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【映画祭で食べよう】海の幸とグラッパ:ベネチア国際映画祭・イタリア

 年間4~5回海外映画祭に参加する筆者。どの映画祭に参加するか? 決め手となるのは美味しい食事。酒と料理が不味い地域の映画祭には、できるだけ行かないことにしている。

世界三大映画祭、ベネチア国際映画祭!

 2018年も8月29日〜9月8日まで、世界三大映画祭の一つ、第75回ベネチア国際映画祭が開催されます。コンペティション部門には、塚本晋也監督が初の時代劇に挑んだ『斬、』(11月24日公開)が日本作品として唯一選出されました。さて、その華やかな映画祭の食事場はいかに?

前作『野火』で参加した第71回から4年ぶりのベネチア国際映画祭凱旋となる塚本晋也監督。『斬、』の主演俳優・池松壮亮、蒼井優らとともにレッドカーペットを歩く予定 (C)SHINYA TSUKAMOTO / KAIJYU THEATER

1997年(第57回)に『HANA-BI』で最高賞の金獅子賞を受賞した北野武監督も常連。公式上映はいつも熱狂的なキタニストで会場が満席になる(撮影:中山治美)

ベネチア中心部から離れた島で開催される映画祭

 ベネチアと聞けば美しい回廊に囲まれたサンマルコ広場や、ロマンチックなゴンドラを思い浮かべることでしょう。

ベネチア本島を貫くカナル・グランデ。この景色を見るとベネチアに来たことを実感する(撮影:中山治美)

 しかし! 映画祭が行われているのは、サンマルコ広場から水上バス(ヴァボレット)に揺られること約15分のリド島。メイン会場はさらに路線バスで7〜8分の元カジノです。

映画祭期間中に設置されるシネマ・ガーデンには、簡易のバールやブッフェもお目見え。昼寝もできる快適な空間(撮影:中山治美)

 映画祭開催時以外に周辺を訪れたら、きっとその閑散とした風景に驚かれることでしょう。イメージはまさに、ルキノ・ヴィスコンティ監督によって描かれた『ベニスに死す』(1971)の世界そのもの。

万人を魅了するベネチアの夕景(撮影:中山治美)

ベネチアの伝統行事レガッタ・ストーリカ。毎年、映画祭中の、9月第一日曜日に開催される。水上バスの運行ルートが変更になったり、運休する区間もあるので旅行者は要注意(撮影:中山治美)

 映画祭期間中は、そんな場所に約17万人強が世界中から訪れます。

ベネチア国際映画祭のレッドカーペットは、スターと観客の距離の近さが魅力的。写真は、ファンのサインに応じるナオミ・ワッツ(撮影:中山治美)

 懐と時間に余裕があるなら、最寄りの5ツ星ホテル 「Hotel Excelsior Venice Lido」 (ホテル・エクセルシオール・ベニス・リド)のレストランで優雅なひと時を味わいたいものですが、多くの来場者の胃袋を支えるのは、カジノ周辺に出没する簡易バールやビュッフェ。簡易とはいえ、釜を持つピッツェリアや、バールにはパニーノのみならず、ベネチア名物の具だくさんトラメッツィーノ(日本の三角サンドウィッチ)もあって、小腹を満たすには便利です。でも三食それでは飽きるうえ、日本のコンビニのように迅速な対応ではないので、常に長蛇の列。何より、それじゃあお腹にたまらない。

こちらが映画祭期間中にお目見えするピッツェリアのマルゲリータ。これはこれで美味しいんです! ビールも進みます(撮影:中山治美)

我が食堂と勝手に呼ぶ「トラットリア・アンドリ」へ

 そこで期間中、レンタルサイクルを借りている筆者は、島の繁華街サンタ・マリア・エリザベッタ通りまで、ぴゅっと移動して、安くて早く、朝から夜中まで営業している中華料理店ラ・グラン・チーナに駆け込むか、勝手に我が食堂と呼んでいる 「Trattoria Andri」(トラットリア・アンドリ)へ。細い運河に沿ったレバント通りに面したアンドリは、木々に覆われたテラスもあり、映画祭の喧騒から逃れてホッと一息つくにも最適です。

「トラットリア・アンドリ」は、細い運河に面したレバント通りにある。この運河を眺めながらのそぞろ歩きも憩いのひととき(撮影:中山治美)

 メニューは伝統的なベネチア料理。前菜には、干し鱈をペーストにしたバッカラ・マンテカートやイワシのマリネ。メインは、フロッグフィッシュ(カエルアンコウ)のグリルや、魚介のミックスフライ。

フロッグフィッシュ(カエルアンコウ)のグリル。こちらもベネチアの名物料理(撮影:中山治美)

 日本人の大好きなイカスミパスタやリゾットもあります。

絶品イカスミパスタ(撮影:中山治美)

 では他店と何が違うのかといえば、家族経営ならではの変わらぬ味と人間力。朝、店舗前を通ると、店主のルカさんたちがアドリア海で採れたばかりのエビやシャコの殻剥きをしている光景を目にします。リド島きっての人気店ですが、手間隙惜しまぬ姿勢が料理の味にも表れています。

 一押しは、ベネチアの海の幸が満載な前菜盛り合わせ「アンティパスト・アンドリ」ですが、筆者のお気に入りはモッツァレラが載った野菜のグリル。これにオリーブオイルと塩をかけて食べるという極めてシンプルな料理ですが、野菜は自家製。イタリアの太陽を浴びて育ったズッキーニやトマトの、野性味あふれた力強い味が、口いっぱいに広がります。

