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ガイドは地元マカオの監督!街歩きツアーで感じる映画業界の現状

 マカオ国際映画祭ではスターがレッドカーペットを闊歩する華やかな一面の裏で、マカオの新人監督の発掘、育成、PRにも力を入れている。マカオ作品の上映だけでなく、海外メディアとの交流の機会も増やした。その模様をレポートする。

地元監督とロケ地巡り「映画祭ゲスト向けツアー」

 今年はマカオ特別行政区成立20周年を記念して「20th アニバーサリー・マカオ・スペシャル・プレゼンテーションズ」と題して、マカオ製作の長編4作+オムニバス映画+短編2本を上映。

 加えて映画祭に登録申請したプレスや配給会社のゲストを対象に、マカオの映画監督と行くマカオ・ツアーが実施された。同様の映画祭参加ゲスト向けの観光ツアーは、他の映画祭でもロケ地誘致を目的によく行われているが、地元監督が参加する例は稀だ。

映画祭会場のマカオ文化センターに集まったマカオ・フィルム・メーカー・ツアーの参加者たち(撮影:中山治美)

 筆者のグループに同行したのは、生粋のマカオっ子であるトレイシー・チョイ監督。『姉妹関係』(2016)が第1回マカオ国際映画祭で観客賞と最優秀新人女優賞(ジェニファー・ユー)を受賞し、第12回大阪アジアン映画祭でも上映され出演女優のフィッシュ・リウに「来るべき才能賞」をもたらした逸材だ。

ツアー中に、スマホを使って自身の旧作を説明するトレイシー・チョイ監督。ここから新たな企画が生まれるかも?(撮影:中山治美)

 今回の映画祭では『Ina and The Blue Tiger Sauna』と『Year Of Macau』の2本のプロデュース作が上映されており、まさに今、マカオの映画界を動かしている中心人物でもある。

名所から感じる作品の世界

 コースは映画祭のメーン会場であるマカオ文化センターを出発し、まずはフランシスコ・ザビエルが東方にキリスト教を布教したことを記念して1928年に建てられた聖フランシスコ・ザビエル教会へ。

 一時期はザビエルの聖骨や、江戸時代に日本からマカオに逃れてきた殉教者たちの遺骨も納められていたという。まさにマーティン・スコセッシ監督『沈黙-サイレンス-』(2016)に通じる世界だ。

クリームイエローの外壁が愛らしい聖フランシスコ・ザビエル協会。一時期、サビエルの遺骨が祀られていたこともあるという(撮影:中山治美)

 続いて向かったのは、ポルトガル占領下時代、政府要人たちの住居を保存したタイパ村の「タイパ・ハウス・ミュージアム」。ペパーミント・グリーンの外壁とコロニアルスタイルの家屋は愛らしく、映画のロケにも使えそう。

コロニアルスタイルの住宅を保存した「タイパ・ハウス・ミュージアム」。ポルトガルの政府要人が住んでいた(撮影:中山治美)

地元グルメ解説も監督が担当

 さらに旧市街へ移動して、西欧の香り漂うリラウ広場周辺を歩きながらランチ会場であるポルトガル料理店「リストランテ・リトラル」へ。訪れた日は聖母マリア祭で、恒例のチャリティーウォークが開催されたこともあり地元客でいっぱいだった。

ツアー参加者全員で、ポルトガル料理店リストランテ・リトラルでランチ。シーフードリゾット(撮影:中山治美)

 ランチ中は、料理が提供されるたびにチョイ監督が「私たちのおやつ、バカリャウ(鱈の塩漬けの干物)のコロッケです」とか、「この店のアフリカンチキン(ポルトガル領時代、マカオに連れてこられたアフリカ兵由来のスパイシーな鳥料理)は有名で、美味しいんですよ」などなど、店員に変わって解説してくれた。

左/バカリャウ(干し鱈)のコロッケ 右/アフリカンチキン(撮影:中山治美)

 マカオは2017年にユネスコの食文化創造都市に認定されたほど食文化が豊かで、味に自信あり。中でも、中華系とポルトガル料理が融合して独自に進化したマカオ料理は必食だ。

聖ポール天主堂跡近くのマカオ式冰室「7バーガー」。右はポークチョップライス(撮影:中山治美)

マカオ文化センター近くのポルトガル料理店「ア・バイア」。右はエビのカタプラーナ(撮影:中山治美)

監督ならではのミニ情報を聴きながら

 約半日のツアーだが、個人で回るには不便な場所ばかりなのでありがたい。

 高さ338メートルのマカオ・タワーを通り過ぎた時には、チョイ監督によるミニ情報も。ちょうどタワーの上から強者がバンジージャンプに挑んだ瞬間に遭遇したのだが、「実は『Ina and The Blue Tiger Sauna』の撮影でも、女優に飛んでもらったのです。でも最終的にそのシーンはカットしたので、彼女はちょっと怒っていました」と。

 リラウ広場を訪れた際は、そこがジョニー・トー監督『エグザイル/絆』(2006)のロケ地だと知らせてくれて、ツアー参加者全員のテンションがアップ。

ジョニー・トー監督『エグザイル/絆』のロケにも使用されたリラウ広場。ガジュマルの大木が目印(撮影:中山治美)

 チョイ監督が同作の予告編をスマホで示しながら「アンソニー・ウォンが歩いていた通りはソコです」と通常のツアーにはない情報を提供。

マカオ映画業界の現状とは?

 そうして親睦を深めながら、リアルなマカオの映画業界事情も聞くことができた。行政の支援は手厚いが、マカオにはまだ撮影所がなく、どうしても映画を撮るとなるとオールロケとなる。

西欧の香り漂うコロアン村の並木道と昔ながらの店舗(撮影:中山治美)

 「撮影には協力してくれるのですが、街並みが魅力的な旧市街は観光客が多いので人止めができません。そうするとどうしても早朝や夜間ロケになりますね」とチョイ監督。

 またチョイ監督は、香港の映画会社との企画が進んでいるが、「逃亡犯条例」改正案に端を発した反対派の抗議活動が影響し、先行き不透明になってきたという。一方でアメリカの製作会社との合作企画もあるそうで、マカオの枠を超えて精力的に活動していることがうかがえる。

 チョイ監督らマカオで新しい波を起こそうとしている新進監督たちの活動を追うためにも「マカオ国際映画祭」を見守り続けたい。そんな思いにも駆られたのであった。

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