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釜山国際映画祭の父、キム・ドンホ氏82歳の挑戦! 映画と文学をテーマに江陵国際映画祭

是枝裕和特集とマスタークラス

 是枝裕和特集では『幻の光』(1995)、『ワンダフル・ライフ』(1998)、『万引き家族』(2018)など7作品が上映され、マスタークラスも行われた。

 この際、聞き手となったのが、今年、『彼らの最初と二番目の猫』でイ・サン文学賞大賞を受賞した、ユン・イヒョン氏。フェミニズム文学の旗手であり、日本でも先日発売になったアンソロジー「韓国・フェミニズム・日本」で短編「クンの旅」が紹介されている。

マスタークラスでのユン・イヒョン氏(左)と是枝裕和監督(写真提供:GIFF)

 是枝作品のファンだと言うイヒョンさんは以前、「富川国際ファンタスティック映画祭」のスタッフだったこともあり、映画にも造詣が深い。

 「私は映画が好きで、映画監督になりたいと思ったこともありました。でも、大きい声を出して大勢でわいわい仕事をするのは向いていなくて、小説を書くようになったんです」と言うイヒョンさんに、是枝監督は「大きい声が出なくても、映画監督になれますよ」と笑顔で即答。「僕は大学では文学を専攻していて、小説を書いてみたいと思っていたんです。映画も好きでしたけれど、当時、黒澤明監督が現場で大声をだしている番組を観て、これは無理だなと思った。でも、なれました(笑)」と答えていたのが印象深かった。

ヤン・イクチュン監督との再会を喜ぶ是枝監督(撮影:石津文子)

 国を越えた監督と作家との対話は素晴らしく、今後も続くことを強く望む。映画祭を通して、私自身も韓国文学への興味が高まった。「女性が書き、映画が記憶する」という『エンジェル・アット・マイ・テーブル』(1990)など女性作家を主人公にした映画特集もあり、最初の女性詩人を生んだ町らしいフェミニズム視点も来年以降、さらに期待できそうだ。

『夜の浜辺でひとり』のロケ地、江陵独立芸術劇場神栄で

 是枝監督のマスタークラスの会場となった江陵独立芸術劇場神栄は、ホン・サンス監督の『夜の浜辺でひとり』(2017)にも登場する有名な映画館で、市民の寄付によって運営されている。作品に出てくる映画監督と観客の対話を生で観ているようで、その点でも面白かった。

ホン・サンスの映画にも登場する江陵独立芸術劇場神栄のロビー(撮影:石津文子)

 江陵独立芸術劇場神栄では、昨年亡くなったフランスの映画評論家で監督、そしてカンヌ映画祭の選定員でもあったピエール・リシモンの追悼式も行われた。彼がいなければ大島渚もイ・チャンドンも、カンヌに選出されることはなかったと言われる重要人物で、女優のチョン・ドヨンもプライベートで出席していた。

 この時上映された『FIVE AND SKIN』(1981)はマニラを舞台にフランス人作家とアジア女性の迷宮のような恋愛を描いている。ヒロインはなんと『愛のコリーダ』(1975)の松田英子。彼女はこの作品を最後に引退し、日本では未公開となっているので、貴重な機会だった。

追悼会でのイム・グォンテク監督(右)とピエール・リシエン夫人(中央)(撮影:石津文子)

 また韓国を代表するベストセラー作家で、脚本も多く手がけたチェ・イノ(1945~2013)の特集では、『星たちの故郷』(1974)、『鯨とり』(1984)、『天国の階段』(1991)などが上映され、監督のイ・ジャンホ、ペ・チャンホと多くの作品に出演したアン・ソンギがティーチインを行った。

 他にも60年代、70年代の原作もの映画が上映されたがキム・スンオクの短編「霧津紀行」をキム・スヨンが映画化した『霧』(1967)のデジタル修復版が素晴らしかった。都会で出世した男と霧の街から逃れられない女性教師の虚無的な姿は、川端康成の「雪国」と同時に、成瀬巳喜男の世界に通じるものがあった。

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