日本映画散歩 ① 『おくりびと』の山形・かみのやま温泉~ロケ地めぐりの疲れは温泉で癒す!

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 映画のロケ地を探して訪ねるのは、映画通にとってはかなり楽しいイベント。好きなシーンの俳優の気持ちになってロケ地でどっぷり映画の世界に浸るのも、好きな映画のロケ地をすべて探り出しブログに投稿して同好の士と情報共有するのも楽しい。

 でも推奨したいのはゆったりモード。代表的なロケ地を訪ねたら、その町を散歩し、美味しいものを食べ、“旅”として楽しむことをご提案したい。これなら「映画はあまり見ないの」とのたまう友人とも出かけられる?

『おくりびと』で本木、広末が演じた夫婦の家へ

 本日訪ねるのは、映画『おくりびと』のロケ地・上山市。最寄り駅は山形新幹線が止まる、かみのやま温泉駅。ロケ地も駅から歩いて行ける距離で、“映画さんぽ”にはぴったり。

大悟の家のロケ地となった「上山コンチェルト館」。2010年に閉館したが外観は見学可能(撮影:Avanti Press)

 2008年に公開された『おくりびと』は、本木雅弘、広末涼子、山崎努らが出演した納棺士の物語。楽団が解散したことで、妻・美香(広末)とともに故郷の山形に戻った、オーケストラのチェリストだった大悟(本木)。勘違いから納棺士として働くことになるも、はじめは戸惑ってばかり。妻にも打ち明けられないまま、押しの強い納棺会社NKエージェント社長・佐々木(山崎)のペースで仕事をこなす日々。だが佐々木の心のこもった納棺を見、その行為に感謝する人々に触れ、徐々に意義を見出していく。

 なんと2009年2月に行われた第81回アカデミー賞授賞式で、日本映画初となる外国語映画賞を受賞した。山田洋次監督の『たそがれ清衛兵』も、黒澤明監督の『影武者』や『デルス・ウザーラ』も取れなかったのにだ!(黒澤監督は、外国語映画賞部門が設置される前、『羅生門』で名誉賞を受賞)

 そんな世界的映画のロケ地となった山形県は上山市や酒田市、鶴岡市周辺。今回は、二人が戻った大悟の実家を中心に、かみのやま温泉駅から散歩をスタート。江戸時代、羽州(うしゅう)街道(現国道13号線)の宿場町として栄えた懐かしい風情を残す商店街を歩き、蕎麦を堪能し、上山城を見学して、かみのやま温泉で汗を流す! 約4時間のコースに挑戦。

ロケ地めぐりに温泉がついてくる楽しみ!

 時計台のようなかみのやま温泉駅を出発! 1992年山形新幹線の開通とともにこの新駅舎に。山形新幹線は、在来線を改軌して直通運転できるようにした線で、新幹線というより特急に乗っているよう。

かみのやま温泉駅(撮影:Avanti Press)

 大悟の実家まで歩いてみる。西口を出て、駅を背にしてまっすぐ進み、最初の信号を右に曲がる。かつて賑わっただろう商店街の風情だが、元気にはためく「丸内牛肉店」(山形県上山市矢来1-7-26)の米沢牛やコロッケののぼりが空腹を誘う。

丸内牛肉店隣の趣のある店(撮影:Avanti Press)

 橋を渡り、国道13号を左折すると左手に見えてくるのが、元ジャズ喫茶という設定の大悟の実家「和 コンチェルト」(山形県上山市二日町1-16 現在は旧「コンチェルト館」)。

惜しくも2010年に閉館した「上山コンチェルト館」(撮影:Avanti Press)

 三角柱の魅力的な外観の家で、映画を見ると一階にある備え付けのテーブルも空間に合わせて三角形。小さな敷地を活かして建てた、東京は外苑西通り沿いの「塔の家」を思わせる魅力的な建築物だ。現在も建物外壁には撮影時同様、「コンチェルト」の文字が残り、前には『おくりびと』ロケ地の看板がある。

コンチェルトから見える矢来橋と蔵王連峰。大悟と美香もこの景色を楽しんでいただろう(撮影:Avanti Press)

 家の前を流れるのは前川。「上山コンチェルト館」の前から、川の上流を見ると、先ほど渡って来た緋色の矢来橋の奥に蔵王連峰が見える。緊張していた心もほぐれる美しさ。大悟の父親がここに店を構えたのは、来店するお客さんとそれを味わってもらいたかったからに違いない。仕事に出かける前、川沿いでハグをする二人、おみやげを持って川沿いを歩く大悟の姿など、映画の中でも印象的に家と川が登場する。

 ちなみに滝田洋二郎監督は、ここをロケ地に選んだ理由を、「川があり、奥に山があって、家がある。ありがちだけど普通じゃない話をきちんと描くことができる場所だと思い、直感で決めた」と話していたそう。100カ所以上の候補地の中から決めたそうだ。

ここからは観光モード! まずは美味しいもの

 歩き始めた途端、お腹は減るもの。かみのやま温泉新湯通りへと向かう。目指すは「湯蕎庵 味津肥盧(みつひろ)」(山形県上山市新湯6-34)。二人前分はある板蕎麦をひとりでペロリ。お城の坂を上る英気を養い、一路、上山城へ。

上山城(撮影:Avanti Press)

 かつて最上氏の最南端の城塞として築かれ、伊達氏や上杉氏の攻防の舞台となった上山城(山形県上山市元城内3-7 WEB)。月岡・天神森にそびえる壮麗な城郭は「羽州の名城」として知れ渡ったそうだが、1692元禄5年(1692年)に幕府によって取り壊され、堀や石垣が残るのみ。現在の建物は模擬城とのこと。

温泉につかった後はもう少し足を延ばして!

 ちょっとした運動をした後のお風呂は気持ちがいい! 次は、かみのやま温泉で日帰り入浴ができるホテルへ。朝湯ならぬ昼湯! 露天風呂も種類豊富。

 上山城下には、沢庵漬けの考案者とも言われる沢庵禅師が、出羽国(山形、秋田)に流罪になった際、住んでいた「春雨庵」(山形県上山市松山2-10-12 WEB)がある。興味のある方はこちらにも散歩の足を延ばしてみては?

沢庵和尚ゆかりの「春雨庵」(撮影:Avanti Press)

このほかにもロケ地はたくさん

 ほかにも近隣に、NKエージェント事務所として外観が使われた「旧割烹 小幡」(山形県酒田市日吉町2-9-37 WEB)や「納棺の手引き」が撮影された「酒田市港座」(山形県酒田市日吉町1丁目6-9 WEB)、大悟が車を走らせる「山居倉庫」(山形県酒田市山居町1-1-20 WEB)、そして日々、多くの映画のロケが行われており、一部セットを見学できる「庄内映画村」(山形県鶴岡市羽黒町松ヶ岡字松ヶ岡29 松ヶ岡開墾場内 WEB)などがある。

NKエージェント事務所として外観が使われた旧割烹小幡(撮影:Avanti Press)

 本気で『おくりびと』のロケ地を極めようと思う方も大満足。なにしろ山形は、肉、魚、野菜、お酒と、食べ物がおいしい。ぜひ夏休みに足を運んでいただきたい。もちろん映画『おくりびと』の予習は忘れずに!