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アイデアを書けば料金割引も!? 映画監督が尾道に作った宿「クジラ別館」

「尾道空き家再生プロジェクト」で物件を購入

 しかしなぜ、映像ディレクター&映画監督の森ガキ氏が宿の経営に乗り出したのか? そのきっかけは、森ガキ氏の長編映画デビュー作となる岸井ゆき主演『おじいちゃん、死んじゃったって。』が2018年4月、街唯一の映画館 「シネマ尾道」で上映され、舞台挨拶で訪れたことだった。森ガキ氏は広島出身。小さい頃に親と尾道を訪れたことはあったが、じっくり街を味わうのは大人になって初めて。斜面に建つ家々、高台から臨む瀬戸内の海や島々……。誰もがどこか懐かしさを覚える“日本の原風景”というべき風景に一気に魅了された。

森ガキ侑大氏(撮影:蔦井孝洋)

 「最初、尾道でクリエーターの制作拠点となる場所を作りたいな、と思ったんです。そんなことを『シネマ尾道』の方に話したら 『NPO法人尾道空き家再生プロジェクト』の方を紹介され、この物件を見せていただきました。こういう貴重な建物は後世にしっかりと残さないといけないな、と感じました。『その物件は人気物件です』と聞かされているうちに、あれよあれよ、という間に話が進んでいったんですよ」と森ガキ氏は笑う。

 その後、大規模なリノベーションを行い、日本家屋を昭和初期の雰囲気そのままに蘇らせた。普段は東京を拠点に活動していることから「シネマ尾道」が協力する形で宿の経営している。「クジラ別館」という名前の由来は、自身が所属するクリエーター集団「クジラ」の“尾道支店”という意味。宿のフロントを担当するのは「シネマ尾道」で、窓口で宿帳を記入し、鍵を受け取るというのもユニークだ。

宿のフロントの役割も果たす「シネマ尾道」(撮影:平辻哲也)

 森ガキ氏には「クジラ別館」が創造の場になってほしい、という強い思いがあり、ホームページにはこんな言葉を綴っている。「映画監督の黒澤明氏、小津安二郎氏は、映画の脚本を共同執筆する時に、旅館で缶詰になってシナリオを書き続けて、区切りがつくと仲間と雑談し、外に出て気分転換をしたようです。多くの著名な文豪も、お気に入りの旅館に缶詰になって執筆作業をして傑作が世に出ました。もしかすると、居心地の良い、いつもと違う空間を利用することが人の心を落ち着かせ、集中出来るのではないかと思います」

アイデアを書くと宿泊料金オフ!?

 既に業界の仲間も宿泊し、自身でも角田光代原作、柴咲コウ主演のWOWOWの連続ドラマ「坂の途中の家」の編集作業を行った。「儲かっているとは言えないですね(笑)。日本家屋は、夏は暑くて冬は寒い。光熱費は思った以上にかかります。10年も経てば、修繕費もかかるでしょうから。このままのペースで30年が経って、ようやくトントンじゃないですかね」と森ガキ氏。


上/以前のままによみがえった欄間 下/窓の木枠などのディティールも見ごたえあり。日本家屋好きなら必見の宿(撮影:蔦井孝洋)

 もちろん、宿泊客はクリエーターには限らない。日本らしい場所に泊まりたい外国人もいる。「いろいろなアイデアの生まれる場所にしたい」という思いから、ビジネスモデルや物語のプロットや没になった企画をノートに書くと、「2泊目から宿泊料金が1人3000円オフ」という試みも行っている。森ガキ氏いわく「世界初の“アイデアを買う宿”」。アイデアはノートに書き込む形のため、宿泊者なら誰でも見ることができる。確かに、ここに泊まれば、どんな人でも何かを作りたい・書いてみたいという思いをかきたてられそうだ。

尾道市×シネマ尾道コラボ企画にも参加

 森ガキ氏は2019年9月18日、「尾道市×シネマ尾道コラボ企画2019 vol.1」としてトークイベントに出演する。共演は『新聞記者』『デイアンドナイト』『青の帰り道』の藤井道人監督、『リミット・オブ・スリーピングビューティ』『チワワちゃん』の二宮健監督。今後も森ガキ氏は「クジラ別館」をベースに、クリエーター&アーティストの展示会やイベントなどさまざまな形で尾道を盛り上げていきたい考えだ。

クジラ別館 WEB TWITTER
住所 広島県尾道市東久保町12-11
1棟貸し料金:1泊2名 33600円~(税込)※料金は時期によって変動

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