ツイート シェア

奇跡をすくい取り、時空を超えて行き来する電車 『嵐電』井浦新インタビュー

 国内外の観光客を魅了する京都。どの季節もすごい人出で、混雑の余り市民が路面バスに乗れないなどという観光都市ならではのニュースも聞こえてきます。そんな京都の、洛西エリアを1両、または2両編成でコトコト走るのが、嵐電こと京福電気鉄道嵐山線・北野線。とても絵になるこの電車をモチーフにした映画が、鈴木卓爾監督の『嵐電』です。

『嵐電』監督:鈴木卓爾、音楽:あがた森魚、出演:井浦新、大西礼芳 2019年5月24日(金)よりテアトル新宿、京都シネマ、6月7日(金)よりテアトル梅田、6月21日(土)よりシネ・リーブル神戸にて以降全国順次ロードショー

 電車のフォルムのせいなのか、周りの風景や歴史がそう感じさせるのか、嵐電に乗っていると、しばしば時間や存在を超越した不思議な感覚に襲われることがあります。『嵐電』は嵐電が走る町で出会い、共鳴する、世代の異なる三組の男女の恋と愛の運命を、ファンタスティックに描いています。主人公は、嵐電にまつわる不思議な言い伝えを取材しようと、沿線に部屋を借りるノンフィクション作家の平岡衛星。演じるのは井浦新さんです。

井浦新(いうら・あらた)1974年東京都生まれ。ARATAの名前でファッションモデルとして活躍。是枝裕和監督『ワンダフルライフ』(1999)で俳優デビュー。2012年に俳優名を本名の井浦新に改名。鈴木卓爾監督とは、『砂の影』(2008)で俳優同士として出会い、鈴木監督の『楽隊のうさぎ』(2013)に主人公の少年の父親役として出演している。

不思議な世界に誘う電車

――まずは井浦さんにとっての嵐電の魅力から。

井浦 路面電車は日本各地にまだたくさんありますが、嵐電の魅力はなんといっても電車と外の世界の距離が近いことだと思います。窓の外を眺めていると、物語の世界というか、夢の世界に入り込んだような、不思議な気分にさせられます。窓の外にある家の生活空間にすぐ手が届く気がするんですよね。

――嵐電は、不思議な世界に連れて行ってくれる電車のようでもありますね。踏切が異界との境界線、乗り込んだ車両の中は異界。そう感じられる描写もありました。

井浦 そうなんです。嵐電が西と東を行き来する電車だと聞くと、なるほどと思います。駅名自体も、(賽の河原を思い起こさせる)「西院」(さい)とか、壇林皇后の棺を覆っていた帷子(かたびら)が飛んだとされる「帷子ノ辻」(かたびらのつじ)とか特徴的ですし。

――撮影中にそういった言い伝えを意識したことはありましたか?

井浦 この映画は、そんな世界観を、CGを使わずに描くファンタジーなんだと思います。突然、狐と狸が現れてしゃべったり、僕が演じた衛星が現在と過去をワンシーンのなかで行き来したり。でもどのシーンを撮影していても、まったく違和感はなかったんです。とはいえ嵐電じゃなかったら成立しなかったかもしれません。

――現在と過去をワンシーンのなかで行き来する場面は、脚本ではどう描かれていたんですか?

井浦 台本上では僕と妻の会話が続いているだけです。どう撮るのか卓爾監督に聞くと、「僕も分かりません」と(笑)。「でも、それを映像にするために僕たちは映画を撮っているんです」と言われました。撮影監督の鈴木一博さんがテスト撮影したものを観ている時に、監督が「いま時空を超えた」と言ったショットがありました。それが映画になった場面です。みんなが許容する小さな奇跡をすくい取って、嵐電が時空を超えて行き来する。そういう映画なんだと思います。

(撮影:吉岡誠)

井浦さん演じる衛星ってどんな人?

――衛星は名前が示す通り、いろいろなものを媒介する人。各地を旅しながら人の想いや物語を拾い集める姿は、柳田國男さんのようでもあります。井浦さんにとっての衛星とはどんな人物なのでしょうか?

