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千と千尋に大人も癒された? スタジオジブリ作品の舞台を探して【国内編2】

 『千と千尋の神隠し』に『ハウルの動く城』、『もののけ姫』、『崖の上のポニョ』、『風立ちぬ』と、日本映画の歴代興行成績ベスト10にはスタジオジブリ作品が5本もランクインしている。こんな制作会社はほかにない。今回も引き続き、モデルとなった地域の物語を通じてその魅力を探ってみよう。

傷を抱えた神と大人を癒す『千と千尋の神隠し』

 10歳の少女・千尋が、魔女・湯婆婆の湯屋で働きながら、豚にされてしまった両親を助け出そうと奮闘する作品が宮崎駿監督の『千と千尋の神隠し』(2001)。千尋は神々が浸かりにくる湯屋で“働くこと”を経験し、様々な冒険を経て成長していく。八百万の神が集う湯屋「油屋」を舞台にした摩訶不思議な映画は、興行収入約304億円をたたき出した。この記録を超える日本映画はまだない。

 10歳が日常で出会う人は少ない。だから次々知らない人に会うことも、初めて会った大人に冷たくされることも、経験のないことだったのではないか。だが千尋は、いきなり湯婆婆から「千尋」という名前を取り上げられて「千」になると、魔法使い見習いの少年・ハク、釜焚きの釜爺、湯屋で働く娘・リン、寂しがりやの妖怪・カオナシらと敵味方なく出会い、対応を迫られる。大人でも難しいことを、子どもながらに(いや、子どもだからこそ)成立させる。

 湯屋のモデルと言われる場所は、スタジオジブリのスタッフが社員旅行で訪れた愛媛県「道後温泉本館」、子どものころ宮崎監督が家族で訪れた神奈川県「鶴巻温泉元湯陣屋」、千がカオナシのために引き戸を開けておくシーンの坪庭といわれる東京都「江戸東京たてもの園 子宝湯」など。

現在は保存修理工事中の道後温泉本館(tarousite/PIXTA)

 そんな場所のひとつに、旅館前に赤い橋がかかる群馬県四万温泉(群馬県吾妻郡)「積善館」がある。「四万温泉、沢渡温泉は草津の治し湯」といわれるように、酸性の強い草津温泉(群馬県吾妻郡)で傷を癒した後、荒れた肌を調整するために訪れた湯治場だというが、草津温泉からも40キロメートル近く離れている。

群馬県四万温泉「積善館」(kazukiatuko/PIXTA)

 四万温泉は関東から新潟へ抜ける木の根宿古道沿いにあるが、そこは道という名の尾根。行き来は登山の覚悟だ。道路が整備される前は健康体でも辛かっただろう道程。そこを、病人を負ぶって歩いてくる人もいたと聞き、近代医療以前の温泉の効能への尋常ではない信頼性を感じた。ちなみに、配膳や飲食、湯が流れ、木桶が転がる効果音は、草津温泉の「清重館」で収録したそうだ。

 八百万の神も、そんな効能を信じて湯屋を訪ねたのだろう。映画の中で、異臭を放つクサレ神が、湯屋を訪れるエピソードがある。誰もが嫌がったクサレ神への対応を任されたのは千(千尋)。実直にケアに当たった千は見事、クサレ神をもとの姿に戻し、湯婆婆らの信頼を勝ち取って、湯屋の中に居場所を作る。

 『千と千尋の神隠し』は、『となりのトトロ』(1988)と同じく子どもが楽しめるファンタジーだ。宮崎監督も、この映画を個人的な友人である10歳の女の子のために作ったと話す。でも、宮崎監督はこの映画を予定調和なものにしないよう、シビアな部分はシビアに描いた。その塩梅は、ままならない日常に疲れた大人をも惹きつけた、のではないか。湯屋で癒された八百万の神のように。

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