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映画界にも絶大な影響!? 『カーライル ニューヨークが恋したホテル』に学ぶ“何かが生まれる場所”

 米アカデミー賞にノミネートされたウディ・アレンが、受賞式をすっぽかしてライブハウスでクラリネットを吹いていたという逸話を聞いた時、『ハンナとその姉妹』(1986)で、アレンとダイアン・ウィーストがジャズを聴くシーンを思い出した。でもその場所が「カフェ・カーライル」だとは思いもしなかった。彼のカジュアルな装いと“カフェ”とつく名前から、日本のライブハウスのように数千円のチャージで楽しめるところだと思っていたからだ。

「カフェ・カーライル」にはローラ・ベナンティ、アラン・カミング、ジュディ・コリンズなども出演 『カーライル ニューヨークが恋したホテル』8/9(金)よりBunkamuraル・シネマ他全国順次公開 © 2018 DOCFILM4THECARLYLE LLC. ALL RIGHTS RESERVED.

 アレン監督が週に1回演奏していた「カフェ・カーライル」は、1930年創業の格式高い5つ星のクラシックホテル「ザ・カーライル ア ローズウッド ホテル」の中にあるジャズクラブだ。なんとチャージは145ドルらしい。マンハッタンはアッパー・イーストサイドにある、この多くの文化人、政治家、皇室関係者に愛されてきた超高級ホテルのドキュメンタリー映画『カーライル ニューヨークが恋したホテル』は、ニューヨークが大切にしてきたものを考えながら、しばし極上の夢を見ることができる作品。百聞は一見に如かずだが、紹介してみたいと思う。

映画業界・映画人にも絶大なる影響力

 常連宿泊客には、トミー・リー・ジョーンズやジェフ・ゴールドブラム、ナオミ・キャンベル、アンジェリカ・ヒューストン、ジャック・ニコルソン、ハリソン・フォードなど俳優も多い。ブロードウェイの伝説的女優、エレイン・ストリッチは晩年をここで過ごし、2014年にこのホテルで逝去した。その時、この映画の取材をしていた部屋の照明が一瞬落ちた。そうほのめかすだけではっきり語りはしないが、作品中この話を聞いたと思われる人の多くはいかにも納得した表情になる。ある者は、このホテルに「人の持つエネルギーを感じる」と言い、ある者は、ここに宿泊することで、かつてここに滞在した作家、テネシー・ウィリアムスやマーク・トウェインの「幽霊と交信する」と語る。

190の客室とスイートを有する名門ホテルはマンハッタンのランドマーク的存在 『カーライル ニューヨークが恋したホテル』8/9(金)よりBunkamuraル・シネマ他全国順次公開 © 2018 DOCFILM4THECARLYLE LLC. ALL RIGHTS RESERVED.

 『セックス・アンド・ザ・シティ』(2008)にキャリーとルイーズが飲みにいく店として登場する「ベーメルマンス・バー」は、ホテルのグランドフロアにある。ウィス・アンダーソンは、このバーで『グランド・ブタペスト・ホテル』(2014)のインスピレーションを得たという。バーの壁面には、かわいいイラストが描かれている。絵本「げんきなマドレーヌ」で知られる、ルドウィッヒ・ベーメルマンスの絵だ。双子の女児ら家族と同ホテルに住み込んでいたロベール・ユオ元総支配人が呼びかけ、1年半かけて描かせたのだという。

 絵は、マンハッタンの歴史も刻まれており、セントラル・パークで羊が牧草をはむ様子なども描かれている。それを見るだけにでもベーセルマンス・バーを訪れてみたいが、そこでカクテルを頼むといったいいくらになることやら。バーテンダーの記憶には、一晩で7000ドル飲んだ客がいたそうだ。ちなみに壁面の片隅には、ベビーカーに乗る双子も描かれている。

ルドウィッヒ・ベーメルマンスが手掛けた「ベーメルマンス・バー」の壁画。報酬は1年半の宿泊だったそう 『カーライル ニューヨークが恋したホテル』8/9(金)よりBunkamuraル・シネマ他全国順次公開 © 2018 DOCFILM4THECARLYLE LLC. ALL RIGHTS RESERVED.

 人々のエネルギーを閉じ込め、その熱気が夜な夜な亡霊とともに戻るホテルといえば『シャイニング』(1980)。本作に登場する、元総支配人だったロベール・ユオの双子の娘マリリーズ・ユオ・フルッサーとスザンヌ・ユオ・マッソーが、父の時代のカーライルについて語るのを聞くにつけ、ジャック・ニコルソンを通して、または実際にスタンリー・キューブリックがここに宿泊して、その双子のイメージを『シャイニング』に映したのではないかと思わせられた。そんなことがあっても、まったく不思議じゃないホテルなのだ。

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