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ナウシカの「風の谷」はどこ? 宮崎駿監督作品の舞台を探して【海外編1】

 海外を舞台にした宮崎監督作品は、ファンタジーというよりSF的な作品が多いように感じられる。成長過程で見た風景でないにも関わらず、そこで描かれる世界はなぜか懐かしい。なぜ心を揺さぶられるのか? 代表作の舞台やそのモチーフと考えられている場所を探りながら考えてみよう。

『風の谷のナウシカ』風の谷と腐海はどこ?

 最終戦争によって文明は崩壊し、人間は瘴気を放つ腐海(ふかい)の森と、そこに棲む巨大昆虫・王蟲(おうむ)に脅かされながら暮らしている。マスクがなければ5分で肺が腐ってしまう環境汚染に苛まれながらも、侵略戦争を止めようとしない人間たち。海から吹く風によって腐海の毒の被害を受けずに済んでいる“風の谷”にも、大国トルメキアの脅威が迫りつつあった――。

 風の流れを読み、飛行具メーヴェを操って空を自由に飛ぶ、風の谷の族長の末娘ナウシカは、戦うヒロイン像を一新した。美しくて強いというフィジカルな部分だけでなく、つるまない、自分で判断する、命を貴ぶ、優しい、品がある、神秘的、慕われている、そして慕われていることを重荷に思わない、内面もスーパーなヒロイン。物語を追わず、ナウシカを見ているだけで、体に幸福感が満ちていく。

 宮崎監督は、『風の谷のナウシカ』(1984)のロケーションについて、こう発言している。ナウシカが守る風の谷のイメージを「中央アジアの乾燥地帯」、腐海のイメージをウクライナとクリミア半島の間にあるアゾフ海の「腐海(sivash)」にヒントを得て描いたと。

 中央アジアの乾燥地帯と言えば、中国・新疆ウイグル自治区のあたり。歴史的には“テュルク系言語を話す人々の土地”という意味の「トルキスタン」と呼ばれるあたりだ。「トルメキア」と似た国名なのは意識的なのかもしれない。風の谷にロケーションが似ている場所として、よくパキスタンの「フンザ」が挙げられる。フンザも中央アジアだが、ここをモデルにしているという記述はない。

パキスタンのフンザ(kouji/PIXTA)

 宮崎監督はカザフスタンやウェールズに足を運んだことがあり、風景的にも気に入っている旨、インタビューで答えているので、そのあたりの風景も取り入れているのかもしれない。

カザフスタンのコルセー湖(bbsferrari/stock.adobe.com)

 腐海があるアゾフ海は、黒海の内海。その干潟が腐海と呼ばれている。海の色が赤いのは、ドナリエラという藻の増殖によるものなのだそう。胞子が飛ぶ菌類の世界ではないが、夏になると異臭を放ち、人を拒絶する場所という意味では、映画に登場する“腐海”と似ている。

アゾフ海の腐海(Pavel Klimenko/stock.adobe.com)

 どちらも、映画のロケーションというより、その場所が周囲に与える影響などのイメージを参考にしたのではないかと思う。だからこそ、ナウシカが説く、「腐海の木々が空気をきれいにしている」「水と風は100年かけて自然を戻す」など腐海と人の共存方法が、しみじみ心に響くのだ。