ツイート シェア

美男子と離宮が語る「女王だって人間」―『ヴィクトリア女王 最期の秘密』

 日本でおなじみの「海外の王室」といえば英国王室だろう。2018年もキャサリン妃の出産やハリー王子&メーガン妃のロイヤルウェディングなど、話題は豊富だった。おそらく日本は熱烈な英国王室ファンだが、本作『ヴィクトリア女王 最期の秘密』に『女王陛下のお気に入り』(2月15日公開)、『ふたりの女王 メアリーとエリザベス』(3月15日公開)と、英国女王の映画が3本立て続けに公開される状況は珍しい。もちろん、話題豊富な王室だけあり3本に登場する女王はすべて別。本作の主人公は現女王エリザベス2世の高祖母、1877年1月から63年7カ月にわたって在位したヴィクトリアだ。

(C) 2017 FOCUS FEATURES LLC.

 最愛の夫アルバートと従僕を亡くして以来、心を閉ざしていた晩年のヴィクトリア。即位50周年の祝宴でも仏頂面の彼女に、英領インドから来た若者アブドゥルはそっと微笑んだ。そして始まる身分違いの友情。だが、周囲はまったく理解せず大騒動に発展してしまう……というあらましは、2010年に発表された「Victoria & Abdul : The True Story of the Queen’s Closest Confidant」(未訳)を原作としている。ふたりの友情に関する発表はこれが初。ヴィクトリアの日記がウルドゥー語で書かれていたため、翻訳できる歴史家が存在しなかったらしい。21世紀に入っても新ネタが発掘されるとはさすが英国王室、話題が豊富すぎる。

(C) 2017 FOCUS FEATURES LLC.

 ヴィクトリア役は『Queen Victoria 至上の愛』(1997)でも同役を演じた名優ジュディ・デンチ。偏屈・頑固・威厳・気品を随所に漂わせながら、結果的には非常に人間らしく、また愛らしくも見えるヴィクトリア像を作り上げた。アブドゥル役はインド俳優のアリ・ファザル。一歩間違えば異国から来た「お騒がせキャラ」だが、エキゾチックな美男子ぶりと温和な笑顔は、役どころのピュアな内面を見事に表している。なかでも、ヴィクトリアという「ひとりの人間」を見つめる真摯なまなざしには、そのフラットな立ち位置が示されているかのようだ。

 そう、この物語は「女王だって人間」のひと言に尽きる。いくら60年以上も権力の座にあろうとも、現実のヴィクトリアは夫に先立たれた老婆だ。使用人や強欲な子どもたちを信用できず、消えない孤独を権力者の威厳で包み込んでいる。そこに突然現れたアブドゥルは、「ありのままでそこにいる」ヴィクトリアを見た。「決して目を合わせてはいけない」と言われていたにも関わらず。だからこそ彼は、自身の運命を嘆き悲しむヴィクトリアに言う。「己のためではなく大義のために生きるのです」。身分を越えた友情は、英国のしきたりに縛られた者にはできないことがきっかけだった。

(C) 2017 FOCUS FEATURES LLC.

 アブドゥルが見つめ続けた「人間ヴィクトリア」は、本編の大半が撮影された離宮にも色濃く現れている。夫アルバートとともに建てたワイト島のオズボーン・ハウスだ。『ルートヴィヒ』(2013)のノイシュヴァンシュタイン城、『ラスト・エンペラー』(1987)の故宮など、権力者が暮らした建物はいつも、彼らが持つ2つの顔を雄弁に語る。偉大なる権力者と、権力にとらわれた孤独な囚人。ヴィクトリアも作中でみずからを囚人と呼ぶが、オズボーン・ハウスだけは彼女を閉じ込める檻と呼べない。かつて彼女と夫アルバートはここで、女王と王配ではなく、妻と夫として子どもたちを育てた。ただし、この地に残る家族の思い出だけは、彼女を長く縛っていたのかもしれないが。

(C) 2017 FOCUS FEATURES LLC.

 現在のオズボーン・ハウスは、英国政府が設立した「イングリッシュ・ヘリテッジ」が管理しており、一般でも見学可能だ。本作は現地撮影を許された初の長編映画であり、建物に息づく「人間ヴィクトリア」はひとつの見所だといえる。人が場所を作るのか、場所が人を作るのか。妻として母として、そして英国女王として生きた彼女の足跡を、いまももっとも強く感じることができる「女王のスイートホーム」だろう。

『ヴィクトリア女王 最期の秘密』 WEB
2019年1月25日(金)よりBunkamuraル・シネマほか全国ロードショー公開

関連記事