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激動の時代を象徴 第16回山形国際ドキュメンタリー映画祭を振り返る

 今年で創設30周年を迎えた山形国際ドキュメンタリー映画祭(以下、YIDFF)が2019年10月10日~17日、山形市中央公民館などで開催された。スクリーンに映し出される過去と今を見つめた作品群と向き合いながら、混沌とした時代を客観視する。都会の喧騒を逃れて心を整えるのに最適な8日間であった。

(左から)受賞したアラシュ・エスハギ監督、バフマン・キアロスタミ監督、ヒンドゥ・ベンシュクロン監督、エリザ・カパイ監督、テレサ・アレドンド監督、カルロス・バスケス・メンデス監督(撮影:中山治美)

8時間15分の大作『死霊魂』

 幕開けからして、激動の時代を象徴していた。2011年の東日本大震災以降、大規模災害が発生する頻度が上昇する中、今年は台風19号が到来。YIDFFでも山形入り出来ないゲストが続出し、トークイベントやシンポジウムが軒並み中止になった。フィンランド映画『サウナのあるところ』(2010、現在ロードショー中)と『起業家』(2018)の上映に合わせての期間限定フィンランドサウナも当初の予定より設営が遅れ、2日間のみの短縮営業。各地で大きな被害をもたらしていた台風だけに、安全には変えられない。

山形市民会館前に出現したフィンランド式サウナ(写真提供:山形国際ドキュメンタリー映画祭)

 台風19号が山形に接近していた最中に上映されたのが、インターナショナル・コンペティション部門でロバート&フランシス・フラハティ賞(大賞)と観客賞にあたる市民賞をダブル受賞した王兵(ワン・ビン)監督『死霊魂』(2018、スイス・フランス)。3部構成で、45分の休憩時間を2回挟んで上映された8時間15分の大作だ。

大賞と市民賞をダブル受賞したワン・ビン監督『死霊魂』(写真提供:山形国際ドキュメンタリー映画祭)

 同作は1950年代に中国共産党の反右派闘争で粛清され、ゴビ砂漠にある再教育収容所に送られた人たちの証言集。厳しい環境下で重労働が強いられ、病気や飢餓で命を落とした人が多数。生存者は約3200人送られたうちの約500人。取材は2005~2017年にかけて行われ、劇中に登場した人全員がすでに鬼籍に入っていることからこのタイトルが付けられている。

 王監督は、同じく第10回のYIDFFで大賞を受賞した『鳳鳴(フォンミン)―中国の記憶』(2007)でも収容所に送られた元新聞記者を取材し、初長編劇映画『無言歌』(2010)も再教育収容所が舞台。

王兵監督の8時間15分の大作『死霊魂』を完走した人たち(撮影:中山治美)

 『死霊魂』では、王監督が元収容所のあった場所を訪問すると、現地で亡くなった人の遺骨が地上に剥き出しになっている映像もあり、王監督が人生をかけて中国のタブーに斬り込んでいる理由を何よりも物語っている。同作の受賞理由について、諏訪敦彦監督ら審査員は「人間の本質に分け入っていく希有な叙事詩である。映画の本質に分け入っていく希有な叙事詩である。存在は最も強力な証拠である。映画が歴史を呼び覚ます」と評した。

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