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テルコとマモルの気分でゾウと対面 『愛がなんだ』ロケ地を歩く②

 『愛がなんだ』は角田光代原作のある種の恋愛映画。マモちゃん(マモル)への絶望的な片思いを続行中のヒロイン、テルコと、彼女の周囲にある同じようにままならない恋や社会的状況を描いている。なぜこの映画がこんなにヒットしているのか? 映画が撮影されたロケ地を歩きながら、考えてみることにした。

 絶望的な片恋を描いて大ヒット! 『愛がなんだ』ロケ地を歩く①

マモルが「好きな人」のために選ぶ店は

 前回紹介した「酔の助」はマモルのテルコへの思いが、映像としてシビアに表現される場面だ。もちろんおいしい居酒屋さんだが、好きな人のためにマモルが選ぶ店は、麻布十番にある洒落たレストランとなる。撮影されたのは 「BISTRO CRESTA」。映画の中の業態設定とは多少異なるものの、お洒落な店であることには違いない。描かれる背景で、マモルの思いが分かってしまう。

『愛がなんだ』マモちゃんが片思いするすみれ(江口のりこ)(c)2019映画「愛がなんだ」製作委員会

炭焼き肉が絶品の「BISTRO CRESTA」(撮影:Avanti Press)

 マモルに呼び出され、彼が片思いするすみれ(江口のりこ)と3人で食事をしたテルコは、すみれをラップでこき下ろしながら一人帰宅の途に就く。このシーンは、BISTRO CRESTAのすぐ近く、 「網代公園」の周辺で撮影された。堂々巡りのテルコは、公園を取り囲む回廊のような道をぐるぐる歩く。挙句の果てに自分自身に「ざまあみろ」となじられる。それでも、テルコはその迷宮から抜け出そうとはしない。むしろ一層深みに入り込んだようにすら思える。

テルコが自分自身になじられる「網代公園」(撮影:Avanti Press)

 テルコと逆の結論を選ぶのは、テルコの親友である葉子(深川麻衣)に恋するナカハラ(若葉竜也)。ナカハラは、「マジ誰でもいい」って気持ちの時、「いつでも(葉子に)呼び出してもらえるようなところにいたい」と言う。しかし、ある日彼は、「俺じゃなくてもいい、誰でもいいっていうのが正直もう辛いんすよ。俺、本当に好きなんすよね、葉子さんのこと」と断腸の思いで彼女から離れ、カメラマンとして精進していくことを選ぶ。

 そしてついに開いた個展、そのシーンが撮影されたのが東京都国立市のキッチン付きギャラリー・イベントスペース 「room 103」だ。各種の個展やジャズのリスニングイベントなどが開催される多彩なスペースとして運営されている。

『愛がなんだ』ナカハラ(若葉竜也)の存在に救われるの声も (c)2019映画「愛がなんだ」製作委員会

キッチン付きギャラリー・イベントスペース「room 103」(撮影:Avanti Press)

 オーナーは同ビル1階にある古道具 「LET EM IN」。アンティークショップの商品は、アーティスティックで趣味がいい。「room 103」は、催しのない時はクローズしているので、ぜひイベント開催に合わせて訪れたい。人生の新しい展開も待ち受けているかもしれない。

仕事をさぼってゾウを見に行く

 さて、ロケ地を辿るなら外せない場所が千葉県の 「市原ぞうの国」だ。ほとんどのロケ地が東京都内なのに、ここだけ千葉。訪れるなら、一日がかりで遊びに行くことをお勧めしたい。

 アクセスは都内・横浜から高速バスを使って市原鶴舞バスターミナルで下車、電車ならJR五井駅から小湊鉄道に乗り換え高滝駅下車が便利。どちらも「市原ぞうの国」まで無料送迎バが出ている。小湊鉄道には トロッコ列車 も走っているので、こちらもぜひ体験していただきたい。

左/風情ある無人駅・高滝駅 右/小湊鉄道の車窓から美しい田園風景が広がる(撮影:Avanti Press)

 ちなみに高滝駅周辺には、ダム湖である高滝湖、その湖畔に建つ 市原湖畔美術館などの多くの観光スポットもある。高滝駅で レンタサイクルを借りて、自転車でめぐるのも楽しい。

高滝湖畔に建つ「市原湖畔美術館」(撮影:Avanti Press)

 「市原ぞうの国」の始まりは、動物プロダクションなのだそう。所属するタレントの動物の中には、売れっ子さんも、なかなか出番のない子もいるため、仕事のない期間が長くなると人見知りになってしまうことから、人馴れしてもらうためにも動物園を兼ねることを思いつかれたのだという。

『愛がなんだ』ふたりは仕事をさぼってゾウを見に行く (c)2019映画「愛がなんだ」製作委員会

 現園長の坂本小百合さんは、2005年に公開された柳楽優弥主演『星になった少年』の原作「ちび象ランディと星になった少年」の著者でもある。タイに留学し、日本人初の象使いとなった少年の短い生涯と小象ランディとの友情を描いたこの感動作は、坂本さんと息子さんの実話でもある。市原ぞうの国にうかがうと、果たしてランディの姿が! いまも人気者だった。

大人気のランディくん。ゾウは大きすぎて撮影が難しい(撮影:Avanti Press)

 さらにおかあさんゾウのマミーとたわむれる、2019年1月生まれのら夢(らむ)ちゃんのかわいい姿も見ることができた。おかあさんゾウが直に子育てするのは、日本の動物園では珍しいのだそう。まさにリアル『ダンボ』の世界!

生まれたばかりのら夢ちゃんとおかあさんゾウのマミー。ふたりとも少しもじっとしていない(撮影:Avanti Press)

 『愛がなんだ』では、一緒に象を見に行ったマモルが檻の前で、33歳になったらゾウの飼育士になるという夢をテルコに語る。それを聞きながら、はからずも泣いてしまうテルコ。涙の意味については、映画をご覧いただきたいが、その場面で彼女が心の声として語る涙の理由は、果たして本当に“愛”ゆえんなのか?

テルコがここで想像した未来とは?(撮影:Avanti Press)

 ゾウは、ラストシーンにも登場する。その見せ方、画は印象的。今泉監督曰く、ファーストシーンのテルコのクロースアップと合わせて、「群盲象を評す」の図なのだそう。テルコが追っていたものとは、なにか? もはや恋愛ではないのではないか? それまでずっと近視眼的描かれてきたものが、最後になぜか壮大なものとして感じられる。

 それは、たとえ間違っていようとも、結論は誰かに委ねるのではなく、テルコ(または観客)が決めるものだとし、映画が善し悪しをジャッジしないからだろうか。そして、それがある種の心地よさと新しさを醸す。なんだか『愛がなんだ』、恐ろしい映画だ!

『愛がなんだ』 WEB
全国にて公開中 配給:エレファントハウス 岸井ゆきの、成田 凌、深川麻衣、若葉竜也、片岡礼子、筒井真理子/江口のりこ 監督:今泉力哉  原作:角田光代「愛がなんだ」(角川文庫刊) (c)2019映画「愛がなんだ」製作委員会

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