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『MOTHER』大森立嗣監督インタビュー「なんとも分からない感情、それを撮りたい」

 17歳の少年による祖父母殺害事件に着想を得た映画『MOTHER マザー』(2020)。息子を歪んだ愛で支配するシングルマザー秋子を、今年、日本アカデミー賞の助演女優賞を受賞した長澤まさみが演じたことでも話題だ。そのほかの出演者として秋子の息子を新人の奥平大兼、秋子の内縁の夫・遼を阿部サダヲが演じている。監督は『ゲルマニウムの夜』(2005)や『さよなら渓谷』(2013)、『日日是好日』(2018)の大森立嗣。

周平(奥平大兼)と秋子(長澤まさみ) 『MOTHER マザー』TOHOシネマズ日比谷ほか全国公開中 (c)2020「MOTHER」製作委員会

 大森演出は、不思議だ。人物像を説明せず、トーンを落とした風景に溶け込ませておくが、ふと気づくとその輪郭は顕わになっている。そしてその頃には、我々はその人物が物語を生き切る様を見届けざるを得ない状況に立たされている。それは大森監督のロケーションの考え方、演出設計にも関係があるようだ。監督に話を聞いた。

無防備な人間そのものを描くために

大森立嗣監督『MOTHER マザー』TOHOシネマズ日比谷ほか全国公開中 (c)2020「MOTHER」製作委員会

――『MOTHER マザー』もそうですが、大森監督の映画では明解なキャラクター説明がありません。でも、いつの間にか人物が像を結んで立ち上がっている。ロケーションも、ここがどんな場所なのか、あえて観客が推測できない場所を選んでいるように思いました。撮影するにあたって、どんなこだわりを持ってロケ地を選んでいるのでしょうか?

大森 昔よくこだわっていたのは“ガードレールがない道”です。ガードレールは人を守るために作られたもの。それがないところでは、自分の身は自分で守らなきゃならない。そういう人間を撮りたいわけです。『ケンタとジュンとカヨちゃんの国』(2010)では、ガードレールのない道を求めて、結局、網走まで行かせてもらいました。

 山にも人を守っているような印象があります。だから『ゲルマニウムの夜』(2005)では、山が見えないロケーションを選びました。社会の何かに守られている存在ではなく、無防備な人間そのものを見せたかったので。『まほろ駅前多田便利軒』(2011)では、街なかでの撮影も経験させてもらった。でもやっぱり自分の原点があるとすれば、『ゲルマニウム』とか、『ケンタ』みたいな山がない風景なんですよね。

情報ではなく、感情としてのロケ地

ラブホテルで川の字になって寝る秋子たち『MOTHER マザー』TOHOシネマズ日比谷ほか全国公開中 (c)2020「MOTHER」製作委員会

――大森監督の映画には、よく海岸も出てきます。『MOTHER マザー』でも、事件を起こした遼が、秋子と周平を連れて逃げるところは海辺の町です。でも、それがどこであるのか、観客に意識させないロケーションですよね。

大森 内房で撮影しましたが、海と言われて観客がイメージする景色からとは意識的にズラしています。ロケハンに行くと、他の映画やドラマでも撮られまくっている、雰囲気のある場所を、よく紹介されます。でもそれは風景として汚れちゃっている気がするんですよ。

 海辺の町から走って逃げていくカットは、旅館のすぐ傍の広い道で、クレーン撮影しました。狭い路地へ逃げ込むのではなく、果てしないどこかへ行くというイメージです。

――意識的にズラすとはどういうことですか?

大森 たとえば、秋子と遼たちが落ち着くラブホテルのロケーション。傍に工場や畑があって、人の気配のない寂しい場所です。僕は、描く人間が持っている、なにかが見たくて、知りたくて、映画を撮っているので、それを映すことが一番。ここで、“いわゆる”ラブホテル的な情報はいらないんです。

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