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映画が歴史ある商店街を救う? “日本最小のフィルム上映館”と藤棚シネマ商店街

 “日本一小さなフィルム映画館”こと「シネマノヴェチェント」(神奈川県横浜市西区中央2-1-8 岩崎ビル2F)。その周辺には藤棚商店街や古道・保土ヶ谷道の佇まいなどがある。

 「自宅から映画館までの行き帰りも含めて一つの映画体験」と語る「シネマノヴェチェント」代表・箕輪克彦さんの言葉通り、フィルム上映にこだわる昭和の香り漂う映画館が、この町に引き寄せられて誕生した理由が見えてくるようだ。また、映画館ができたことで町が得たものとは?

100年以上の歴史を持つ藤棚商店街(撮影:中山治美)

「シネマノヴェチェント」がお勧めする地元の味は?

 人が行き交う道には観光とグルメ有り。ということで、まずは箕輪さんにお勧めをうかがった。真っ先に上がったお店は、手作りさつま揚げで知られる「今井かまぼこ店」(横浜市西区中央2-5-13)。シネマノヴェチェントとは、2015年にコラボ企画「今夜は名画で、さつま揚げNight!」を開催したこともある店だ。

 あまりにも美味しそうだったので、店頭でさつま揚げ「はま焼き」を注文。ソースとおかかのかかったさつま揚げは、食べ応えのあるたこ焼きという感じで美味。横浜の街が描かれた包装紙がキュートだったので、お土産セットも購入した。ウィンナー巻やチーズ巻などバラエティに富んでいて遊び心もいっぱい。

左/「今井かまぼこ店」のはま焼き 右/イラストがかわいいお土産セット(撮影:中山治美)

 「シネマノヴェチェント」の来場者にもお馴染みのお店といえば、インドレストラン「ラスミ」(横浜市西区中央2-24-3)。アニメ『ラーマーヤナ/ラーマ王子伝説』(1993)の上映イベントなど、懇親会会場として利用しているそう。

親睦会の会場にもなる「ラスミ」(撮影:中山治美)

 なんと言っても魅力はお手頃価格で味わえる本場の味。シネマノヴェチェントより少し早い2014年オープンだが、共に他の地域から藤棚商店街にやってきたこともあって「同志のような存在」と箕輪さんはいう。

本格的なコーヒー専門店も登場

 そんな昔ながらの面影を残す商店街には、いま新たな店が続々オープン。その一つが西前日用品市場内にある自家焙煎のコーヒー豆専門店「405 COFFEE ROASTERS」(横浜市西区中央2-24-6)だ。

 オーナーの松浦真吾さんはもともと東京・世田谷でコーヒー専門店「ITTA COFFEE okusawa」を営んでいたが、2018年にここ地元へ戻って来た。店内には“コーヒーハンター”の名で知られる川島良彰さんが買い付けた生豆に独自の焙煎を施した「コーヒーハンターシリーズ」をはじめ、珍しい銘柄の豆がズラリ。

「405 COFFEE ROASTERS」オーナーの松浦真吾さん(撮影:中山治美)

 香ばしい香りに誘われて、テイクアウトでオーダー。「香りが立っているものを」と好みを伝えたところ、勧められた「ペルーラグリマ デ アンデス」は、「チェリーのような香りが楽しめる爽やかなコーヒー」と紹介されている。

 1杯1杯、松浦さんが優しくていねいに淹れてくれたコーヒーでさっそく一服。鼻腔を抜けるフルーティーな香りが、商店街を歩き疲れた心身を満たしてくれた。

地域と開催!「藤棚シネマ商店街」

 そこでふと目に留まったのが、地元・藤棚商店街全面協力で撮影された「シネマノヴェチェント」配給映画『カラオケや兆治』(2019)のチラシ。「405 COFFEE ROASTERS」もロケ地だった。

左/『カラオケや兆治』は地域活性映画として誕生した 右/商店街全体を使ったポスター展も開催(撮影:中山治美)

 シャッター通り化が始まっている藤棚商店街は、活性の起爆剤になればと、2015年の「シネマノヴェチェント」のオープンと同時に、映画を活用した取り組みを開始。2016年からは「藤棚シネマ商店街」と称して夏にイベントを開催し、商店街店舗を巡るスタンプラリーや、創業80年の銭湯「萬歳湯」(横浜市西区中央1-23-3)での上映会などを開催している。

創業80年の銭湯「萬歳湯」で「映画クレヨンしんちゃん 爆発!温泉わくわく大決戦」を上映(撮影:中山治美)

 街に一体感が生まれた効果か、「405 COFFEE ROASTERS」だけでなく、デザイナーが立ち上げたアウトドアショップ「DWPCMP DEVISE WORKS PRODUCTS」などオシャレな店も増えてきており、訪れる度に新たな発見がある。

横浜の発展を支えた古道と共に歴史を刻んだ場所

 新しい息吹を感じさせるこの町のベースには、多くの人々によって紡がれてきた歴史がある。それらが混ざり合ったところがまた魅力的だ。

 藤棚商店街も古道・保土ヶ谷道の一部として、歴史を刻んできた場所。保土ヶ谷道とは、港街・横浜の発展を支えたと言われる旧東海道、横浜道と並ぶ3古道の一つで、東海道五十三次の神奈川宿と保土ヶ谷宿を結んでいた。

京浜急行沿線ならではの光景が楽しめる「戸部」駅周辺(撮影:中山治美)

 曲がりくねった道は、昔ながらの道を舗装したのだろうと感じたが、足元を見ると保土ヶ谷道のサイン。

 また、「シネマノヴェチェント」の斜め前には、戦国時代末の天文期(1532~54)に建立されたと言われる「願成寺」(横浜市西区西戸部町3-290)が。京急「戸部」駅から藤棚商店街までの間には大己貴命(オオナムチノカミ)を祀る出雲大社の分霊、戸部杉山神社(横浜市西区中央1-13-1)もある。

左/保土ヶ谷道のサイン 右/「願成寺」は「シネマノヴェチェント」の斜め前に(撮影:中山治美)

 他に歴史遺産も多数あることから、横浜市は「西区歴史さんぽみち」と称し、散策を楽しむ案内サインやパンフレットを用意している。ちなみに願成寺の入口にある地蔵尊には、「映画の神しか信じない」と言う箕輪さんも、毎朝出勤前に1日の平穏と安全を願って手を合わせているそうだ。

 横浜市が、西区の魅力を再発見できる散策ルートとしてこの辺りを「温故知新のみち」と名付けているのが言い得て妙! “日本一小さなフィルム映画館”「シネマノヴェチェント」はその中心に存在している。

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