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【個性的すぎる映画館】常連に愛され神楽坂で45年「ギンレイホール」

 都心に位置する飯田橋駅は、JRと東京メトロが乗り入れており交通の便もいい。駅から徒歩数分、この地域を象徴するメインストリート・神楽坂と並行している軽子坂を少し入ったところに「ギンレイホール」はある。1974年を創業の起点とする名画座で、今年で45年目の老舗だ。ロードショーが終わった映画を二本立てで上映するというスタンダードな形式を取っている。

ギンレイホール正面。左手に見える両開きのガラス戸が入場口(撮影:久田絢子)

昭和20年代から映画館が根付いた場所

 取材に訪れたのは土曜日午前中。入り口前には、この日1回目の上映を見るために開場を待つ客の列がまっすぐと伸びていた。その整然とした列を見て、並んでいる人たちはここに並び慣れているのではないか、と感じた。上映開始直前に客席をのぞくと、202席を有する劇場内はほぼ満席。思わず「素晴らしいですね」と感想を漏らすと、案内してくれた支配人の久保田芳未さんは「ありがとうございます」と笑顔を見せた。

ギンレイホール客席。この202席ある座席がほぼお客様で埋め尽くされていた(撮影:久田絢子)

 客層は老若男女問わず様々だったが、やはり高齢層が多く感じられた。中には創業当初から通っているというお客様もいるそうだが、実は45年前の創業以前からこの地には映画館が存在していたのだという。

 「正確な年はわからないのですが、『銀鈴座』という映画館が昭和20年代にはありました。昭和33年に『銀鈴座』が火事になって焼失してしまい、その2年後に建ったのが現在ギンレイホールが入っている『銀鈴会館』というビルです。竣工当時から一階には映画館が入り、そのまま名前は変わりながらも今までずっと引き継がれて来ました。映画館としては昭和20年代からあったのですが、オーナーと館主が変わって『名画座ギンレイホール』として今の上映スタイルになった1974年を、当館の創業年としています」

フリーパスで広がる映画の自由な楽しみ方

 ギンレイホールの特徴の一つとして「ギンレイシネマクラブ」というパスポートがある。発行から1年間、ギンレイホールで上映する映画が見放題になる、映画好きにはお得な年間フリーパスだ。1名用のシングルカード、2名まで入場できるペアカード、5名まで入場できる法人・グループカードの3種類が用意されている。久保田さんによると「来場者の6割から7割くらいはパスポートの会員」だという。開場前の列が整然としていたのも、こうした常連さんが多くいるからなのだろう。

 パスポート会員の中には、ギンレイホールで上映される映画は必ず見るという人もいれば、気に入った映画があれば上映期間中に何度も足を運ぶ人もいるという。二本立て上映館だと、2本のうち1本は知っているけれどもう1本は知らない映画で、たまたま見たらそっちの映画がよかった、という経験をしたことのある人も多いだろう。パスポートを持っていることで、映画との新たな出会いや新たな楽しみ方も様々に広がる。

外壁には現在上映中の作品ポスターが掲示されている(撮影:久田絢子)

 二本立ての上映作品のプログラムは、基本的には久保田さんが決めている。

 「まず『この映画を上映したい』という1本があって、『じゃあそれと一緒に何をやろうか』と考えるのが大体いつものパターンですが、『この2作品を一緒にやりたい』と最初から決まっている場合もあります。そして大抵の場合は、私なりにテーマといいますか、意図を持って組んでいます」

 お客さんに自由に見てもらいたい思いもあって、テーマや意図はあえて押し出さない。だが、鑑賞後に来場者から「今回はこういう繋がりだったのね」と言われることもあるそうだ。久保田さんの意図を推察しながら見るのも、また一つの楽しみ方かもしれない。

手書きの看板など、映画の歴史を重んじる姿勢

 ギンレイホールの入り口周りは決して広くない。ポスター掲示も、現在上映中の2枚を張るのが関の山だ。今後の上映作品のポスターを掲示することはできないが、入り口横に掲示された趣のある手書き看板が上映作品タイトルを教えてくれる。

 「創業当時はこうした映画の看板を書く会社があったんですが、今はもうほとんどなくなってしまいました。この看板をお願いしている人もかつてそういった会社に勤めていたんですが、今は個人で請け負っています。全部フリーハンドで書かれているそうで、ギンレイホールのシンボル的な存在ですね」

ギンレイホール入り口横に掲げられた上映作品の手書き看板(撮影:久田絢子)

 手書きの看板といえば、昔は看板絵師による手書きの映画看板絵が全国の映画館の表を飾っていたものだった。2018年10月16~21日にかけて成田山書道美術館で開催された「成田映画フェスティバル」では、ギンレイホールが所蔵する映画アーカイブが一挙公開され、中にはそうした映画看板絵も含まれていた。

 「名画座ギンレイホールとして始まって以来のチラシ、ポスター、パンフレット等、上映した作品に関するものは全部捨てずに保管してあります。また、映画のデジタル化が進む中、使われなくなって処分されてしまう映写機を館主が個人的に引き取って保存・保管する活動をしているので、それらも含めて全部、成田に倉庫を借りて保管しています。ですから、アーカイブは機会があるとポスター展などといった形で公開しているんです。ギンレイホールで活躍していた古い映写機もきちんと整備して、野外上映会などで使用しています」

