「サヨナラ」から始まる物語~『ブエナ・ビスタ・ソシアル・クラブ☆アディオス』

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『ブエナ・ビスタ・ソシアル・クラブ☆アディオス』 2018年7月20日(金)TOHOシネマズ シャンテほか全国順次公開 (C)2017 Broad Green Pictures LLC

 1997年にリリースされたアルバム「ブエナ・ビスタ・ソシアル・クラブ」。アメリカ人ギタリストのライ・クーダーとキューバの老ミュージシャンによるビッグ・バンドは、同年のグラミー賞を受賞するなど高く評価された。これを受けて制作されたドキュメンタリー映画が『ブエナ・ビスタ・ソシアル・クラブ』(1999)だ。『パリ、テキサス』(1984)でクーダーと組んでいたヴィム・ヴェンダース監督は、キューバでの再レコーディングや海外公演の様子をフィルムに収めた。

 2000年1月の日本公開当時は、サブカルチャー好きが一斉に飛びついた。この前後は、ラテン文化への関心がひときわ高まっていた時期でもある。クラブではマンボやチャチャのリミックス曲が流れ、人気のファッションブランドは革命家チェ・ゲバラをフィーチャーし、ウォン・カーウァイ監督の『花様年華』(2000)ではナット・キング・コール版の「キサス・キサス・キサス」が深い印象を残した。

 そういった流行の一部として『ブエナ・ビスタ・ソシアル・クラブ』に触れた若者はみな、呆気に取られてしまう。

『ブエナ・ビスタ・ソシアル・クラブ☆アディオス』 2018年7月20日(金)TOHOシネマズ シャンテほか全国順次公開 (C)2017 Broad Green Pictures LLC

 粋とユーモアが服を着て歩いている90歳のコンパイ・セグンド。表舞台から遠ざかり貧困生活を送っていた“キューバのナット・キング・コール”イブライム・フェレール。老ミュージシャンのなかの紅一点として咲き誇る偉大な歌姫オマーラ・ポルトゥオンド……彼らを始めとする面々が、流行や時代のムードなどお構いなしに自分たちの音楽を奏で、キューバの歴史の中でスイングし続けていたからだ。息するように歌い、奏でる彼らを前にすると、誰もが自分をヨチヨチ歩きの子どものように感じたことだろう。「人生のことなんてまだこれっぽっちもわかっていなかった!」と。

 あれから18年、当時の若者が人生の折り返し地点に入ったいま、続編となる本作『ブエナ・ビスタ・ソシアル・クラブ☆アディオス』(2017)が上陸する。グループでのステージ活動に終止符を打つと決めたメンバーが、ついに最後の「サヨナラ(アディオス)」ツアーへ。本作はその勇姿とメンバーの生い立ち、音楽遍歴を探る内容だが、前作のメンバーは一部が他界した。挿入された葬儀のシーンからは、見送る者のつらさも感じるはずだ。

『ブエナ・ビスタ・ソシアル・クラブ☆アディオス』 2018年7月20日(金)TOHOシネマズ シャンテほか全国順次公開 (C)2017 Broad Green Pictures LLC

 けれど同時に、彼らがどうやって音楽と出会い、魅入られ、時に裏切られ、また愛されてきたのかを知れば、18年前の顔ぶれは暗に問いかけてくる。「この18年でお前はどう生きた?」「なにが変わった?」「なにを変えられた?」と。

 もちろん彼らは、呆れるほどなにも変わっていない。息をするように歌い、奏でる。それが人生だといわんばかりに。そしてその人生に感謝する。果たしてこれは、才能ある人々の特別な状況なのか? 日本では土台無理な話なのか? このまま年を重ねていいのか? 「老後」の文字が見えてきた世代にとって、この映画はなかなか重い球だろう。

 ただし、挽回は可能だ。人生は長い。足りないものがあるなら探せばいい。いまさら遅すぎることはない。1996年にキューバでアルバムを作った当時のライ・クーダーは49歳だった。彼を刺激したミュージシャンたちからすると、当時の彼は好奇心たっぷりの若造にすぎなかったはずだ。

 かくして本作は「アディオス」と言いながらも、鑑賞者に新たな旅をけしかける。それは物理的な移動を促すものかもしれないし、自身の内側の探索かもしれない。いずれにせよ、「したり顔で物事を語るにはまだまだ早い」と肝に銘じるしかないだろう。なぜなら、人生は長い。

『ブエナ・ビスタ・ソシアル・クラブ☆アディオス』 WEB
2018年7月20日(金)TOHOシネマズ シャンテほか全国順次公開

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