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『もののけ姫』が投げかける問いとは? スタジオジブリ作品の舞台を探して【国内編1】

 『千と千尋の神隠し』に『ハウルの動く城』、『もののけ姫』、『崖の上のポニョ』、『風立ちぬ』と、日本映画の歴代興行成績ベスト10にはスタジオジブリ作品が5本もランクインしている。こんな制作会社はほかにない。モデルとなった地域の物語を通じて、その魅力を探ってみよう。

バブル世代を包み込んだ『おもひでぽろぽろ』

 高畑勲監督の『おもひでぽろぽろ』(1991)は、東京に生まれ育った“田舎”のない27歳のタエ子が、山形の紅花農家で夏季休暇を過ごすうちに生き方を見つけていく物語。興行成績は約31.8億円。ヒロインの声を今井美樹が演じたことでも話題となり、1991年の日本映画の興行成績1位を記録した。

 時代背景は、算数が苦手な10歳のタエ子が生きる1966年と、27歳のタエ子が田舎への憧れから山形を訪ねる1982年のふたつ。1966年では「ひょっこりひょうたん島」など60年代文化が多感な少女の戸惑いとともに描かれ、1982年ではバブル景気を直前に控えた企業の日常や後継者問題が深刻化してきた農業が会社員のタエ子とともに描かれる。

 タエ子が手伝いに行く山形県山形市の高瀬地区は、船運を通じて室町時代末期より紅花の産地として知られている。早朝にたどり着いたタエ子が目の当たりにする「高瀬の紅花畑」は、この映画の見どころのひとつだ。

山形県高瀬地区の紅花畑(Tad Hayashi/PIXTA)

 高畑勲監督は何度もこの地を訪れ、紅花に関する農作業全般、村の様子や建物、有機農業や地域の結婚事情、劇中でタエ子も体験する紅花の絞り汁での染色まで取材し、それらを丁寧に描き込んだ。だから、収穫中は深夜遅くまで続く農作業や便利とはいいがたい古民家暮らし、そこで迷うことなく生きる“ばっちゃん”らに、タエ子が憧れるのもわかる気になってくる。

 タエ子は、あれこれ世話を焼いてくれる有機農業を始めたばかりの脱サラ青年・トシオと人気観光スポット「蔵王山御釜」に遊びに行く。その帰り道、農村の景色と蔵王を比べ、「これぞ本物の田舎よ」としみじみ言うタエ子に、トシオは「“田舎”の景色は、人間が自然との共同作業で作りあげたもの」と持論を語る。タエ子は「それで懐かしいんだ」と納得する。「生まれ育ったわけでもないのに、なんでふるさとっていう気がするのかずっと考えていたの」と。自然との共存――里山を愛した高畑監督の真骨頂がここで語られる。

山形県蔵王山からタエ子とトシオが見る御釜(Iris/PIXTA)

 鉄道ファンなら見逃せないのは、いまはもうない寝台特急あけぼの3号の発着シーンと車内の様子。リサーチのために何度も山形を訪れた高畑監督は実際に乗車して、早朝に山形入りしたこともあるそう。

 鉄道関連では、ラストの高瀬駅のシーンも印象的だ。このシーンの印象は、受け止め方によって異なる。少々ネタバレになるが、タエ子はお世話になった農家のばっちゃんからある申し出を受ける。その答えがこの駅で描かれるのだ。

トシオたちに見送られたタエ子が列車に乗り込む高瀬駅(やえざくら/PIXTA)

 幼い頃から納得のいく答えを得ない限り一歩も進めなかったタエ子。また、いい子ぶって人を傷つけた過去を深く恥じていたこともあり、彼女がいい加減な返事をしないことは予想できた。でも映画としての決着のつけ方もある。迎えたラストがどんな意味を持つのか、観客にゆだねられるシーン。

 自然への回帰――。エナジードリンクの“24時間戦えますか”のキャッチコピーが違和感なく存在した時代、人々は高畑勲監督の提唱する世界に飢えていたのかもしれない。

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