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映画祭に大事なものとは? 第32回東京国際映画祭を振り返る

 日本で最も規模の大きな国際映画祭「第32回東京国際映画祭」(以下、TIFF)が、2019年10月28日から11月5日まで開催された。

第32回東京国際映画祭入り口(撮影:石津文子)

屋外上映で開かれた映画祭へ

 数年前からメイン会場の六本木ヒルズ周辺に加え、東京ミッドタウン前にある日比谷ステップ広場などで、無料屋外上映が行われている。2019年は、『この世界の片隅に』(2016)や『ボヘミアン・ラプソディ』(2018)、『トイ・ストーリー』シリーズ3本連続上映など人気作品が上映され、連休と重なったこともあり、これまで以上に家族連れなど多くの人を楽しませたように感じられた。

 「カンヌ国際映画祭」や「釜山国際映画祭」など海外の映画祭に参加したとき感じるのは、町をあげてのお祭り感だ。その要素のひとつが、このようなアウトドアでの無料イベント。TIFFに欠けているのはこれなのではないか、といつも感じていた。

 「カンヌ国際映画祭」も公式上映はパスか招待状がないと入れないが、ビーチでは毎晩、無料上映を行っていて、時にはクリント・イーストウッドのような大物が舞台挨拶をして市民を楽しませる。「釜山国際映画祭」ではその名も「オープントーク」という屋外トークイベントが名物で、誰でもその場で参加出来る。

 TIFFにはこういうオープンな雰囲気が欠けていると毎年感じていたのだが、近年は屋外上映や、ゴジラ生誕65周年記念イベント「ゴジラ・フェス 2019」のような通りがかりにふらっと参加できる催しも増え、開かれた感があった。映画祭は映画ファンのお祭りであると同時に、映画ファンになってもらうためのお祭りでもあるわけで、こうした試みは大いに歓迎したい。

屋外開催された「ゴジラ・フェス 2019」(撮影:石津文子)

若い世代の熱量ある作品

 さて、映画祭の主要部門、各国から14本がエントリーしたコンペティション部門の東京グランプリは、デンマークのフラレ・ピーダセンが、農場で暮らす姪と叔父の愛ある姿を静かに追う『わたしの叔父さん』(2019)が受賞した。

授賞式での『わたしの叔父さん』フラレ・ピーダセン監督ら (C)TIFF2019

 イランの麻薬戦争を刺激的に描いた新鋭サイード・ルスタイの『ジャスト 6.5』(2019)が最優秀監督賞と最優秀男優賞に輝いた。加えて、イラン映画はアジアの未来部門でも、これが長編第一作というレザ・ジャマリが超高齢化社会を寓話的に描いた『死神の来ない村』(2019)が国際交流基金アジアセンター特別賞を受賞。イランでは若い世代が確実に育っていることを印象付けた。

 ちなみに今年はイランの名匠アミール・ナデリが日本の若手俳優を招いて、TIFF マスタークラス「演劇論と俳優ワークショップ」を開催した。俳優、監督らが、後進の指導に熱心なナデリ監督に感謝の言葉を口にしていたのが印象的だった。

 日本からは、手塚眞が父・手塚治虫の官能的な漫画を稲垣吾郎、二階堂ふみで映画化した『ばるぼら』(2019)、足立紳の自伝的作品『喜劇 愛妻物語』(2019)がコンペティション部門に選出され、足立が最優秀脚本賞に輝いた。

『ばるぼら』の手塚眞監督(撮影:石津文子)

 いずれの作品も力作なのだが、ラインナップとして通して見ると、コンペとアジアの未来部門の特色にあまり差がないことが気になった。

 アジアの未来部門は、長編監督作が3本目までの新鋭に絞った8本。賞は逃したが、香港のM店難民と言われるホームレスの実態を、アーロン・クォックら大スターを起用して活写した『ファストフード店の住人たち』(2019)など、目を引く作品が多かった。一方コンペにも、新人らしからぬ力量を持った作品が多く並んだが、何を基準に選ばれたのかが明確に感じられない作品もあった。

アーロン・クォック主演『ファストフード店の住人たち』(C)Entertaining Power Co. Limited, Media Asia Film Production Limited ALL RIGHTS RESERVED

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