井浦 僕は、平岡衛星を、「鈴木卓爾監督だ」と思いながら演じていました。脚本を読んだ時に思い浮かべたのは、大切なものを手に入れようと若い生命が煌めく10代、大切なものを見つけてその真っ只中で情熱がほとばしる20代、大切なものを失って死の向こうにある生を彷徨い続ける40代の男の姿でした。そして、どの姿も鈴木監督のしたかった、もしくはしてきたことだと感じたんです。もしくは、今までの人生を肯定し、受け入れて、素直にそれを表そうとする、監督の決意表明というか。准教授である京都造形芸術大学の若い教え子たちと一緒に映画を作るからには(同大映画学科の学生とプロの協働プロジェクト「北白川派」第6弾作品)、監督がすべてをさらけ出さないと向き合えない。そういう覚悟があったんだろうなと勝手に想像していています。

 それに監督はシャイなので、恋愛映画でもある本作を撮るのは、まあ恥ずかしかったと思います(笑)。本当に真っ直ぐ優しい映画を作ったなと思いました。観る人の状態や境遇、経験によって、静かだと感じる人も、嵐のようにうごめいているように感じる人も、命の煌めきのエネルギーを感じる人もいる映画。いろいろな人の心にちゃんと届き、多くの世代が面白く観られる映画にするなんて、革命的だと思いました。

――嵐電は映画人にとっても松竹・東映など撮影所に通うための “通勤路線”で、新人の頃は嵐電で撮影所に通う方も多いと聞きます。本作でも、駆け出しの俳優・吉田譜雨(金井浩人)が、撮影所近くのカフェへ通勤する小倉嘉子(大西)と、嵐電の中で出会います。井浦さんご自身の撮影所、嵐電の思い出を教えてください。

井浦 僕は今回ロケーションだけで、撮影所でのシーンは一切なかったんです。それにこれまで太秦(京都の撮影所)に限らず、京都で撮影したことがなく、初めて芝居させてもらったんですが新鮮でしたね。

 僕はとにかく旅をし続けたいと思っています。生きている限り旅をし、芝居をしていけたらいいと。衛星も、旅をしながら電車の沿線に転がる不思議な話を拾い集めている作家。旅は、衛星と僕個人が重なるところでもあります。卓爾監督が僕をキャスティングしてくださったのは、そういう部分を求められたのかなと思いました。今回、衛星の衣装も、バッグも、その中身も、手帳とペン以外は99パーセント僕の私物なので、物理的にも自分が役に投影されています。

『嵐電』監督:鈴木卓爾、音楽:あがた森魚、出演:井浦新、大西礼芳 2019年5月24日(金)よりテアトル新宿、京都シネマ、6月7日(金)よりテアトル梅田、6月21日(土)よりシネ・リーブル神戸にて以降全国順次ロードショー

実は大の京都好き。その理由は?

――撮影中やオフを含め、気に入った場所、もともと好きで今回も訪れた場所はありますか?

井浦 京都は、写真を撮りに行ったり、旅をしたりで、一番多く訪れている場所だと思います。嵐電も普通に使っていましたが、「西院」で降りたことはありませんでした。『嵐電』の撮影時、西院をベースにしたんですが、ぶらりとご飯を食べに行ったり、もう本当に楽しかったです。西は太陽が沈む場所。彼岸というか、たぶんあの世の意味がありますよね。今は住宅街で、嵐電の車庫もある大きな町ですが、歴史や文化が大好きなので、一見何もない住宅街でそれを想像しながら過ごすことがすごく面白くて。

 例えば、「帷子ノ辻」を降りて、松竹の撮影所の横を歩いて行くと、住宅街の中に突然バーンと、蛇塚という巨石が積み上げられた古墳があるんです。古代の遺構と現代が、道路だけで隣り合わせにあるその空間が面白くて、京都っぽいなと思いました。僕にとってはそれ自体が異空間。そこに慣れた感じで水撒きをしているおじさんがいるのがまた面白いんですよね。

――嵐電の好きな駅を教えてください。

井浦 「蚕ノ社」(かいこのやしろ)と「太秦広隆寺」、「帷子ノ辻」です。蚕ノ社にある木嶋坐天照御魂(このしまにますあまてるみたま)神社の三柱鳥居には心動かされました。広隆寺はやっぱり弥勒菩薩。あれは何度見てもいいです。そして帷子ノ辻は、先ほどの蛇塚です。

(撮影:吉岡誠)

『嵐電』 WEB
監督:鈴木卓爾、音楽:あがた森魚、出演:井浦 新、大西礼芳、安部聡子、金井浩人、窪瀬 環、石田健太、福本純里、水上竜士
2019年5月24日(金)よりテアトル新宿、京都シネマ、6月7日(金)よりテアトル梅田、6月中旬よりシネ・リーブル神戸、以後全国順次ロードショー。

関連記事