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『もののけ姫』が投げかける問いとは? スタジオジブリ作品の舞台を探して【国内編1】

永遠に答えを探し続けさせる『もののけ姫』からの問い

 森を侵す人間たちと自然を司る神々、人間と自然の共生を模索するエミシの青年・アシタカ、犬神に育てられながら人間である少女・サンら。中世を舞台に、尽きない戦いの果てに気づく未来を描いた作品が宮崎駿監督『もののけ姫』(1997)だ。不気味な神々や様々な形の戦いが描かれ、自然破壊や差別の問題も盛り込まれた一見重い作品ながら、約193億円の興行収入を記録した。

 物語の始まりは、アシタカが暮らすエミシの里を襲ったタタリ神。アシタカは、タタリ神との戦いでかけられた呪いを解くため、予言に従って西へ向かう。途中の村で略奪行為を働く野武士らと戦いながら。その姿は、まるで黒澤明監督『七人の侍』(1954)の志村喬か、三船敏郎。映像研究家・叶精二氏によると、宮崎監督はアシタカのキャラクターを、岩手県奥州市水沢(陸奥国胆沢)あたりを治めた蝦夷の族長アテルイの末裔とイメージしているようだ。

 アシタカは旅の中で、謎の男・ジコ坊から神々の住む森の存在を教えられる。また襲われて倒れていた男たちを助け、エボシ御前という女が治めるタタラ場(製鉄をする村)に滞在する。神の住む森やタタラ場の場所を、映画は明かしていないが、いずれも出雲(島根県)を想定して描かれているようだ。

奥出雲たたらの里(tenjou/PIXTA)

 島根県・奥出雲のタタラ場の記録は、古事記や日本書紀にも残っている。古来より製鉄がさかんだった理由は、炉を作る粘土や良質な砂鉄、燃料となる木が豊富に採れたから。だが、製鉄にはどれも膨大な量が必要なことから、奥出雲の山々が時間をかけて様相を変えていったという記録も残っている。自然がどんどん侵食されていくさまから、宮崎監督が山の神と人間の攻防の物語を発想したとしてもおかしくない。

 命を奪い与える大いなるシシ神(夜はディダラボッチになる)、300年の時を生きた犬神モロの君、イノシシらをまとめる齢500歳のオッコトヌシらが住む森のモデルになったのは、鹿児島県の屋久島だといわれている。宮崎監督は1995年に屋久島を訪れ、白谷雲水峡、西部林道、ヤクスギランド、縄文杉などを見学した。

屋久島白谷雲水峡(zzz555zzz/PIXTA)

 『もののけ姫』には、北と東の間にあるアシタカの生まれ育ったエミシの地、犬神を母と慕うサンらが暮らす西の森、森を侵食しながら石火矢(鉄砲)を作るエボシ御前率いるタタラ場、朝廷、朝廷の配下で暗躍するジコ坊属する師匠連、統率の取れない野武士を束ねるアサノ公方らが登場する。

 これだけでもかなりの情報量だが、人物の背景やどんな思惑を持つのかなど、その詳細は説明されない。説明する代わりに、屋久島がモデルとみられる森の生命力や、様々な立場の人間がそれぞれの事情で暮らすタタラ場の様子が丁寧に描かれる。解釈は観る者にゆだねられ、描かれたものを知れば知るほど、深読みできるように作られている。

 観た回数だけ発見がある本作。この興行収入は、たぶん多くの方がリピートした結果だろう。景気低迷による就職難な時代に、地に足をつけ、生きようとする登場人物のキャラクターも共感力が強かった。そうだ。作品のキャッチコピーも“生きろ。”だった。

【次回は『千と千尋の神隠し』『崖の上のポニョ』の舞台をめぐります!】

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