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グザヴィエ・ドラン監督が「名所を見せない」理由とは?『ジョン・F・ドノヴァンの死と生』

 ロンドンの撮影でも、ほぼランドマークは登場しない。サムとルパートがいる場所は、イギリスの昔ながらの家屋の中やプライマリースクールの教室内、カフェやバスの中、オーディションを待つ子たちが並ぶ会場の階段などと、その多くが室内。それゆえ閉鎖的な印象を受ける。

閉塞感を打ち破ろうとするルパート、追う母

 だからこそ野外のシーンが印象に残る。ルパートが、母サムに内緒でオーディションを受けに出かけたときのシーンだ。容赦ない言葉で母親の弱さを指摘し、自分のたった一人の理解者、ジョン・F・ドノヴァンに寄り添いたいと言うルパートに、サムはオーディションを受けることを禁止する。子どもであるルパートがジョン・F・ドノヴァンに会うためには、アメリカで撮影される作品のオーディションに受かるしかないのに。

『ジョン・F・ドノヴァンの死と生』3月13日(金)より、新宿ピカデリー他 全国ロードショー 配給:ファントム・フィルム/松竹 (c) 2018 THE DEATH AND LIFE OF JOHN F. DONOVAN INC., UK DONOVAN LTD.

 オーディションの日、サムはルパートを追う。ついに見つけ、追いつきそうになるも、縦横無尽に行き交う人々に行く手を阻まれる。そんなシーンが、立体交差する道を使った縦の構図や、距離を取った奥行きのある構図で描かれる。

 この場所には既視感があった。『マイ・フェア・レディ』(1964)に登場するロンドン下町、市場のシーンだ。市場はセットだが、貧しくも自由を謳歌していたイライザ(オードリー・ヘプバーン)のいた場所だった。子どもゆえに自由にならないルパートが閉塞感を打ち破ろうとする姿を、貧しさゆえに閉塞した状況から抜け出せないイライザと、ロンドンの場面で対比させて描こうとしたのは考えすぎだろうか。

2016年のプラハに現れるルパートの“答え”

 そして2016年、成人したルパート(ベン・シュネッツァー)はジョン・F・ドノヴァンとの手紙を出版する。ジャーナリストのオードリー(タンディ・ニュートン)から取材を受ける場所は、チェコの首都プラハのカフェだ。

 ここでルパートは、取材するに足らないと考えるオードリーを、「求めるものは同じ。変化と衝撃。恐怖、無知、偏見をなくしたい」「性差別、人種差別、同性愛嫌悪。戦うのはあなた一人?」と論破していく。自分の本は、「一人の少年を救った男の物語」であり、あなたと同じように「“不寛容な時代”と戦っているのだ」と。

 印象的なのは、ジョン・F・ドノヴァンがルパートとの手紙でよくゴア・ヴィダルを引用し、幼いルパートもヴィダルの「スタイルとは自分自身を知ること」の言葉を信条としていたことだ。ゴア・ヴィダルとは、ゲイ解放運動の起きる1960年代以前にバイセクシャルをオープンにした小説家で評論家。“自分を知ることがスタイルを作る”。これは本作のテーマともいえる言葉となっている。

『ジョン・F・ドノヴァンの死と生』3月13日(金)より、新宿ピカデリー他 全国ロードショー 配給:ファントム・フィルム/松竹 (c) 2018 THE DEATH AND LIFE OF JOHN F. DONOVAN INC., UK DONOVAN LTD.

 プラハでのシーンもほぼカフェの中だけだが、ラストでようやく解放感が訪れる。柔らかな光をまとっているかのように描き出されたシーンは、ルパートが見つけた“答え”を象徴しているようだ。ニューヨーク、ロンドン、プラハ。三都をめぐりながらも観光地的な特徴を映さず、観客に一切解放感を与えずにいたのは、このラストのためだったのだ、と思う。

 その奇跡のシーンについて詳細に記すのはやめよう。ぜひ映画を観て確認していただければと思う。

『ジョン・F・ドノヴァンの死と生』
監督:グザヴィエ・ドラン 出演:キット・ハリントン、ナタリー・ポートマン、ジェイコブ・トレンブレイ、スーザン・サランドン、キャシー・ベイツ、タンディ・ニュートン
配給:ファントム・フィルム/松竹
3月13日(金)より新宿ピカデリーほか全国ロードショー

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