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夏のパリで展開する「愛と喪」の物語 『アマンダと僕』ミカエル・アース監督インタビュー

 夏のパリ、緑あふれる公園で発生した無差別テロ。姉が犠牲となったダヴィッド(ヴァンサン・ラコスト)は、姉の娘アマンダ(イゾール・ミュルトリエ)とともに、悲しみと戸惑いの中へ放り込まれる。それでも続く日常のなか、ふたりと周囲が抱える様々な感情。ミカエル・アース監督が脚本も手掛けた『アマンダと僕』は、絶望から希望へ続く道を探す叔父と姪を描いたヒューマン・ドラマだ。だが、そこに「かわいそうな人々」を際立たせる視線はない。

 「脚本はまずひとりで書き、その後に共同脚本家と強調する部分などを話し合います。いずれにしても私は、平凡な日常をもとに書いています。本作にある愛や喪の話はみなさんが経験するようなことであり、そこに叙情を加えたイメージです。観客がすぐにわかることを描きたいので、大掛かりな話にはあまり興味がありません」

(c) 2018 NORD-OUEST FILMS – ARTE FRANCE CINÉMA 6月22日(土)より、シネスイッチ銀座、YEBISU GARDEN CINEMAほか全国順次公開

 物語が進むにつれ、観客はまるでダヴィッドとアマンダの友人や親類のように、ふたりを見守る気持ちになるだろう。そして、彼らとおなじところで堪えきれない悲しみや絶望があふれ、一方ではおなじところで勇気や力強さを感じる。

 「登場人物の近い友人だと感じてもらえることは、とてもうれしいコメントです。私は映画制作において、住居に対する住み心地の良さのように『居心地が良い』と感じてもらえるように考えています。
 私は映画によって世界の見方を観客と共有できると考えています。たとえば、私が思う人生や世界との関係を映画で表現することによって、観客が『孤独感とはこういうものか』などとわかってもらえれば、それが最上です」

 作品を通じて存在する『居心地の良さ』はおそらく、撮影場所のチョイスも一因だろう。本作に登場する場所はいずれも、監督が「私とパリの関係にできるだけ素直でいるために、好きな場所や自分が育った場所などを選んだ」結果だ。このため、本作で描かれるパリに外国人が思う「華やかさ」はあまり見受けられず、様々な人生が展開するリアルな生活の場となる。そこで唯一「夢のように」描かれる場所は、作中で乱射テロが発生した架空の公園だ。「(2015年のパリ同時多発テロ事件と)おなじテロを描くことは、実際の被害者を考えると不適切だと思った」と監督は続ける。

 「テロ発生直後の光景はダヴィドの目を通して映し出されますが、彼は見た瞬間に何が起こったかを理解できず、情報が脳に届くまで時間がかかります。だから、ある意味では夢のような、現実離れしているかのように描きました。
 このシーンを描くことは私にとって重要です。私の映画はよく『抑制的』とか『慎み深い』といわれますが、だからといってここでテロのシーンを見せないことは『間違った慎み深さ』だと思いました。また、見せないことは逃避になってしまいます」

(c) 2018 NORD-OUEST FILMS – ARTE FRANCE CINÉMA 6月22日(土)より、シネスイッチ銀座、YEBISU GARDEN CINEMAほか全国順次公開

 芝生の上に横たわる犠牲者たち。ダヴィッドはその様を茫然と見つめ続ける。そこに見える血の赤は強烈な印象を残すと同時に、平和な日常のすぐ隣にも暴力がたしかに存在する事実を観客に突き付けてくる。しかし全体のトーンは、けして重苦しいものではない。たとえば、登場人物たちはよく自転車に乗って、パリの街を颯爽と駆け抜ける。夏のパリが持つ生命感を感じるシーンだ。

 「作品のテーマがとても深い悲劇なので、自転車を使うことである種の息吹、メロディを吹き込む意図がありました。描かれる暴力性を観客が受け入れやすくするための『気泡』を作ったのです。パリには、大きな建物もあれば集合住宅もあり、緑や公園もあります。そうしたものすべてが共存する都会の風景を描きたいと思いました」

(c) 2018 NORD-OUEST FILMS – ARTE FRANCE CINÉMA 6月22日(土)より、シネスイッチ銀座、YEBISU GARDEN CINEMAほか全国順次公開

 アース監督はもちろん、生まれも育ちもパリだ。長く経済を学んだが、就職時に「映画業界を経験しないと一生後悔する」と考え、大胆な方向転換を決めた。映画監督は子どものころからの夢だった。

 「私の子ども時代を考えると、悲しいことですが、パリはとても変わりました。どこにでもある都会になってしまった。また、テロによっても変わっています。どこにいっても金属探知機があったり、カバンの中身を検査されたり、街には軍服姿の軍人がいたり。さらには、物価の高騰によって富裕層しか残れない状況です。ただ、パリが持っている精神は変わっていないと思います」

 その精神は作中に描かれているのだろうか?

 「いいえ。私は本作で『パリがこうだ』と言う気はまったくありません。作品に描かれたものはあくまでも私のまなざしであり、好きな場所と好きな人たち、そして共通の連帯感のようなものを撮ったのです。
 この映画では悲劇が起こります。ですが、最終的には光が差して、まったく希望がない状況ではありません。そして、『暴力には意味がない』という最後で終わります。それが私の伝えたかったことでもあります」

(c) 2018 NORD-OUEST FILMS – ARTE FRANCE CINÉMA 6月22日(土)より、シネスイッチ銀座、YEBISU GARDEN CINEMAほか全国順次公開

 本作は言うなれば「あるパリ市民が語る、ある市民たちの物語」である。このどこにでも存在する、愛と喪の物語を観賞する私たちは、監督の話に耳を傾ける友人にもなれるだろう。「たとえばこんな話がある」と語られるパリの断片。そこで覚える親近感は、パリという場所への興味にもつながる。夏の日に起こった悲劇、ぬぐい切れない悲しみと絶望、乗り越えようとする連帯感、そして最後に差す一筋の光。悲劇に見舞われながらも「暴力に意味はない」と言える人々が暮らす街は、今年も美しい夏を迎えている。

ミカエル・アース
1975年2月6日、フランス・パリ生まれ。経済学を学んでいたが、卒業後は国立の映画学校に入学。数本の短編映画を制作した後、監督として本格的な活動を始める。『Charell』(2006)がカンヌ国際映画祭批評家週間に選出され、『Memory Lane』で長編デビュー。『アマンダと僕』は長編3作目となり、2作目の『サマー・フィーリング』(2015)も2019年7月6日から日本全国で随時公開される。

『アマンダと僕』 WEB
監督・脚本:ミカエル・アース 共同脚本:モード・アムリーヌ 撮影監督:セバスチャン・ブシュマン 音楽:アントン・サンコ 出演:ヴァンサン・ラコスト、イゾール・ミュルトリエ、ステイシー・マーティン、オフェリア・コルブ、マリアンヌ・バスレー、ジョナタン・コーエン、グレタ・スカッキ 2018年/フランス/107 分/ビスタ/原題:AMANDA 提供:ビターズ・エンド、朝日新聞社、ポニーキャニオン  配給:ビターズ・エンド 6月22日(土)より、シネスイッチ銀座、YEBISU GARDEN CINEMAほか全国順次公開

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