香港海底トンネル爆破は「ありえる話」か?~『SHOCK WAVE ショックウェイブ 爆弾処理班』

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 香港の定番イメージといえば、ビクトリア湾を囲む高層ビルとネオンの「夜景」だろう。位置は香港の心臓部こと九龍半島南端と香港島北側だが、意外なことにこのふたつをつなぐ橋は存在しない。大量のヒトとモノを運ぶ大動脈はビクトリア湾の下、3本のクロスハーバートンネル(海底トンネル)と1本の地下鉄線だ。このうちもっとも通行量が多いトンネルに、1000kgの爆弾が仕掛けられたら? 『SHOCK WAVE ショック ウェイブ 爆弾処理班』(2017)は、香港の大動脈と通行車両がまるごと人質になるアクションドラマだ。

『ショック ウエイブ 爆弾処理班』 2018年8月18日(土)シネマート新宿ほか全国順次公開 (C)2017 ALL RIGHTS RESERVED BY UNIVERSE ENTERTAINMENT LIMITED / INFINITUS ENTERTAINMENT LIMITED

 ストーリーは単純明快な「ザ・香港映画」。香港警察爆発物処理局のチョン警官(アンディ・ラウ)は潜入捜査の末に爆弾犯グループを追い詰めるが、主犯のホン(チアン・ウー)を取り逃がす。1年半後、復讐を誓ったホンは香港へ舞い戻り、クロスハーバートンネル1号線の両端に1000kgの爆弾を仕掛けた。制限時間の48時間以内にトンネルと市民を救うべく、チョン警官の戦いが幕を開ける。

 相変わらずオシャレな香港警察オフィス、潜入捜査が板についているアンディ・ラウ、トンネル関連株の高騰に燃える香港市場、カーチェイスと爆破でひたすら消費されるタクシー車両など、香港テイストのシーンが矢継ぎ早に投入される。ただし、それらは少しずつ増量され、爆破シーンの炎や命を落とす人数は1.3倍程度といったところ。これにより、シンプルなストーリーはさらにわかりやすく、かつ派手になっている。

 この背後には香港映画業界の変化があるだろう。1997年の香港返還以降、香港資本の作品は激減し、大半は合作か中国本土資本。より幅広い層から及第点を得るには、香港テイストの増量とテーマの最大公約数化は必然。ハリウッド大作のように年齢性別を選ばず、シンプルでわかりやすいテーマが最適となる。

『ショック ウエイブ 爆弾処理班』 2018年8月18日(土)シネマート新宿ほか全国順次公開 (C)2017 ALL RIGHTS RESERVED BY UNIVERSE ENTERTAINMENT LIMITED / INFINITUS ENTERTAINMENT LIMITED

 ただし、テーマの内容はハリウッドと違う。中華圏の観客が求めるものは恋人と抱き合うハッピーエンドではなく、自己犠牲を伴う「忠義」だ。『インファナル・アフェア』シリーズなどで繰り返し描かれている潜入捜査は、その好例ともいえる。

 この「忠義」を際立たせるエピソードが、チョン警官と恋人カルメン(ソン・ジア)の「漫画のような」出会い。「泥酔した彼女が絡んだ相手はイケメンのエリート警官!」とは、「別の映画でお願いします」とも言いたくなる。だが「忠義」と「振り切る愛」は永遠の名コンビ。「大切な女性を残して正義に向かう姿」を強調するためにも、彼女の複雑なキャラクターは極力詳細に描いたほうがいい。

 日本の観客にとっては「ちょっと待って?」な部分もあるだろうが、ここで文句をつけるのは無粋というもの。本作の一番スゴイ部分とは、香港を知っている者なら一度はちらっと考える「もしクロスハーバートンネルが全面封鎖されたら」という、それこそ「漫画のような」恐怖を描いた部分だ。

『ショック ウエイブ 爆弾処理班』 2018年8月18日(土)シネマート新宿ほか全国順次公開 (C)2017 ALL RIGHTS RESERVED BY UNIVERSE ENTERTAINMENT LIMITED / INFINITUS ENTERTAINMENT LIMITED

 しかも、狙われたクロスハーバートンネルは1号線。香港で24時間混雑する場所、とくに朝晩は断じて避けたい大渋滞スポットでもある。そこが丸2日閉鎖され、2号線と3号線も事件発生後の翌朝まで封鎖されたら? 空港に到着した輸入品や郊外の工場で製造された食品など、香港島へ運ばれるべきモノは確実に減る。作中でも「爆破された場合の経済損失額」はとにかく巨額だ。あのトンネルの膨大すぎる交通量を知る者なら「数字はよくわからんがとにかくスゴそうだ」と前のめりになるだろう。

 さらに、全長1.86キロのトンネルはテロリストの占拠で巨大な密室と化す。両端にはそれぞれ500キロの爆弾、壁の向こうは海底。逃げ場はない。香港名物の無駄に冷えすぎるクーラーも設置されていない。これは無理、絶対に無理。想像しただけでも背中に汗がにじむ。なにせ、作中で「冷酷無比」と言われ続けるホンたちも、人質に水のボトルを配布するほどだ。「あ、そこはやっぱり配るのか」と思った時点でリアリティは微増する。
 

 もうひとつのリアリティ増加ポイントは、二カ月かけて建設された実物大セットだ。全編の約4分の3近くに登場しており、消火栓や排気ガスで煤けた横壁・天井やどこか曖昧で昭和っぽいライティングなど、どこをとっても高すぎる再現度。「わかる、あれね」と感じることで積み上がるリアリティはやがて、「漫画のような」展開自体のリアリティに変化していく。「もしかすると、ありえない話ではないぞ」と。

 かくしてチョン警官の戦いは勝利に終わるのか? 「ザ・香港映画」をベースに、豊富な資金でディティールを作りこみ、「漫画のような」恐怖にリアリティを持たせる。現地を知る多くの人が一瞬は考えたであろう、身近すぎる恐怖を。リアリティに厳密なこわだわりがある方にはあまり向いていないが、「あそこに閉じ込められたらたしかにヤバイ。しかも2日間封鎖!?」と即座に思った方にはぜひオススメしたい。鑑賞後はあのトンネルを通過したくなること間違いなしだ。

『SHOCK WAVE ショックウェイブ 爆弾処理班』 WEB
2018年8月18日(土)シネマート新宿ほか全国順次公開

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