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『天気の子』が記録する東京の様変わり 新海誠監督の鋭い時代感覚とは

 長い梅雨が続き、いい加減、晴れ間が欲しいと心から願うようになった7月後半、新海誠監督の新作『天気の子』が公開された。映画のモチーフは、誰もが憂いていた天候だ。このドンピシャ感。今後、時代を読んだ映画の話になったら、まず本作を思い出すだろう。

 大ヒットスタートした本作は、東京に家出した離島出身の高校生・帆高が、不思議な力を持つ少女・陽菜に出会い、常態化した異常気象に翻弄されながら、未来という“希望”を見つけようとするファンタジーだ。

『天気の子』大ヒット上映中 (C)2019「天気の子」製作委員会

帆高を受け入れる新宿歌舞伎町界隈の曖昧さ

 故郷を飛び出した帆高は、さるびあ丸に乗って東京湾に降り立つ。その船内で胡散臭い男・須賀に出会い、歌舞伎町から新大久保あたりと思われる彼の住居兼仕事場に転がり込む。

 本作のメイン舞台は、新宿の歌舞伎町あたりだ。映画の遠景に新海監督が好きだというビルで、『言の葉の庭』(2013)にも印象的ランドマークとして登場する、「NTTドコモ代々木ビル」が姿を見せている。とはいえ歌舞伎町、メガヒット作『君の名は。』(2016)の次回作の舞台としては、少しやさぐれている。ただし、やさぐれているからこそ多様なものを受け入れる余地が残されていた、ともいえる。住宅地であれば不審者となってしまっただろう帆高にも、留まる隙間が残されていた。やくざ者に絡まれることはあっても。

 帆高たちを受け入れる余地に、あの有名な“ぼろビル”も含まれていた。テレビドラマ『傷だらけの天使』で萩原健一と水谷豊が探偵事務所兼住居にしていた「エンジェルビル」こと「代々木会館」だ。2019年8月1日に解体が始まるこの場所は、最後に同ドラマをかぶりつきで見ていた世代の子どもたちをも受け入れる、という奇跡をプレゼントしてくれた。

8月から取り壊し工事が始まる「エンジェルビル」はJR「代々木」駅西口を出てすぐ右に(撮影:Avanti Press)

過去から未来へ――様変わりする東京を記録する

 東京オリンピック以前の東京は、水の町だった。唱歌「春の小川」のモデルも初台あたりから流れる河骨川だと言われている。水の町、東京の雰囲気を味わうには、夏目漱石、永井荷風、田山花袋らの東京を舞台にした小説がちょうどいい。主人公が川沿いを歩く様子が詳細に綴られている。幸田露伴の随筆「水の東京」もお勧め。まさに水と都市について書かれている。

『天気の子』大ヒット上映中 (C)2019「天気の子」製作委員会

 その様相が激変したのは、1964年のオリンピック前後に行われた大規模都市開発の時だ。多くの堀は道路になり、川を覆うように高速道路が作られた。歌舞伎町もまた2022年までに予定されている「新宿TOKYU MILANO」再開発計画によって、町の様子が大きく変わることになっている。

 代々木の廃ビルがなくなり、歌舞伎町も様変わる。新海誠監督は、水の町であった東京の痕跡、そして2020年のオリンピックで変わりゆく東京を、作品に描いておきたいと思ったのではないか。そんな気がした。

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