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【個性的すぎる映画館】原動力は映画愛! 日本最小のフィルム上映館「シネマノヴェチェント」

 映画『百円の恋』(2014)やドラマ「全裸監督」(2019/Netflix)の武正晴監督によるエッセイ「映画があってよかったなあ」(玄光社刊)の表紙を飾った映画館「シネマノヴェチェント」(神奈川県横浜市西区中央2‐1‐8)。客席数28席の“日本一小さなフィルム映画館”ながら、2020年2月で開館5周年を迎えた。

 特撮モノからアニメ、往年のにっかつ映画に落語寄席など、マニアックなプログラムと多彩なゲストによるトークイベントを用意し、超個性的な映画館は今日も我が道を行く――。

スターの絵看板が目印(撮影:中山治美)

代表は無類の映画好き

 横浜駅から京浜急行三崎口方面の普通列車に乗ること1駅で、戸部駅に着く。そこから住宅街をテクテク歩き、藤棚一番商店街に入ってから「顔成寺 藤棚日限地蔵尊入口」の案内を左に曲がると、スティーヴ・マックィーンから志村喬まで古今東西のスターの絵看板で飾られた煉瓦色の外観が目印だ。

 取材に行った時はちょうど外観の塗装工事中。建物がすっぽりブルーシートで覆われており、うっかり通り過ぎるところだった。「ただでさえ駅から来るのに分かりにくいと言われているのに(苦笑)。“場所が分からない”と言う問い合わせの電話がしょっちゅう来るんですよ」と同館代表の箕輪克彦さんは笑う。

シネマノヴェチェント代表の箕輪克彦さん。映写室には師匠の映写技師・鈴木文夫さんの写真が(撮影:中山治美)

 「シネマノヴェチェント」は2015年2月7日にオープンした。箕輪さんは日本大学映画学科出身の無類の映画好き。映像制作に従事したこともあるが、「作る才能はない」と感じて断念。それでも映画に関わる仕事がしたくて、「KAWASAKIしんゆり映画祭」の立ち上げにスタッフとして参加した。

 それをきっかけにシネマバー「ザ・グリソムギャング」を川崎市麻生区でオープン。週末にはトークイベント付きで自分の好きな映画の上映会を開催していたが、同館は建物の老朽化もあって2013年に閉館。新たな活動の拠点として開館させたのが「シネマノヴェチェント」だ。

劇場名はベルトルッチの『1900年』から

 劇場名は「好きな監督だった」と箕輪さんが言うイタリアの巨匠ベルナルド・ベルトルッチ監督『1900年』(1979)の原題から名付けた。元カラオケパブを居抜きで改装した館内には、賑やかな外観に負けじと様々なポスターが展示されている。

テーマごとに展示される映画のポスター。取材時はミュージカル映画特集(撮影:中山治美)

 これらはテーマを決めて、定期的に入れ替えられており、取材に訪れた時はミュージカル映画特集。昔のポスターは『メリー・ポピンズ』(1964)など主演俳優をドンと据え、イラストが多かったのも特徴だ。いずれも躍動感あふれるデザイン。心が躍る。

 さらにバーカウンターとトラットリアもあり、同所で行われるイベント後の懇親会では、箕輪さんが腕を振るった料理が並ぶ。

元カラオケパブの名残を感じさせるバーカウンター(撮影:中山治美)

 取材日は、同館でイベントを開催している赤木圭一郎ファンクラブの貸し切りで、基本的にワンオペレーションで劇場を切り盛りしている箕輪さんは映写に調理にと大忙し。

 「料理といっても、そんな大したものは出せません。この前も、恒例となった女優・高橋洋子さんのイベントの時に“こんなのじゃダメよ”と言われ、結局ご本人が厨房に立っておでんを皆さんに振る舞っていました(苦笑)。得意料理はボルシチ。牛肉は赤ワインに漬け込んで柔らかくし、野菜は全てオリーブオイルで炒めています」

往年の映画看板絵師の作品も

 同館では、外観、劇場鑑賞券、トイレの案内表示のブラッド・ピットとキャメロン・ディアスと、様々なところに映画スターの絵が描かれている。この作者は、茨城県水戸市で約60年にわたって市内全ての映画館の看板を手掛けた映画看板絵師・大下武夫さんだ。大下さんが趣味で描いたスターの肖像画を、無償で複写させてもらったのだという。

