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国立の精神科病棟が初のロケ地に 平山秀幸監督『閉鎖病棟(仮)』の現場を行く

 落語家としての長年の功績が認められ、大衆芸能部門で2018年度芸術選奨の文部科学大臣賞を受賞した笑福亭鶴瓶。役者としても絶好調。作家・帚木蓬生原作の 『閉鎖病棟(仮)』(平山秀幸監督、11月公開)で主演を務めます。しかも精神科病院を舞台にした本作を、実際の国立の精神科病棟を使用して撮影するというじゃないですか。調べたらそこは、元陸軍の結核治療研究機関だったという歴史が! この機会を逃してはなるまいと、長野県小諸市に向かいました。

入院患者として出会い、親交を深めていく(写真左から)秀丸(笑福亭鶴瓶)、チュウさん(綾野剛)、由紀(小松菜奈)(c)「閉鎖病棟」製作委員会

真田幸村、浅間山……いざ「ろくもん」に乗って小諸へ!

 1月中旬。東京から北陸新幹線で軽井沢駅まで行き、そこから「しなの鉄道」に乗り換えて小諸へ。ここはせっかくなので、長野県上田を舞台にした細田守監督『サマーウォーズ』(2009)の息吹を感じられる、戦国武将・真田幸村の甲冑の色や家紋がデザインされた観光列車 「ろくもん」で参りましょう。

小諸へは、しなの鉄道が誇る観光列車「ろくもん」でGO(撮影:中山治美)

 沿線には冬の澄んだ沿線には冬の澄んだ空気でくっきりとした姿を表している浅間山が見えます。その名を聞くと思い出すのは、1972年に起きたあさま山荘事件。『突入せよ!「あさま山荘」事件』(2002)や『実録・連合赤軍 あさま山荘への道程(みち)』(2008)など映画にもなりました。

「ろくもん」からの浅間山(撮影:中山治美)

 「ろくもん」車内を探検していたら、あっという間に小諸駅。駅舎と駅前のロータリーは整備され、小諸を舞台にしたオリジナルテレビアニメーションの 「あの夏で待ってる」(2012)のキャラクター看板がお出迎えしてくれました。

小諸はアニメ「あの夏で待ってる」の舞台。8ミリカメラで自主映画を撮る高校生たちの青春物語(撮影:中山治美)

実際の国立の精神科病棟で撮影された『閉鎖病棟(仮)』

 さて、『閉鎖病棟(仮)』のロケ地である 「小諸高原病院」は、小諸駅から国道131号線峰の茶屋小諸線を浅間山方面に車で進むこと約15分の山腹にあります。人里離れ、豊かな自然に囲まれた病院は、ここがかつて結核治療研究機関であった名残りを感じさせます。

正式名称は「独立行政法人国立病院機構 小諸高原病院」もともとは陸軍の結核治療研究機関だった(撮影:中山治美)

 独立行政法人国立病院機構へと移行したのは2004年で、現在は精神科の専門医療施設です。日本国内で国立の精神科病棟が、ドキュメンタリー映画を除いて精神科病棟を描いた映画の撮影に使用されるのは初めての試みとか。ただし利用している患者さんたちに配慮し、大声を出すのは厳禁です。しかしこの張り詰めた緊張感が、気合の入った撮影現場に来ているんだと実感し、取材する側も身が引き締まります。

病棟を借りて撮影を行う平山秀幸監督(左)と綾野剛 (c)「閉鎖病棟」製作委員会

 なぜなら『閉鎖病棟(仮)』は、キラキラ映画や“泣ける”をウリにする作品が多い昨今の日本映画界において、なかなかの勝負作。主人公は、笑福亭鶴瓶演じる死刑執行に失敗して生きながらえてしまった死刑囚の秀丸(笑福亭鶴瓶)。彼を中心に様々な過去やトラウマを背負って生きる精神科病棟の患者たちは、俗世界から離れて生きることで心の平穏を取り戻そうとします。しかし院内で起きた殺人事件によって、運命は大きく変わり……。同病院での撮影は2週間にわたって行われ、病室も使用しています。

外来診療棟の玄関前で撮影を行う『閉鎖病棟(仮)』のスタッフたち。左端は綾野剛(撮影:中山治美)

 「僕は、映画は本職ではないんですけど、(トーク番組の)A-StudioのMCをやっているからゲストが出演するいろいろな映画を観るでしょう。そうするとロケ場所をどう抑えるかで映画の流れが決まってくるように思うんです。普通、こんな病院貸してもらえないですよ。この(病院を使えるように交渉し)苦労をしはった人に、賞があってもいいと思う」。そう語ったのは鶴瓶師匠です。師匠が主演した映画『ディア・ドクター』(2009)のリアリティは、まさにロケ地となった茨城県常陸太田市の景観あってこそ。師匠の言葉には、重みがあります。

小諸高原病院の案内図。一直線の廊下があり、圧巻!(撮影:中山治美)

 ちなみに同病院は近々改修が予定されているということで、本作は1943年に建設された当時の姿を捉えた貴重な映像記録となりそうです。

 次回は撮影現場を離れ、文豪・島崎藤村や名作『男はつらいよ』シリーズでおなじみの渥美清さんなど、粋な大人たちを惹きつける小諸の魅力に迫ります!

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