ツイート シェア

【日本の映画祭】サーフィンだけじゃない! 巨匠も愛した「映画のまち」で茅ヶ崎映画祭

 2019年で第8回を数える「茅ヶ崎映画祭」が、2019年も6月15~30日の日程で開催された。市内のシネコン「イオンシネマ茅ヶ崎」や公的施設のほか、カフェやギャラリー、ライブハウス、巨匠ゆかりの有名旅館 「茅ヶ崎館」なども上映会場となった。

会場の一つであるイオンシネマ茅ヶ崎(撮影:新井まり子)

小津監督や是枝監督……文化人に愛される名旅館

 サザンオールスターズや加山雄三、Suchmosなど、音楽のイメージが強い茅ヶ崎だが、意外にも映画とゆかりが深い。ひなびた半農半漁の村であった茅ヶ崎が“文化芸能のまち”となったのは明治時代に九代目市川團十郎が別荘を構えたことに始まる。日本人によって撮影された現存する最古の記録映画『紅葉狩』(1899)で主役を務めたのは、くしくも九代目團十郎であった。

 同じ頃、欧州公演から帰国した川上音二郎・貞奴夫妻が茅ヶ崎に本宅を構え、洋劇(翻訳劇)の上演に取り組む。夫妻が1902年に日本初の洋劇となるシェイクスピア作『オセロー』の稽古を行なったのは、今年創業120周年を迎えた旅館「茅ヶ崎館」である。

「茅ヶ崎館」の玄関(写真提供:茅ヶ崎館)

 昭和に入り、この旅館を仕事場として使用したのが小津安二郎監督。小津監督は1937年以来、“二番のお部屋”を仕事場として使用。『父ありき』(1942)、『長屋紳士録』(1947)、『風の中の牝雞』(1948)、『晩春』(1949)、『宗方姉妹』(1950)、『麦秋』(1951)、『お茶漬の味』(1952)、 『東京物語』(1953)、『早春』(1956)などの脚本がその部屋から生まれたことは映画ファンに知られている。

小津安二郎監督の仕事場だった「二番のお部屋」(撮影:石井正孝)

 また、「茅ヶ崎館」には『万引き家族』(2018)で、2018年にカンヌ映画祭における最高賞を受賞した是枝裕和監督も2007年以来、新作の構想を固めるために滞在している。同館はまた、映画のロケ地として『ハチミツとクローバー』(2006)、『ちはやふる -結び -』(2018)などで使われていた。8月16日に公開される、女優・樹木希林さん最後の出演作となった 『命みじかし、恋せよ乙女』(2018)の撮影は同館で行われた。

茅ヶ崎館 WEB
住所 神奈川県茅ヶ崎市中海岸3-8-5
電話 0467-82-2003

上映後のトークで深まる理解と感動

 監督や出演者などから作品に関するエピソードが直接聴けるのも映画祭の魅力。今回は2013年と2016年に続き是枝裕和監督が来場。上映作品である『歩いても 歩いても』(2008)は是枝監督が初めて「茅ヶ崎館」で執筆した脚本が基。この作品は樹木さんと組んだ初めての作品でもあり、上映後のトークショーでも樹木さんに関するエピソードが数多く語られた。

映画祭実行委員長の森浩章さん(左)と是枝監督(右)(撮影:小林鉄斎)

 是枝監督のほか、『あつい壁』(1970)と『新・あつい壁』(2007)の中山節夫監督、『MY☆ROAD MOVIE~チャリンコで自分探しの旅~』(2015)の角川裕明監督、茅ケ崎館で撮影を行った『3泊4日、5時の鐘』(2015)の三澤拓哉監督も登壇し、来場者との交流を深めた。

『MY☆ROAD MOVIE~チャリンコで自分探しの旅~』角川裕明監督と主演の保倉大朔さん(撮影:中原朝子)

左/『白石康次郎176日の航跡』は冒険家・九里徳泰さんと海洋写真家の矢部洋一さんが解説(撮影:Misa Hayashi) 右/『あつい壁』(1970)と『新・あつい壁』(2007)の中山節夫監督。観客席には『あつい壁』に出演した笠智衆さんの息子さん、娘さんの姿も(写真提供:西川豊子)

地元映画作家の作品も多数登場!

