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【映画で仮想旅行】名作で観る世界の美術館② 思惑と謎がアートを彩る

 考えることを止め、感じるのがアート。そして、感じたものを考え続けることが、人が生きるということ……。などと考える今日このごろ、アートが詰め込まれた「美術館」には、この答えを導き出すための要素や人間の生と歴史、そして思惑が交差しているように感じます。

 美術館がさまざまな映画監督を魅了するのもむべなるかな。引き続き映画を通じて、世界の有名美術館を見てみましょう。

ルーヴル美術館+『ダ・ヴィンチ・コード』

 ダン・ブラウンの世界的ベストセラー小説を、ロン・ハワードが監督したミステリー『ダ・ヴィンチ・コード』(2006)。ロケ地はフランスの「ルーヴル美術館」です。謎を秘めた殺人事件は、同館に展示されたカラヴァッジォ作「聖母の死」の前で起こります。

 被害者は同美術館の館長。ダ・ヴィンチが記した「ウィトルウィウス的人体」を模した裸の姿で亡くなっており、周りには不可解な暗号が記されていました。直前に会う約束をしていた宗教象徴学者のロバート・ラングドン(トム・ハンクス)と、館長の孫娘である暗号解読官のソフィ(オドレイ・トトゥ)は、捜査への協力を依頼されつつも疑われ、身の危険を感じて逃亡します。

 ルーヴル美術館の建物は、12世紀の要塞・ルーヴル城が原型です。14世紀後半には王宮に改築され、以後は数世紀にわたり増改築が繰り返されました。美術館の開館はフランス革命中の1793年。1980年代には当時のミッテラン大統領による「パリ大改造計画」で展示スペースを拡大。米の建築家イオ・ミン・ペイのアイデアによるガラスのピラミッドなどは1988年に、地下のショッピング・モールと逆ピラミッドは1993年に完成しました。

 そのピラミッドを初めて見て感動するラングドンに、ファーシュ警部(ジャン・レノ)は、「パリの顔の傷」と吐き捨てるように言います。当時のパリ市民には、そう思っていた方も多かったのかもしれません。

ルーヴル美術館のピラミッド。建設計画発表当時は抗議運動が呼びかけられたそう(spiritofamerica/stock.adobe.com)

 ダン・ブラウンの小説には、謎かけや比喩が多く、一瞬も気を抜いて読むことができません。映画もかなりの情報量。「一幅の絵画は千の言葉を語る」というラングドンの台詞のように、映し出されるものを注意深く観ていくことで、面白さが2倍、3倍と膨らむ作品です。

 「我々は過去を知ることにより、現在を理解できるのです」というラングドン教授の言葉をヒントに、スタート地点「ルーヴル美術館」から『ダ・ヴィンチ・コード』深堀りの旅を楽しんでみてください。

 ルーヴル美術館が登場する作品には、アンナ・カリーナらが手をつないで駆け抜けるシーンが印象深いジャン=リュック・ゴダール監督の『はなればなれに』(1964)や、「モナ・リザ」の謎に迫る日本のベストセラー小説の映画版『万能鑑定士Q -モナ・リザの瞳-』(2014)などがあります。

エルミタージュ美術館+『エルミタージュ幻想』

 90分ワンカットのカメラとともに、ロシア・サンクトペテルブルクの「エルミタージュ美術館」をさまよう幻想的な作品『エルミタージュ幻想』(2002)。案内人は1839年のロシア帝国時代にこの地を訪れたフランスの外交官、アストルフ・ド・キュスティーヌ伯爵(セルゲイ・ドレイデン)です。監督のアレクサンドル・ソクーロフ自身が語り部となり、エルミタージュで生きた人々と、時間を超えて出会い、さまざまな歴史を目撃していきます。 

 1760年代から美術品収集を始めたのは、夫のピョートル3世をクーデターで廃位させ、自身が女王になったエカテリーナ2世。神聖ローマ帝国ザクセン公国のブリュール伯爵コレクション、英貴族で初代首相ロバート・ウォルポールのコレクションなどを購入し、ラファエロやダ・ヴィンチ、ミケランジェロらの作品を手中に収めていきます。

外観だけでも圧倒されるエルミタージュ美術館(nikitamaykov/stock.adobe.com)

 この美術品収集には、西欧諸国にロシア帝国の財力を示す目的がありました。オスマン帝国と断続的に戦争を繰り返しても、これだけ躊躇なく美術品を買えると見せつけたかったわけです。当時の事情を理解するには、ドキュメンタリー『エルミタージュ美術館 美を守る宮殿』(2014)がもってこい。帝政ロシアの歴史と収蔵品の解説、そしてエルミタージュを愛し、未来へとつなごうと考える学芸員たちの熱い思いを確認することができます。

 『エルミタージュ幻想』には、さまざまな美術作品とともに、子どもたちをしつけるエカテリーナ2世や、ペルシア使節団を迎えるニコライ1世、女王アナスタシアらが時空を超えて登場します。そして最後は、大広間で圧巻の舞踏会。人々は終了後、三々五々に外へ出ていきますが、案内人のキュスティーヌ伯爵と別れた語り部が扉の外に見たものは……。

 作中のキュスティーヌ伯爵は、ロシア独自の芸術作品がないエルミタージュをあざ笑う素振りを見せます。しかし、そんな彼もまた、エルミタージュに魅了されていたと伝えられています。収蔵作品だけではなく、その存在自体が人を魅了するエルミタージュ。元は宮殿だった美術館の幻影に、ソクーロフ監督とともにからめとられてみてください。

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