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若手育成の場としても注目! アヌシー国際アニメーション映画祭に見る海外アニメ文化

 世界最大級のアニメーション映画祭、第43回アヌシー国際アニメーション映画祭が6月10日〜15日にフランスで開催された。今年は20年ぶり2度目となる日本特集が組まれ、長編コンペティション部門に湯浅政明監督 『きみと、波にのれたら』、原恵一監督 『バースデー・ワンダーランド』、櫻木優平監督 『あした世界が終わるとしても』、新設されたContrechamp(コントラシャン)部門に渡辺歩監督 『海獣の子供』が選ばれた。

 いずれも受賞には至らなかったが、この映画祭を賞云々だけで語るのはもったいない。若手育成の場として、プログラムとシステムが充実しており、これが映画祭に活気を生んでいるのだ。

945席のメイン会場ボンリューは、いつもほぼ満席。とにかく客層が若い!(写真:アヌシー国際アニメーション映画祭)

アヌシーが作る、若手育成の場としての映画祭

 スイスのジュネーヴ空港から車で国境を越えてフランスに入ること約1時間。抜群の透明度を誇るアヌシー湖に面した街に入ると、ワールドプレミア上映される『プレイモービル:ザ・ムービー(英題)/PLAYMOBIL:THE MOVIE』(日本公開未定)の巨大オブジェや 『トイ・ストーリー4』(7月12日公開)、 『アナと雪の女王2』(11月22日公開)の看板がお出迎え。いまやアヌシーは、ハリウッド・アニメのフランス公開に向けた重要なプロモーションの場。一見、ほかのメジャー映画祭と変わらぬ印象を受けるが、ここにはスターがレッドカーペットを闊歩するような派手なイベントはない。

 代わりに用意されるのは、『アナと雪の女王2』のアニメーターとエフェクト・アニメーションのそれぞれトップ、ベッキー・ブレジーとマーロン・ウエストのサイン会やAmazonやワーナーといったメジャー・スタジオが制作過程にある新作アニメをお披露目するプログラム「ワーク・イン・プログレス」。

左/映画祭期間中は連夜、市内の数会場で野外上映を実施。『スパイダーマン:スパイダーバース』には22時15分からの上映にも関わらず多くの観客が詰めかけた 右/『アナと雪の女王2』ヘッド・アニメーターのベッキー・ブレジー(写真右側)と、ヘッド・エフェクト・アニメーションのマーロン・ウエストのサイン会(ともに写真:アヌシー国際アニメーション映画祭)

 巨匠を招いた「マスタークラス」や、「ワーク・イン・プログレス」はまさに生きた授業で、イメージイラストや絵コンテを惜しみなく公開する。中でも、今年の名誉ゲストとしてアニメーター・小田部羊一氏を迎えた「マスタークラス」に参加した時の光景は、壮観だった。日本の神話を題材にしたファンタジー映画『わんぱく王子の大蛇退治』(1963)で空飛ぶ白い馬「天早駒(アメノハヤコマ)」のキャラクターデザインを手がけた際、「関節は描かず、曲線だけで空を自由に飛べることを表現したかった」と振り返った小田部氏。

 スクリーン上にそのイメージイラストが表示されると、客席中でスケッチする人たちが続出したのだ。小田部氏がアニメーション時代考証を務めるNHK朝の連続テレビ小説「なつぞら」(毎週月〜土曜あさ8時ほか)で、ヒロイン・なつは先輩の作画を模倣することが、上達への何よりの道であることを教えられていたが、それを実践する会場の様子は、まさにリアル「なつぞら」のようだった。

「マスタークラス」で、『わんぱく王子の大蛇退治』の「天早駒」のイメージイラストをバックに説明する、今年の名誉ゲスト、アニメーター・小田部羊一(中央)(撮影:中山治美)

 メジャー・スタジオを巻き込んだ企画、その象徴たるのが、今年、登録者数が1043人となった学生や若手アニメーターとAmazonやNetflixら大手スタジオとの就職面接の場「リクルート」と、会期中に行われる 「ディズニー・アート・チャレンジ」などのコンテストだ。

 「ディズニー・アート・チャレンジ」は、ディズニー・フランスとフランスのアニメーション学校ネットワークRECA、アール・リュディック美術館らが共同で行っている学生向けのグラフィックアートコンテストで、例年、お題に沿った作品を募集。今年のテーマは『トイ・ストーリー4』の公開に合わせて“命を得たおもちゃ”。上位入賞者には奨学金が贈られる。

