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【個性的すぎる映画館】「なぜ映画館なのか」を追求 極音・爆音上映の立川「シネマシティ」

 音響家が音響調整を行った「極上音響上映」(以下、極音)、さらに重低音にこだわった「極上爆音上映」(以下、極爆)などで映画ファンの間ではすっかりおなじみとなっている 「シネマシティ」。JR立川駅から徒歩5~6分圏内に二つの映画館「シネマ・ワン」「シネマ・ツー」を有する独立系シネコンだ。

シネマ・ツー。1Fにはガラス張りで天井も高く開放感あふれる直営カフェが併設されている(撮影:久田絢子)

 都心から離れた立地にも関わらず、音響の良さや企画の面白さに加え、作品に対するリスペクトや愛情を感じられる姿勢が高い評価を受けている。人々を引き付ける魅力の源はどこにあるのか。立川シネマシティ企画室室長・遠山武志さんに話を聞いた。

「スタジオ」の音響を目指して

 取材に先立ち、『ボヘミアン・ラプソディ』(2018)の極音をシネマ・ツーの「bスタジオ」で鑑賞した。ライブ会場にいるような臨場感だ。公開から一ヵ月半経過、しかも平日昼間というのにほぼ満席に近かった理由は、やはりこの音響体験を求める観客が多いせいだろう。「公開1週目から現在までの動員数は、ほとんどというと大げさかもしれませんが、あまり落ちていません。かなり記録的な数字になっています」と遠山さんは言う。

企画室室長・遠山武志さん。黄色の扉は「日本のトップクラスのライブハウスと同レベルの機材が入っている」というaスタジオ(撮影:久田絢子)

 「スクリーン」ではなく「スタジオ」という呼び方も個性的だ。そもそもこの映画館を作るときのコンセプトは「映画を製作しているレコーディングスタジオの音を再現する」だった。

 「一般的に売られているスピーカーは、各メーカーがそれぞれに『低音を響かせたい』とか『きれいな高音を鳴らしたい』といった、いわゆる“味付け”をしています。でも、レコーディングスタジオにあるスピーカーは、味付けのない素直な音が出るんです。スタジオで作り手たちが聞いているような音を出す。だから、『スクリーン』ではなく『スタジオ』としています」

 1994年のシネマ・ワン開館当初は、ごく一部の専門家や音響マニアには音響を評価されていたが、なかなか一般のお客様には広まっていかなかったという。というのも、大半の人は1本の映画を1度しか見ない。シネマシティで「音が良い」と感じても、作品の音響が良いのか、映画館の音響が良いのか、判断つかない人が多いからだろう。そこで生み出された「見せ方」が、極音と極爆だった。

「なんだこれ?」が話題を呼ぶ

 一流の音響家やその作品の制作者が音響調整を行う極音と極爆。「音」にフォーカスすることで、見えないはずの存在にも文脈やストーリーが生まれ、姿形が与えられた。そこで興味を抱いた観客は他の映画館との「聞き比べ」を始め、「おなじ映画でも映画館ごとで音が違う」ことを発見する。結果、爆発的なヒットにつながっていった。

 「僕の仕事のやり方は、基本的にはシナリオを書いているイメージです。何かを宣伝するときも、一本のストーリーになるようにしています。たとえば『マッドマックス 怒りのデス・ロード』(2015)のときに、高額のサブウーファー(低音スピーカー)を購入しました。予告編だけでも伝わる “狂気”に応えるために、こちらも“狂気”で対抗しようと『シネマシティという東京の片隅の誰も知らない映画館がなぜか世界一を目指していく、そのために新しい武器=サブウーファーを購入した』という物語を作り、お客さんを巻き込んでいきました」

シネマ・ツー2Fロビー。コンクリートやメタリックの無機質な色調、抑え目な照明がどこか近未来的だ(撮影:久田絢子)

 そういった物語性があるからか、様々な映画館の様々な上映情報が流れてくる中でも、シネマシティの情報は「なんだこれ?」と興味をひく異質感がある。

 「僕が作った素人臭いポスターがビジュアルとして出てきますしね。広告宣伝にはお金をかけてないんです。お金があったらスピーカー買っちゃうので」と遠山さんは笑う。

遠山さんが作成した、1月19日(土)から始まる「タランティーノ/ロドリゲス【極上音響】映画祭」のポスター

 「でも、ポスターもプロが作ればきれいになるけど、きれいなものって目に入らないですよね。わざと変な感じや引っかかる感じ、ファンが笑えるマニアックな感じを織り込むとか、何か面白いことを書いて、あとはお客さんに拡散を手伝ってもらおう、と思っています。ツイッターとかでつぶやけるように、長くても100字以内の『これは絶対使いたくなるだろうな』というフレーズを入れたりして。ハガキ職人的な感じで面白いものを書かなきゃならないから、毎回大変なプレッシャーですけど」