左/映画看板絵師・大下武夫さん 右/トイレの案内表示はブラッド・ピット&キャメロン・ディアス(撮影:中山治美)

 また、劇場の椅子は、2014年に閉館した映画館「吉祥寺バウスシアター」から譲り受けた。

惜しまれながら閉館した「吉祥寺バウスシアター」、その名残がここに!(撮影:中山治美)

 35ミリフィルム映写機は、イタリアの老舗映像機器メーカー、CINEMECCANICA社のもの。その映写室には、出張映画専門会社「鈴木映画」の初代社長・鈴木文夫さんの微笑む写真が、この劇場の守神のように飾られている。

「鈴木社長は『ザ・グリソムギャング』を立ち上げる時にお世話になった、映写技師としての僕の師匠ですから」

イタリアの老舗映像機器メーカー、CINEMECCANICAの映写機(撮影:中山治美)

漫画家も通った映写技師体験講座

 劇場に1歩足を踏み入れた瞬間から、映画のおもちゃ箱をひっくり返したかのようなお宝が至る所に隠れている館内。それを最も表しているのが上映プログラムだ。

 最近のラインナップだけでも、『ローマの休日』(1953)などの名作が並ぶ「名画吹き替えシリーズ」、中原俊監督『櫻の園』公開30周年を記念した35ミリディレクターズカット版上映、アニメ「クレヨンしんちゃん」の演出を20年以上続けてきたムトウユージ監督の生誕祭、落語家・三代目桃月庵白酒による映画と落語のコラボレーション寄席「千九百亭」(ちいひゃくてい)と独自性を発揮している。

 フィルム装填や映写実技などを体験できる「35ミリ映写技師体験講座」には、漫画家の本郷地下さんが参加したことも。その体験はコミック「明日、シネマかすみ座で」(KADOKAWA刊)に生かされた。

館内にはさりげなくお宝が展示されている。上のイラストは、イラストレーター・タムラフキコさんのもの(撮影:中山治美)

 ただ、苦悩もあると言う。

 「はっきり言って平日は開店休業状態。週末のイベント上映で生計を立てている状態です。つまり、週末に人が集まるイベントを打たなければならず、最初の頃は特撮をウリにしていたのですが、それもやり尽くした感がある。そこでアニメにシフトしたらアニメに特化しているワケじゃないのに“アニメシアター”と言われた。

 でも、好きなことをやっているという、川崎の『ザ・グリソムギャング』時代からの自負がある。“こういうイベントをやりたい”というファンの方の意見を聞いて、僕が具現化している感じです」

厳しいけれど…「好きでやっている!」の自負

 高橋洋子、和泉雅子、赤木圭一郎ら往年のスターにスポットを当てる企画も多い。

 「昭和も遠くなりにけりと、訃報が相次ぐ今、ご本人や関係者にお話を聴けるのは今のうちではないかと企画しています。実際にゲスト登壇予定の方が、当日体調を崩して来られなくなったということも度々あります。

 ただ、恒例となった方のイベントは別として、企画しても見事なまでにお客さんが来ない。同時代を生きた観客も高齢化し、イベントに参加しようと言うパワーが落ちているのかな。昨年秋口から年末にかけては、それをイヤと言うほど思い知らされましたが、なんとか細々と運営を続けていますけれど、ゆとりが欲しいです」

 さらに輸送費やフィルム映写機のメンテナンス代が高騰し、今年2月26日からフィルム上映作品の料金を改定。経営を維持するための試練は続く。

左/劇場を出る時はC・イーストウッドがお見送り。右/武正晴監督のエッセイ「映画があってよかったなあ」の表紙を飾った(撮影:中山治美)

 それでも続けられるのは「好きなことだから」とキッパリ。度々更新されるブログには、鑑賞作品の感想からその年のベスト10まで、この多忙な合間をぬっていつ観賞を!? と突っ込みたくなるほど細かく綴っているのだから恐れ入る。

 「僕らの時代は、映画館にいくこと自体が特別なことでした。電車を乗り継いで映画館に行き、鑑賞して、余韻に浸りながら家に帰るまでが一つの映画体験なんです。良くも悪くも、ウチの劇場で見た作品は忘れないですよ。それでいいんじゃないかな」

シネマノヴェチント
電話 045-548-8712
住所 神奈川県横浜市西区中央2-1-8 岩崎ビル2F
イベント予定 シネマノヴェチェントブログ@横浜

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