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『男はつらいよ』が撮影された理由とは? 長野県小諸市の「粋」を探る

 平山秀幸監督作『閉鎖病棟(仮)』のロケ地、「小諸高原病院」を後にした筆者は、「長野県小諸市といえば!」の名作をたずねて小諸市を散策しました。

 国立の精神科病棟が初のロケ地に 平山秀幸監督『閉鎖病棟(仮)』の現場を行くはこちら

寅さんこと渥美清さんが愛した地

 小諸と言えば、真っ先に思い浮かべるのはシリーズ40作目『男はつらいよ 寅次郎サラダ日記』(1988)。渥美清さんが演じる寅さんは、小諸駅前のバス停で一緒になった老婆・キクエの自宅にやっかいになることになり、入院するキクエを迎えに来た小諸病院の美人医師・原田真知子(三田佳子)と運命の出会いをします。あとはお馴染みの展開です。

寅さんが座っていたバス停のベンチも、駅舎も、映画とは変わりました(撮影:中山治美)

 小諸ロケは渥美さんの要望もあって実現したと聞きます。小諸は、渥美さんが“小諸のお父さん”と呼んで慕っていた友人・井出勢可さんが住んでいたことから、度々同地を訪れていたそうです。そんな気心知れた井出さんに渥美さんは、映画賞のトロフィーなど自身ゆかりの品々を、なんの躊躇もなく渡していたそうです。それらを集めて1995年に「渥美清こもろ寅さん会館」をオープンさせ、井出さんは館長に就任しました。

 しかし2012年に井出さんが亡くなると、翌年閉館となってしまいます。井出さんにお会いし、「渥美清こもろ寅さん会館」への思いを取材したことがある筆者としては、現在どうなっているのか、ずっと気になっていました。

 『男はつらいよ 寅次郎サラダ日記』から31 年経った今、「もう寅さんの街ではないのかな」と寂しく思っていたところ、コモロ寅さんプロジェクト 『いつもココロに寅さんを♪』の主催による、上映会のチラシを発見! 井出さんの遺志を継いで活動されている方がいらっしゃるのですね。嬉しくなって、ジーンとしてしまいました。

駅前に貼られていた映画『男はつらいよ』上映会のチラシ。「渥美清こもろ寅さん会館」は閉館したが、遺志は受け継がれている(撮影:中山治美)

『男はつらいよ 寅次郎サラダ日記』ロケ地へ

 その足で、日本唯一の穴城(城の中で大手門の標高が最も高い)として知られる小諸城の跡地を公園にした 「懐古園」 に向かいました。ここも『男はつらいよ 寅次郎サラダ日記』冒頭のシーンで使用されたロケ地です。

『男はつらいよ 寅次郎サラダ記念日』の撮影でも使用された「懐古園」の大手門(撮影:中山治美)

 散策していると、同じ園内にある長野県最古の動物園 「小諸市動物園」にお住いのポニー・すみれちゃんがのんびりとお散歩していました。

懐古園内をお散歩する小諸市動物園のポニー・すみれちゃん(撮影:中山治美)

 さらに園内を進み、かつて水の手不明御門(みずのてあかずのごもん)があった上に設置された水の手展望台に上がると、千曲川の雄大な流れが拝めます。

時間を忘れさせてくれる雄大な景色(撮影:中山治美)

 この風景を見ると、渥美さんが小諸のことを「心のふるさと」と称していた気持ちが分かるような気がします。

映画化常連の文豪も小諸の住人

 せっかくなので渥美清さん同様に、この町を愛した方のゆかりの場所を巡りました。まずは作家・島崎藤村(1872-1943)。「懐古園」には 「藤村記念館」があります。

懐古園内にある島崎藤村記念館(撮影:中山治美)

 藤村は私塾 「小諸義塾」の英語教師として1899年〜1905年の6年1カ月を小諸で過ごしています。その間に執筆した、小諸が舞台の小説「破戒」は、木下惠介監督と市川崑監督という日本映画界を代表する巨匠2人によって、2度映画化されています。

島崎藤村も度々訪れていた恩師の小諸義塾塾長・木村熊二の書斎・水明楼。眼下に千曲川がある(撮影:中山治美)

 また同じく藤村原作の「家」は、2013年に西村知美主演で映画化され、小諸でも撮影が行われました。このほか小諸市内には、藤村が「千曲川旅情の詩」で詠ったという風光明美な宿 「中棚荘」 があります。

創業100年! 島崎藤村ゆかりの温泉宿・中棚荘の玄関(撮影:中山治美)

 色気よりも食い気の筆者は、中棚荘に併設されている食事処「はりこし亭」を目当てに訪れました。江戸時代の旧家を移築した建物の雰囲気といい、地元の食材を丁寧に調理した料理といい、都心では味わえない贅沢さ。

左/江戸時代の藍染業を営んでいた古民家を移築して食事処にした「はりこし亭」の見事な座敷 右/「はりこし亭」の花かご膳。無農薬の野菜を使ったサラダや、玄米おにぎり、ゴマだれでいただく手打ちそばもついています(撮影:中山治美)

 なんでもこの雰囲気に魅了され、ギタリストの渡辺香津美や押尾コータローが定期的にライブを行なっているそう。粋な大人たちは、小諸の楽しみ方をよくご存じですね。掘れば掘るほど、味のある町のようです。映画ファンにもきっとご満足いただけるはず!

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