アレンジ力でファンを魅了

 動画配信サービスなど、映画を見るためのチャンネルはどんどん増えている。「なぜ映画館なのか」の意味を作っていかなければならない、と遠山さんは語る。

 「やっぱり“映画館”という場は必要だと、日々確信しています。1990年代後半から2000年のゼロ年代にかけて、インターネットやスマホ等の飛躍的な技術の革新があった時代の反動なのか、ここ数年は改めて“リアルな体験への回帰”が求められていると感じています。たとえば、シネマシティでは『マッドマックス 怒りのデス・ロード』や『ガールズ&パンツァー 劇場版』(2015)の極爆が大ヒットしました。重低音を音としてではなく物理的な震動として体感できる極爆は、音が持つ没入感アップの威力をわかりやすく理解できます。家では絶対に味わえないその没入感に、観客は魅了されたんです」

今年4月からスタートする「次世代映画ファン育成計画」告知ポスターの前で。シニア割の対象年齢引き上げ、夫婦50割の終了、24歳以下の有料会員料金値下げ、と挑戦的な内容だ(撮影:久田絢子)

 「どうせ同じ映画を見るならばシネマシティにしよう」と思わせる独自性や企画力は、「なぜ映画館なのか」に対する答えの一つだ。しかし遠山さんは、自身がアイディアマン的な扱いをされるのはちょっと違う、と感じている。

 「僕が一から新しい物を生んだ、という仕事はたぶんひとつもないんです。全部在りものをアレンジしているだけで。たとえば極爆。古くは『大地震』(1974)を上映するときに、地震の音を響かせるため映画館にスピーカーを持ち込んだんですよ。応援上映だって、ずっとさかのぼれば『ロッキー・ホラー・ショー』(1975)でやっていましたし。昔からそういう発想はあったんです。だから、新しい発想というよりは、以前からあったものをうまくアレンジして出すのが僕の仕事ですね」

シネマ・ワン1F外壁にはワンとツーそれぞれの上映作品のポスターがズラリと並ぶ。(撮影:久田絢子)

 映像と音を出すことのできる映画館という空間で、映画以外にも取り扱うコンテンツの幅を広げることにより、映画館自体の可能性が広がると遠山さんは考えている。

 「たとえば、舞台作品のコンテンツ上映はもっと広がって欲しいです。舞台って、座席位置によって作品理解にムラが生じますよね。前方の人は全体像が見えないし、後方の人は細やかな表情とかがわからない。でも映像上映なら、見るべきところはアップになるし、作品理解という点においては生鑑賞より上じゃないかと思っているんです。映像上映を見て、生の舞台を見たいと思う人も絶対出てくると思うし。

 音楽ライブ映像上映も、うちだったら大抵のライブハウスよりいい機材が入っていますし、極端な話、ゲーム大会やYouTuberの配信を見るイベントをやったっていい。そうやって、映画館で楽しめるコンテンツの幅を広げていけば、普段は映画館に来ない人も取り込めるかもしれない。新たなコンテンツが映画館に足を運ぶきっかけになって、『じゃあ映画も見てみるか、ってなってくれたらすごくうれしいですね」

これまでのような企画は今後できなくなる?

 この調子で突っ走って欲しいところだが、「そうはいかないかもしれない」と遠山さんは言う。

企画室室長・遠山武志さん(撮影:久田絢子)

 「今後、立川に新たな映画館が2つできることになっていたり、このエリアが一気に活性化するんです。立川という街が大きく変わる中、やはりシネマシティも変わらざるを得ない状況になっていくような気はしていて、今までみたいな自由すぎることもできなくなっちゃうのかなぁ、と思ったりしています」

 「その時になってみないとわからないですけど、これからどうなるんでしょうね」と繰り返す遠山さん。自由すぎる部分も含め、シネマシティらしさが失われてはならない。それはシネマシティファン、そして映画ファンの願いでもあると思う。たとえこの先に逆境が訪れたとしても、シネマシティというピンチに立たされた映画館が成長して強くなり乗り越えていく、そんな新たな物語の始まりが目に浮かぶようだ。

 これからも独自の「物語」を我々に提供し続けて欲しい。

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