 地元の映画作家が多数参加しているのも茅ヶ崎映画祭の特徴のひとつ。今回は、茅ヶ崎在住の安田ちひろ氏が代表を務める『江ノ島シネマ』(2019)、おなじく市内在住の山本久美子氏の初監督作品『Diary』(2018)、茅ヶ崎の子どもたちが制作した『Hungry~見えない恐怖から逃げるゲートとカイジョ、どうなる?~』、『BATTLE IS IN VAIN』(2018)、市内の高校出身である三澤拓哉監督の作品『3泊4日、5時の鐘』(2014)の上映が行われた。

イオンシネマ茅ヶ崎で上映された『江ノ島シネマ』は前売り券が数時間で完売する人気だった(写真提供:江ノ島シネマ)

“おもてなし”のある上映会

 茅ヶ崎映画祭は、各回の担当者が上映したい作品を持ち寄り、定例会を経てプログラムを決定する。今回も社会派の作品からミュージカルまで多彩な作品が集まった。上映会ごとに素材の手配、会場の確保、ゲストのブッキング等を行うため、担当チームの負担は軽くはないが「この作品をより楽しんでもらいたい」という気持ちにも力が入る。映画の上映に伴い、各自趣向を凝らした企画が考えられている。小規模ならでこそできる “おもてなし”が楽しめるのも魅力のひとつである。

「ちがさきこどもシネマ(ckc)」の子どもたちが自ら企画した手作りのおもてなし(写真提供:chigasaki kodomo cimema)

左/『YUKIGUNI』の上映時には会場内の特設バーでタイトルになったカクテルを提供。シェイカーを振るのはバー「ペイネ」のバーテンダー、西宮さん(撮影:新井まり子) 右/『A FILM ABOUT COFFEE』の上映会では市内のコーヒー店「FLOWER COFFEE」によるスペシャルティコーヒーのテイスティングが行われた(撮影:Noriyasu Kunori)

サーフィンだけじゃない! 茅ヶ崎で訪れたい場所&食べたいもの

 茅ヶ崎最大の魅力は、やはり海。多くの文化人がこの地を訪れたのも海を求めたからにほかならない。1898年に開設された「茅ヶ崎海水浴場」は、1999年に「サザンビーチちがさき」に改称され、今年で20周年を迎える。シンボルとなっている「茅ヶ崎サザンC」はCの右側に人が立つとCの切れ目が繋がって円(縁)になるので”縁結びスポット”としても有名。

正面から撮影すると、Cの真ん中に「烏帽子岩」がおさまる(撮影:新井まり子)

 海のまちに来たら食べたいのが地元で獲れる魚介類。おなじみの鯵から他ではなかなか出会えないレアな魚までテーブルを彩る。

フレンチコースのメインとなるお料理から基本のお造りまで供し方も様々(撮影:新井まり子)

 茅ヶ崎の漁獲量の約8割を占めるのがしらす。なかでも鮮度が命なので水揚げ港の近くでしか食べられない「生しらす」は茅ヶ崎を代表する味覚。海が荒れると入荷しないため、お店で出会ったら是非食べておきたい。

地元では「釜揚げしらすの方が好き」という人が多いので、食べ比べるのもおすすめ(撮影:新井まり子)

 知る人ぞ知る名物が「すき焼き」。海の近くなのに不思議だと思われるかもしれないが、「茅ヶ崎館」の「カレーすき焼き」は小津安二郎監督が部屋で調理し、ごく親しいスタッフや俳優に振る舞った伝説の味。五代目当主の森さんに受け継がれている。

豆腐、白滝に割下と肉の出汁、そしてカレー粉がしみて、白ご飯と一緒にいただくと最高の締めとなる(撮影:新井まり子)

茅ヶ崎映画祭 WEB
2012年6月より神奈川県茅ヶ崎市で開催されている映画祭。キャッチコピーは「街と人がつながる、手作りの映画祭」。映画館やホールでの上映のみならず、市内の旅館や飲食店などを上映会場としているのが特徴。過去には美容室や保育園、ゴルフ場、海岸でも上映された。 茅ヶ崎映画祭実行委員会が主催している。

関連記事