者などお話にならない色気には、もはやありがたみすら感じてしまう。「生きてるあいだに拝めてよかったな」的な。

アンディ・ガルシア62歳&シェール72歳。破壊力・戦闘力ともにMAXのラブシーン (C)Universal Pictures

 前作のスコペロス島は超人気リゾート地に成長した。今後のヴィス島は間違いなくそのあとを追うだろう。ヨーロッパのウェブメディアなどは、サマーバケーションの新たな目的地として積極的に紹介している。ヴィス島の「演技力」に魅了された観客のなかには、実際の渡航を考慮する人も多いだろう。なにかと物騒な世界は切望しているからだ。悪がまったく存在しない「美しい箱庭」を。そして、歌って踊って日が暮れる平和なアナザーワールドを。

 本作で増した箱庭感と疾走感は、前作の公開時よりも複雑になった世界情勢からすると意外に納得がいくように思われる。

『マンマ・ミーア!ヒア・ウィー・ゴー』 WEB
2018年8月24日(金)全国公開 配給:東宝東和

関連記事