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激動の時代を象徴 第16回山形国際ドキュメンタリー映画祭を振り返る

過去から現在を見た特集プログラム

 過去を呼び覚ますことで今がより鮮明に見えてくる。それを実感するのが特集プログラムだ。筆者が足を運んだのは2つ。16作品が上映された特集「春の気配、火薬の匂い:インド北東部より」では、『ミゾ民族戦線:ミゾの蜂起』(2014)などインド北東部の少数民族の人たちが、インパール作戦や独立運動など複雑な歴史を辿りながら、どのように自分たちのコミュニティーと文化を築いてきたかが見てとれた。

『ミゾ民族戦線:ミゾの蜂起』のワンシーン(写真提供:山形国際ドキュメンタリー映画祭)

 6作品が上映された特集「ともにある Cinema with Us 災害とともに生きる ~ 台湾と日本、継続する映像記録運動」は災害とともに生きてきた台湾と日本の記録映像から、今起こっていることを考察するもの。台湾では1999年の921大地震と2009年のモーラコット台風で甚大な土石流災害が起こっているが、いずれも台湾原住民が暮らす山岳地帯で彼らは移住を余儀なくされた。

 一方の日本では、東日本大震災と福島第一原発事故で故郷を離れた人も多い。

小森はるか・瀬尾夏美監督『二重のまち/交代地のうたを編む』 photo by Tomomi Morita

 小森はるか監督、瀬尾夏美監督『二重のまち/交代地のうたを編む』は、市街地のかさ上げ工事で移転を余儀なくされ、変わりゆく岩手県陸前高田を目の前に、心揺れる人々の思いをすくいとったもの。

『二重のまち/交代地のうたを編』の小森はるか監督(左)と瀬尾夏美監督(撮影:中山治美)

 両特集とも、中央政権によって作り変えられていく中で切り捨てられていく文化や小さき声の、言葉にならない痛みが聞こえてくるかのようだった。

“今”をダイレクトに伝える「日本プログラム」

 そして“今”をダイレクトに伝えたのが、「日本プログラム」部門の土屋トカチ監督『アリ地獄天国』(2019)。ある引越し会社と、元社員による3年間にわたる壮絶な労使紛争は、格差社会がもたらした弊害が凝縮していた。

『アリ地獄天国』のワンシーン(写真提供:山形国際ドキュメンタリー映画祭)

 授賞式で「インターナショナル・コンペティション」部門の審査員たちは、YIDFF全体をも表するかのような総評を語った(以下、全文)。

 「我々審査員は、(コンペの)15本の映画を見ることで、その選択の豊かさと多様性がもたらす現代の世界のヴィジョンに、深く心動かされ、映画祭の期間を通して心を満たされることが出来た。拘束された人々、消された人々、声なき者たち、不在の者たち、女性たち、故郷を失った者たちに目を向ける映画たち……それは決して容易に映画として達成できるものではなく、映画作家たちはその表象のためのアプローチに多くのリスクを自らに課している。私たちが見て来たそんな映画たちは、映画というメディアには力があり、未だに世界を変えられる可能性を保持していることを、確信させてくれたのである」。

 そんな体験が出来る映画祭、それがYIDFFだ。2年後、また会いましょう。

「インターナショナル・コンペティション」部門の審査員を務めた(左から)ホン・ヒョンスク監督、撮影監督のサビーヌ・ランスラン、諏訪敦彦監督、オサーマ・モハンマド監督(撮影:中山治美)

第16回山形国際ドキュメンタリー映画祭(2019) 受賞結果 WEB
【インターナショナル・コンペティション】
●ロバート&フランシス・フラハティ賞(大賞)『死霊魂』(フランス・スイス)監督:王兵
●山形市長賞(最優秀賞)『十字架』(チリ)監督:テレサ・アレドンド&カルロス・バスケス・メンデス
●優秀賞『ミッドナイト・トラベラー』(アメリカ・カタール・カナダ・イギリス)監督:ハサン・ファジリ
●優秀賞『これは君の闘争だ』(ブラジル)監督:エリザ・カパイ
●審査員特別賞『インディアナ州モンロヴィア』(アメリカ)監督:フレデリック・ワイズマン
【アジア千波万波部門】
●小川紳介賞(最高賞)『消された存在、__立ち上る不在』(レバノン)監督:ガッサーン・ハルワーニ
●奨励賞『ハルコ村』(カナダ)監督:サミ・メルメール&ヒンドゥ・ベンシュクロン
●奨励賞『エクソダス』(イラン)監督:バフマン・キアロスタミ
【日本映画監督協会賞】
●アラシュ・エスハギ監督『気高く、我が道を』(イラン)
【市民賞】
●『死霊魂』(フランス・スイス)監督:王兵

山形国際ドキュメンタリー映画祭
1989年にアジアで最初に開催された国際ドキュメンタリー映画祭。当時の主催者である山形市の市制100周年記念行事として産声を上げ、以来2年に一度、山形で最も気候のよい10月に開催。インターナショナル・コンペティション部門、アジアのフレッシュな才能を紹介するコンペティション部門「アジア千波万波」ほか、映画製作の歴史や多様性に光を当てる特別プログラムやイベントを通して、世界の映画作家、山形市民、および映画ファンの交流の場となっている。

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