アドリア海の幸が満載のアンドリの前菜盛り合わせ。キュッとレモンを絞ってどうぞ!(撮影:中山治美)

 あとはほとんどその日のお任せ。筆者が「今日は焼き魚が食べたいな」と言えば、「スズキがあるよ」と、「じゃ、それで」とオーダー。たまに「魚介のリゾットを作り過ぎて余ってるから食べる?」と、他のテーブルがオーダーした料理のおこぼれに預かることもあります。恐らく、あまり時間のない筆者を気遣って、すぐに提供できる料理を用意してくれるのでしょう。

 食後は自家製デザートも豊富にありますが、ここはベネチアらしい食後酒ズグロッピーノといきましょう。店によってレシピは微妙に異なるようですが、レモンシャーベットにウォッカやプロセッコをカクテルしたもの。飲み口は爽やか、アルコール度数は高めというキケンな飲み物でもあります。ほか、木いちごを漬け込んだ自家製グラッパが、「さぁ、たんとお飲み」と言わんばかりにドン! と1本、テーブルにやって来ることも。

左/白い悪魔(笑)ズグロッピーノ 右/ある時、グラッパを頼んだらマグナムボトムがやって来た。初めて見た。グラッパはワインを蒸留して作ったもの。ベネチアから列車で約1時間のバッサーノ・デル・グラッパという町の名産品(撮影:中山治美)

 イタリアは食後酒が豊富にあり、最後の最後まで食の時間を楽しもうとする姿勢は、さすがスローフード発祥の地。日本人も見習いたいところです。

トルチェッロ島の老舗「ロカンダ・チプリアーニ」

 さて、気忙しい映画祭が終了したら、自分のご褒美にと訪れる、とっておきの場所を紹介しましょう。リド島から船に乗ること約90分のトルチェッロ島にあるホテル&レストラン 「Locanda Cipriani」(ロカンダ・チプリアーニ)です。

「ロカンダ・チプリアーニ」のテラスから庭園の風景。食事の味も10割増し(撮影:中山治美)

 6部屋しかない宿泊施設は、文豪アーネスト・ヘミングウェイやダイアナ元妃も宿泊したことで知られていますが、緑あふれる庭園を眺めることができるレストランが、まさに別世界に来たかのような居心地の良さ。

テラス席。ぜひこちらを予約したい(撮影:中山治美)

良い店はサービスも一流で、心地よい時間を味あわせてくれる(撮影:中山治美)

 こちらも料理は、伝統的なベネチア料理が基本です。

ベネチアに来たら、これも食べなきゃ! 茹でたグランセオラ(クモガニ)に、オリーブオイルと塩コショウをかけてシンプルにいただく(撮影:中山治美)

イカの墨煮。付け合わせのポレンタはトウモロコシの粉を塩と水で練ったもの(撮影:中山治美)

魚介のフリット・ミスト(撮影:中山治美)

食後に、デザートワインとクッキーをセットで。これも合うんです(撮影:中山治美)

 でもここには、とっておきのお酒があるのです。それが、ピューレした白桃とプロセッコを合わせたベリーニです。

左/こちらは本家「ハリーズ・バー」のベリーニ。カクテルを作っているイラストが愛らしい 右/ベネチア本島の「ハリーズ・バー」の入り口。趣が違います(撮影:中山治美)

 ベリーニと言えば、ウディ・アレン監督も常連と言われるベネチア本島にある 「Harry’s Bar」(ハリーズ・バー)が考案したカクテルですが、創業者は同じジョゼッぺ・チプリアーニという、いわば系列店。なので同じ味が楽しめるのです。半ズボンを履いている男性は、容赦なくお引き取り願うという格式高い大人の社交場である「ハリーズ・バー」は入りづらいという人も、「ロカンダ・チプリアーニ」なら、気軽に予約できるのではないでしょうか。まっ、ベネチア本島から距離があるので、時間に余裕のある人に限られますが。でも、時間をかけて訪れる価値はあります。

 ちなみに「ロカンダ・チプリアーニ」では、ベネチア国際映画祭の審査員たちが審査会議を開いていたこともあったそうです。授賞式まで結果厳守を貫くには、リド島から隔離され、サンタ・フォスカ教会とこのレストランぐらいしかないこの島が最適だったのでしょう。

サンタ・フォスカ教会から「ロカンダ・チプリアーニ」を眺めた風景。白いテントがちょうどレストランの庭園。ベネチアの人にとっても憧れで、ここで結婚式の披露宴を行う人も多い(撮影:中山治美)

 そこでどんな議論が交わされたのか……。積み重ねた歴史と数々の逸話を持っているのもまた、このレストランの魅力です。

ベネチア国際映画祭 Mostra Internazionale d’Arte Cinematografica WEB
1932年に創設された世界最古の映画祭で、カンヌ、ベルリンと並ぶ世界三大映画祭の一つ。よく部門や賞の名称が変わるので、リスト化や比較がしにくく、記者泣かせ。トロフィーは、ベネチアの守護聖獣である羽の生えたライオン。最高賞の名称は、金獅子賞。日本映画では、黒澤明監督『羅生門』(1950)、稲垣浩監督『無法松の一生』(1958)、北野武監督『HANA-BI』(1997)が金獅子賞を、2005年には宮崎駿監督が栄誉金獅子賞を受賞している。チケットを購入すれば一般の観客も鑑賞できる。

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