今回で7回目となる「ディズニー・アート・チャレンジ」。『トイ・ストーリー4』の公開に合わせて今年のテーマは「命を得たおもちゃ」(写真:アヌシー国際アニメーション映画祭)

日本をテーマに若手を育成

 映画祭では、会場の内装やポスターも若手アーティストの実習の場。公式作品上映前には、学生による日本をテーマにした短編も連日日替わりで流され、観客を楽しませた。

左/映画祭のメイン会場ボンリューは日本特集に合わせた内装で観客をお出迎え 右/ジャパンとアヌシーを合わせた子ども向けイベント「JAPANNECY(ジャパヌシー)」で行われた囲碁講座。漫画「ヒカルの碁」(原作:ほっゆみ/漫画:小畑健)は海外でも人気(ともに撮影:中山治美)

 短編映画を制作したのはフランスの名門アニメーション学校ゴブランの学生たち。彼らの優秀さは、Netflixが会期中、ゴブランとの提携を発表したことでもわかる。Netflixは、研究生プログラム「Netflix Animation Fellowship」として毎年、同校卒業生1名を、Netflix東京オフィスのオリジナルアニメ制作チームに招くという。さらに奨学生プログラム「Character Animation Scholarship Program」として、今後4年間にわたり、年間最大10名のアフリカ在住の学生に、同校の大学院プログラムで学ぶための奨学金を支給し、学習の機会を創出するという。

Netflixオリジナルアニメーション バイス・プレジデントのメリッサ・コブ(左から2人目)、Netflixコンテンツ・アクイジションディレクター(日本)ジョン・ダーデリアン(左から3人目)、「Netflix Animation Fellowship」に選出されたクレア・マッツ(右から2人目)(写真:Netflix提供)

 メジャー・スタジオからテレビ、学生の卒業制作まで長短編500本以上が上映される。同映画祭の常連で今回短編部門の審査員を務めたアニメーション作家・山村浩二監督は「作り手にとって、こんなに刺激になる映画祭はない」と語る。

フランスプレミア上映されたポノック短編劇場『ちいさな英雄‐カニとタマゴと透明人間‐』(2018)のアフタートークでは、百瀬義行監督らが原画をもとに作品解説を行った(撮影:中山治美)

左/テレビアニメ「スポンジ・ボブ」(1999〜)誕生20周年を記念した上映イベントも開催され、プロデューサーのヴィンセント・ウォーラー(左)と同マーク・チェッカレッリ(右)が登壇した(写真:アヌシー国際アニメーション映画祭)右/ステージ上で明かされたオリンピック短編アニメーション共同制作発表の様子(撮影:中山治美)

グランプリ受賞は“虎の穴”出身!

 今回、長編コンペティション部門で最高賞に選ばれたのは、ジェレミー・クラパン監督『アイ・ロスト・マイ・ボディ(英題) / I Lost My Body』(2019・フランス)。クラパン監督は過去、3本の短編を引っさげて本映画祭に参加しており、いわばこの“虎の穴(映画祭)”出身者。『アイ・ロスト・マイ・ボディ』は、今年のカンヌ国際映画祭の新人を対象にした批評家連盟週間で、グランプリを獲得し、Netflixが即座にお買い上げしたことで話題に。凱旋したアヌシーでも最高賞と観客賞の2冠を達成するとは! 成長し続けるアニメ産業において、アヌシーの注目度はますます高まりそうだ。

長編コンペティション部門の最高賞と観客賞をW受賞した『アイ・ロスト・マイ・ボディ(英題) / I Lost My Body』の 舞台挨拶の様子(写真:アヌシー国際アニメーション映画祭)

アヌシー国際アニメーション映画祭 WEB
世界で最も長い歴史を持つアニメーション専門の国際映画祭。1960年にカンヌ国際映画祭からアニメーション部門を独立させる形で創設された。多彩な作品上映に加え、国際見本市や企画マーケット、ワークショップなどさまざまなイベントが実施される。過去に宮崎駿や高畑勲、山村浩二、湯浅政明など日本人監督も多数グランプリを受賞。日本特集を組まれるなど、日本作品は注目を集めている。

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