昼間に上映する作品はほとんどデジタルになったそう(撮影:久田絢子)

 フィルム映写機で映画を見られる機会も減ってきている昨今、館主の取り組みは映画の伝統、古き良き時代を後世に繋ぐ意味でも貴重な活動だ。

 「ギンレイホールでも昼間上映する作品はもうほとんどデジタルになってしまいました。映写機は動かし続けないと機械がダメになってしまうし、映写技師の腕も鈍ってしまうし、フィルムもたまには缶から出さないとダメになってしまう。だからフィルム映写機を動かす機会を作ろうというのが、2014年に月1回のオールナイト上映『午前0時のフィルム映写会』を始めたきっかけでもありました。オールナイトは、2017年1月からは『名画座主義で行こう』として新たにスタートさせて月1回やっていたんですが、2018年の秋以降は不定期の開催にしました」

 次回のオールナイト上映は3月22・23日の「黒沢清オールナイト」。神楽坂で毎年3月に開催され今年4回目となるブックフェア 「本のフェス」の前夜祭イベントだ。

「黒沢清オールナイト」3月22日は映画評論家の松崎健夫氏、23日は黒沢清監督がゲスト来場する 上:「回路」(C) 角川映画・日本テレビ・博報堂・IMAGICA/2001 中:「岸辺の旅」(C) 2015「岸辺の旅」製作委員会/COMME DES CINÉMAS 下:「Seventh Code セブンスコード」(C) 2013AKS

神楽坂にある映画館として

 神楽坂の地に根付いた活動としては、2018年に5回目を迎えた「神楽坂映画祭」がある。

 「創立40周年のときに、『せっかくこの地にあるのだから、神楽坂という名前のついた映画祭をやりたい』という館主の思いから始まりました。毎年そのつど規模や内容は変わっていますが、いろいろな趣向を凝らした上映会を継続してやっています」

 この映画祭を今後も継続していきたい、と考えているそうだが、少なからずハードルもあるようだ。

 「年間パスの会員さんのことを考えると、二本立て2週間交代上映、というスタイルを崩すのがなかなか難しいんです。1週間なり3日間なり、イレギュラーな日程になることを浸透させたり、了解をしていただくこと自体なかなか大変です。でも、趣向の変わったものを年に1回くらいはやって、楽しんでもらいたいという思いもあるんです」

こじんまりとしたロビー(撮影:久田絢子)

 メディア等で「若者の〇〇離れ」という言葉をよく目にするようになったが、その中に「映画館離れ」がいわれることもしばしばある。それについて、久保田さんはどのように思っているのだろうか。

 「私がここの支配人になって8年目ですが、元々若い人が多い映画館ではないので、そんなに極端に減ったりもしていない、という印象です。逆にSNSを見て来てくれる方がいたり、あとは作品を選ぶとき、どちらかというと女性や年配の方をターゲットにした作品に寄りがちなんですが、たまには若い人が好みそうなアクションやバイオレンス、ホラーなども年に何回か入れたりとか、冒険的に少しずつやってみるうちに、徐々に10代20代の若者にもギンレイホールが認知されてきたかなという感じはしています。

 映画全体のことで言うと、最近は特に“入る映画”と“入らない映画”が二極化してしまっていて、“入る映画”も話題になっているから見に行ってみようか、と映画の中身本来の力ではなくて話題に乗ったから大ヒットする、という映画が多いように思います」

お客様と共に歩む映画館として

 そんな中、ギンレイホールが担っている役割について考えると、多少のジレンマが生じてしまうのが正直なところだと久保田さんは言う。

 「先ほども言いましたが、パスポートの会員のことを考えると、二本立てで2週間のローテーション、というのは基本的に守らなければならないんです。1週間だとキャパ的に見られない人も出てきてしまうので、それではパスポートを売っている意味がなくなってしまいます。

 本当は名画座として、シネコンで上映できなかった映画や若手監督の作品などをもっとやりたいな、という思いはあるんですが、経営的な話になりますけどあまり客入りが見込めない作品だと、月の半分の売り上げに響くのでダメージが大きいんです。名画座として本来やりたい作品と、お客さんの入りが見込める作品とのギャップは、ちょっとありますね」

なにげない部分から老舗ならではの落ち着きを感じる(撮影:久田絢子)

 インタビュー中、久保田さんは「お客様」のこと、特に「パスポート会員のお客様」のことを何度も口にした。お客様に支えられてこそのギンレイホールである、という強い思いが伝わってきた。お客様がギンレイホールに求める「役割」と、ギンレイホールが名画座として果たしたい「役割」の間には、もしかしたら少しギャップがあるのかもしれない。

 しかし、名画座としての役割を果たすことが、お客様が求める「役割」に結果的に繋がっていく部分も少なからずあるのではないだろうか。映画界や地域といった広い視点を持ちながら、ギンレイホールの顧客と誠実に向き合う今の姿勢を崩さずに継続していくことで、少しずつでもそのギャップが歩み寄りを見せることに期待したい。

ギンレイホール WEB
住所 東京都新宿区神楽坂2-19
電話 03-3269-3852

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