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『Red』三島有紀子監督インタビュー① 塔子と鞍田の道行きをロケ地で読み解く

 島本理生原作の「Red」が、『幼な子われらに生まれ』(2017)の三島有紀子監督で映画化された。同書を出版社は「『ナラタージュ』の著者が官能に挑んだ最高傑作!」とあおる。際、この物語を夏帆と妻夫木聡が演じると発表されたとき、センセーショナルな話題となった。

 空気を読めることが善とされ、モラルの規範が必要以上に厳しくなり、本心を見せづらくなっている現在、この作品がもたらすものはなにか? 映画の公式サイトに書かれる「あなたの“今”に問いかけてくる新しい“恋愛映画”。情熱、衝動、愛、危険、希望、あなたにとっての“Red”とは?」を、三島監督にうかがった。

『Red』2月21日(金)より新宿バルト9ほかにて全国ロードショー (c)2020『Red』製作委員会

Story:よき夫、かわいい娘、大きな家。誰もが羨む人生を歩んでいる専業主婦の塔子(夏帆)は、かつてアルバイトをしていた建築事務所の元社長・鞍田(妻夫木聡)と10年ぶりに再会する。塔子は当時、既婚者だった鞍田と人には言えない関係にあった。再会した鞍田と塔子は再び禁断の愛に堕ちていく…。だが、鞍田には“秘密”があった。現在と過去を交錯させながら描かれる塔子の人生と、誰も想像しなかった“選択”とは――。

行く先の分からないロードムービー

――「大雪の夜、車を走らせる男と女。先が見えない一夜の道行きは、ふたりの関係そのものだった」と本作を紹介文に書かれていますが、この映画では、雪から始まるロードムービーと、建物のなかの物語が対比で描かれています。まず雪をどのように捉えていましたか?

三島 私は、雪をいろいろなものを吸い込む存在だと思っています。自分自身が雪のなかに立ったときに感じるのは、削ぎ落とされていく感覚。純化されていくといいますか。その純化された状態に2人を放り投げ入れたいという思いがありました。

(c)2020『Red』製作委員会

――雪は、車を走り進めていくうちに少なくなっていきます。新潟から東京に帰るという設定ですので当然ではありますが。

三島 果たして2人はどこに向かっているのか……。現実に向かっているのかどうかも、途中からは分からないですよね。そういう意味で胆は旅のスタートの部分です。純化された世界に立ったとき、人間はどう感じるのか、2人に率直に表現させたかった。そして現実の世界へと戻る旅路へと車をスタートさせた2人が、ともに過ごしていくなかで、なおかつ選ぶ場所はどこなのかと。

(c)2020『Red』製作委員会

鞍田が酒蔵のリノベーションを手掛けた理由は?

――鞍田が手掛ける酒蔵リノベーションのロケ地として登場する、新潟県の「君の井酒造」での撮影はいかがでしたか? 鞍田は、なぜこのリノベーションを引き受けたのでしょう?

三島 鞍田は、最初に勉強したのが谷崎潤一郎の「陰翳礼讃」で、暗闇に少しだけ光が当たったところの綾に美しさを感じています。そういう建築家としてのベースがあって、きっとあの酒造にも足しげく通っていたでしょう。

 素晴らしい建築のなかで作られたお酒は、素晴らしいものに違いなく、この建築に人が集まることで、そのお酒をさらに知ってもらいたいという思いもあったと思います。だからこの造り酒屋のリノベーションを手がけたいと思った。「君の井酒造」をお借りしたのは、その「陰翳礼讃」を強く感じさせてくれ、それを映像で表現できる建物であったということが大きいです。

「君の井酒造」での撮影風景 (c)2020『Red』製作委員会

――君の井酒造さんでの撮影は大変でしたか?

