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「抵抗と挫折」の末に残る激情 『COLD WAR あの歌、2つの心』

 ほぼ平地という地理的要因により建国当初から侵略を受け続けた国、ポーランド。歴史書には「抵抗と挫折」のフレーズが頻繁に登場する。アンジェイ・ワイダ監督の「抵抗三部作」を通じて、この国を知った映画ファンも多いだろう。『COLD WAR あの歌、2つの心』が始まる1949年は冷戦初期、ソ連の間接統治を受けていた時代にあたる。

『COLD WAR あの歌、2つの心』6/28(金)よりヒューマントラストシネマ有楽町、ヒューマントラストシネマ渋谷ほか全国順次公開

 舞踏団の養成所で恋に落ちた歌手のズーラとピアニストのヴィクトル。ふたりのラブストーリーは時間とともに場所を変えて展開する。亡命を企てたヴィクトルのもとにズーラが現れなかった東ベルリン。2年後に再会するパリ。ヴィクトルから二度目の再会を求めたが失敗に終わるユーゴスラビア。ズーラから求めた再会が果たされ、短い同棲生活と再度の破局を迎えるパリ。そしてまた再会するふたりの祖国、ポーランド。

 出会いから十年以上、ふたりは衝動に突き動かされ、近づいては離れる。出会ったときも、愛を交わすときも、亡命を決めたときも、再会を果たしても、彼らは互いの存在に揺さぶられている。そこで冷戦がもたらす状況は、ふたりに「抵抗と挫折」を強いるが、完全な「介入」だけは許されない。東西にわかれた恋人たちが従う“イデオロギー”とは、互いの存在によって生まれる激しい衝動だけだ。そうしてふたりは十年以上を駆け抜けながら、離れられない運命と、ひとつになれない宿命を何度でも確認しあう。だからこそ、本作のタイトルは『COLD WAR』であり、またふたりのことなのかもしれない。

『COLD WAR あの歌、2つの心』6/28(金)よりヒューマントラストシネマ有楽町、ヒューマントラストシネマ渋谷ほか全国順次公開

 史実を(観方によっては)完全な「背景」とする作品の日本公開が、このところ相次いでいる。ポーランド映画の『メモリーズ・オブ・サマー』(2016)は冷戦後期の物語だが、描かれているものは母の不倫疑惑に揺れる少年の姿だ。冷戦終結直後の混乱に見舞われた旧東独が舞台の『希望の灯り』(2018)も、スーパーマーケットで働く人々を淡々と描いた。また、ホロコースト経験者の老人が故郷ポーランドを目指す『家へ帰ろう』(2017)は、ホロコースト当時の悲惨さを越えて「いま向き合うべきもの」に重きが置かれている。

 出来事は思い出と記憶になり、やがて歴史になる。存在していた理不尽な状況はさておき、当時の心情、現在に続くその普遍性を読み解くアプローチは、人が前に進むために必要な作業とも考えられるだろう。本作の冒頭と最後に登場する廃墟の教会は、その象徴にも見えてくる。「抵抗と挫折」を繰り返したふたりは、朽ち果てて天井まで落ちた建物のなかで、なにを確認するのか。

 本作はクロアチアとフランス、そしてポーランドで撮影された。廃墟の教会はポーランド国内、スティーヴン・スピルバーグ監督作『シンドラーのリスト』(1993)が撮影されたクラクフから約300キロ離れたクニャジェ(Kniazie)に位置している。映画撮影前から有名な場所だったらしく、地名で検索すれば教会の画像や映像を多数確認できる。また、クニャジェはワイダ監督作『灰とダイヤモンド』(1958)で主人公マチェクを演じたズビグニェフ・ツィブルスキの出身地だ。

『COLD WAR あの歌、2つの心』6/28(金)よりヒューマントラストシネマ有楽町、ヒューマントラストシネマ渋谷ほか全国順次公開

 ワイダ監督がときに検閲と闘いながら祖国の苦難そのものを描いた時代から、その末に残るものを描く時代へ。残ったものについて考える作業は、外国人である私たちにとっても有意義だろう。いまだ不穏な空気が流れる世界で、人間をここまで生きながらえさせたものとはなにか。繰り返される絶望のなかで、人間が唯一信じ続けたものはなにか。そのうちのひとつは、廃墟の教会でふたりが見たものかもしれない。「抵抗と挫折」の先を追い続ける国の映画はいまも変わらず、さまざまな気づきに満ちている。

COLD WAR あの歌、2つの心 WEB
監督:パヴェウ・パヴリコフスキ 脚本:パヴェウ・パヴリコフスキ、ヤヌシュ・グウォヴァツキ 撮影:ウカシュ・ジャル 出演:ヨアンナ・クーリク、トマシュ・コット、アガタ・クレシャ、ボリス・シィツ、ジャンヌ・バリバール、セドリック・カーン 2018年/ポーランド・イギリス・フランス/原題:ZIMNA WOJNA 配給:キノフィルムズ 6月28日(金)よりヒューマントラストシネマ有楽町、ヒューマントラストシネマ渋谷ほか全国順次公開

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