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『ストーリー・オブ・マイライフ/わたしの若草物語』マサチューセッツで描かれた「女性の在り方」とは?

ルイーザ・メイ・オルコットと父ブロンソンの関係

 マーチ家の生活は貧しかった。そう説明されるが、見た目には大きな家に住む中流家庭のように思える。現実のオルコット家はどうだったかというと、厳格な超越主義者だった父ブロンソン・オルコットが、菜食主義、衣服や靴は亜麻布のみ、ランプや薪を使わないことを良しとし、その上、主義を理想とする私立学校の運営に失敗して財産を失ったため、生活維持に苦労していた。

 ブロンソンは、すべてのものに神が宿り、万物は平等を唱える超越主義者。理想を実現するために、哲学者のラルフ・ワルド・エマーソンや思想家のヘンリー・デイヴィッド・ソローらと「フルーツランド」(現在はミュージアム)にユートピア的コミュニティを創り、集団生活を始めるが7カ月で挫折。いったん友人宅に避難した後、フルーツランドからボストン寄りに約28キロ離れたコンコードに買った家がオーチャードハウスだった。

ブロンソンがユートピアを創ろうとしたフルーツランド (c)victorgrigas / CC BY-SA

 フルーツランド時代は特にそれが徹底されたため、寒さと食糧不足から冬を越すことが困難となった。いや、正確には母アビー・メイが子どもを連れて出ていくとブロンソンを脅したため、やむなくコミュニティを解散したのだ。このフルーツランドの建物は、劇中、長女メグが結婚して住んだ家として登場するのでお見逃しなく。

奥に見えるのがフルーツランドの家

 コンコードの家は、アビー・メイの実家からの遺産とエマーソンの援助で購入したもの。だが、つましい生活はそれほど改善されなかった。父親の理想に従わざるを得なかったルイーザ・メイら姉妹。普通なら猛反発しそうなものだが、そこには共感と理解があったのだろう。

 「若草物語」と本作の父は、家族に愛される博愛の牧師として描かれている。ただ、実際の父の生き方が、マーチ家4姉妹の結婚観に多大な影響を与えただろうことは想像に難くない。

監督が「若草物語」から読み取った女性の在り方とは

 本作の監督は、グレタ・ガーウィグ。女優でもあるガーウィグ監督は、ノア・バームバック監督の『フランシス・ハ』(2012)に脚本と主演で参加し、日本でもファンを増やした。

 脚本も手掛けた長編初監督作品『レディ・バード』(2017)ではアカデミー賞監督賞と脚本賞にノミネートされている。閉塞感を打開し、未来を切り拓くため、ニューヨークの大学へ進学を希望するも、それを認めない母親と衝突する “レディ・バード”の姿を描いた作品だ。レディ・バードがカルフォルニア州サクラメントで育ち、カトリック系の女子高に通っているのは、ガーウィグ監督と同じ。監督は自伝的な要素を盛り込んだと語っている。

 「若草物語」もルイーザ・メイ・オルコットの自伝的物語と言っていい。次女ジョーのモデルはルイーザ・メイ自身だ。ルイーザ・メイが小説家になったのは17歳の頃。ジョーは作家になるためにニューヨークに行くが、ルイーザ・メイが向かったのはボストン(ちなみにガーウィグ監督が行くのもニューヨーク)。教師や家庭教師、家事手伝いなどをして生計を立てていたが、家事手伝いで得る給金の何倍もの金額で原稿が売れることを知り、作家となった。13歳のときに立てた誓いを実現するためだ。

原稿を一枚一枚床に広げ、視覚的に見せたジョーの小説執筆シーン

 13歳のときの誓いとは、「父には生活の安定を、母には日当たりのいい居間を、姉には幸福を、病身の妹には看護を、末妹には教育を」自らの労働によって提供すること。そして実際、誰にも頼らず、それを成し遂げた。

 ただ、ルイーザ・メイは、正規の学校教育を受けていない。しかし、教育者でもあった父ブロンソンや、彼の仲間のエマーソン、作家ナサニエル・ホーソーン、女性政治家マーガレット・フラーら、アメリカ文化史に登場する人々から教えを受けた。19世紀にはかろうじて女性のための大学があったが、それ以外としてはかなりレベルの高い教育を受けたと言える。

フローレンス・ピュー演じるエミリーは、『ミッドサマー』鑑賞後だとさらに迫力満点!

 ガーウィグ監督とルイーザ・メイの共通点は他にもたくさんある。ガーウィグ監督も、ルイーザ・メイ同様、エマーソンの超越主義の考えを生んだユニテリアン派の教育を受けたこと。『フランシス・ハ』のフランシス、『レディ・バード』のレディ・バードをサクラメント出身にしたように、ルイーザ・メイも自分になにものかをもたらした土地を舞台にし、自身の体験を反映させていること。ガーウィグ監督は、かなりルイーザ・メイを意識しているのではないか。

監督が「若草物語」から読み取った女性の在り方とは

 ルイーザ・メイの人生と「若草物語」の違いは、結婚をしなかったことと、南北戦争に看護師として従軍したのは彼女自身だったこと。人生の後期は、亡くなった妹の子を引き取り、誰にも頼らず育てあげた。

 本作は、葛藤と経済力の物語だ。お金と芸術、愛のための犠牲と一度きりの人生、理想と現実――。きれいごとでは片づかない、現在も尽きない悩みが描かれる。少女の頃から「若草物語」を読んできたグレタ・ガーウィグ監督が、大人になった今、改めて読み取ったのは、「アーティストとしての女性の在り方。そして女性の経済力について」だという。

 ジョーはお金のため、編集者から言われるままに書く内容を変更する。それは「ヒロインを結婚させろ」という要請だった。ルイーザ・メイが逡巡したであろうその場面を、ガーウィグ監督は逆手に取って演出している。映画の終盤、ジョーが結婚へ至るシーンを注意深く観てほしい。ある仕掛けがあることに気づくだろう。

 とはいえ、結婚するのも、独身を通すのも、自身が選ぶこと。該当シーンも、観方によってどちらとも取れるように描かれている。どんなスタンスで映画を観ても、カタルシスが得られるように。

 「少女時代、私のヒロインはジョーでした。でも大人になった今、それはルイーザ・メイ・オルコットです」と、ガーウィグ監督は「ニューヨーク・タイムス」のインタビューに答えている。と同時に、「今まで作ったどの映画よりも自伝的」とも。オーチャードハウスが建つ「コンコード」とは、ラテン語で「心をともにする」という意味。宗教の自由を抑圧され、移民となってアメリカ大陸にわたった人々が付けた名前だ。

『ストーリー・オブ・マイライフ/わたしの若草物語』
大ヒット公開中
監督・脚本:グレタ・ガーウィグ 原作:ルイーザ・メイ・オルコット
出演:シアーシャ・ローナン、エマ・ワトソン、ティモシー・シャラメ、フローレンス・ピュー、エリザ・スカンレン
配給:ソニー・ピクチャーズ

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