三島 日本酒は大好きですし、日本酒がいかに繊細なものであるか分かっているので、生きている酵母菌のダメージにならないよう、本当に気を使いました。もう使っていない2階の部分を、残っていた道具などをおもにお借りして、鞍田ならこれらの道具を使ってどうリノベーションをするか、美術部と話しながら作り込んでもらいました。

 その過程で、美術部が2階部分を「舟のようだ」「木造船の操舵室にしたい」と言い出した。鞍田と塔子は、理想の家のエスキースを作るなかで、「窓から何が見えるのが理想的なのか」と話します。そんな鞍田なら、操舵室から見える風景を絵に描くんじゃないかと思いました。それが朝焼けの絵。彼がずっと見たかったのは、出会ったときに塔子が描いた、窓から見える水平線の風景だった。そんな気持ちがこのリノベーションの仕事に見えればいいなと。

豪邸に暮らす塔子の居場所は引き出しの中だけ

――塔子が夫である商社マン・真(間宮祥太朗)と娘、そして姑たちと住んでいる家は、ちょっと昔のラグジュアリーな感じのする“Theお金持ち”なお宅ですが、あの家を選んだのは?

三島 国立に実際にある、今はもう住まれていない邸宅で撮影させていただきました。外から見たときにレンガの塀に囲まれていて、窓が開かれておらず、堅城な外観。なかは非常に明るく白くて広いんだけれど、窓が少なくて庭に抜けていない。

 『パラサイト 半地下の家族』(2019)もそうですが、だいたい邸宅は庭との間は大きなガラス張りになっていて外に抜けているんですが、あの家は美術部が庭方向の窓をふさぐ壁を作ってくれました。

(c)2020『Red』製作委員会

――息が詰まるリビングですよね。

三島 そうです。たぶん塔子の場所は、きっとお手伝いさんのように常に立っている台所の、なおかつ片隅のあの引き出しのなかだけなんじゃないでしょうか。友だちからきた手紙など、自分のものはすべてあそこに入れてある。

 だから、エプロンや羽織るものもそこの近くに掛けてあるようにしました。寝室も基本的には真のスペースで、彼女のスペースは鏡台の引き出しくらいでしょうね。

――娘にも部屋があるのに塔子にはありませんね。なぜ塔子は真と結婚したのか?

三島 ははは(笑)。私のなかでは、10年前、鞍田さんとは「奥さんがいて結婚できない」となって別れた。奥さんはビジネスパートナーだったというのが我々の中での裏設定です。その後、結婚への欲求が高まった。塔子さんの家は母子家庭で、16歳のときに父親が出て行き、その後、お母さん(余貴美子)にもいろいろあった。多感な時期に塔子は、母親の“女の部分”を見てしまったのではないか、と想像しています。

 そうなったときにきっちり両親がいて、ちゃんとした家がある家庭が、理想的だと彼女は思ったのではないか。それが自分にとって、居心地のいい場所かどうかまでは深く考えずに、ということなのかなと。

幻影に導かれた塔子を誘い込む部屋

――もうひとつロケ地として印象的だったのが、真と訪ねたパーティー会場。ここで鞍田と再会します。

三島 旧細川侯爵邸の「和敬塾」ですね。建築家としての鞍田が立っていて自然に見えるところを探した結果です。以前、「和敬塾」でナイトミュージアムをやっていたときに見に行ったことがありました。あそこなら鞍田は、もしくは幻の鞍田かもしれませんが、佇むだろうし、坂口安吾の「桜の森の満開の下」じゃないですが、塔子が鞍田の幻影を見そうだなと。

――2階の窓、階段と、高低差をうまく使って関係性を見せる場面に引き込まれました。

三島 だだっ広い部屋ではなく、たくさん扉が並ぶアリスの迷路のように、幻影に導かれた塔子を誘い込む部屋。そしてアリスのように、塔子も穴に“落ちる”。そんなふうに撮ったつもりです。

『Red』
出演:夏帆、妻夫木聡、柄本祐、間宮祥太朗 監督:三島有紀子 原作:島本理生 脚本:池田千尋、三島有紀子 撮影:木村信也 音楽:田中拓人

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