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【個性的すぎる映画館】超ハイスペックなミニシアター版シネコン「アップリンク吉祥寺」オープン!

 吉祥寺PARCOの地下2階に12月14日、新しい映画館がオープンした。名称は 「アップリンク吉祥寺」。63席、52席、98席、58席、29席(各々車椅子用スペースも有)の計300と、ミニシアターのシネコンともいえる映画館だ。

アップリンク吉祥寺の受付(提供:アップリンク)

超ハイスペックなミニシアター版シネコン誕生!

 5つのスクリーンは「ポップ」「レインボー」「レッド」「ウッド」「ストライプ」と異なるコンセプトでデザインされており、場内に入ること自体が楽しくなる造り。

「ポップ」や「レインボー」などスクリーンごとに異なるデザインの椅子が置かれる(撮影:Avanti Press)

 プロジェクターは、米国業界団体DCI制定の上映規格に準拠した高画質な「NEC NC1000c」を採用した。そして、DCIが明確に定めていない“音”に関しては、「これ以上ないスペックを持つスピーカー」を独自に開発したという。そのスピーカーとは、田口音響研究所が開発した、音を均質に届けることができる平面スピーカー。ブルーノート東京などで採用されているが、映画館への設置は世界初なのだそう。

スクリーン下に2台設置されている平面スピーカーのひとつ(撮影:Avanti Press)

 アンプは、DCPハイレゾ音源を最大限に引き出すことができる伊パワーソフト社のパワーアンプ「OTTOCANALI K4」を使用。衣擦れだけで心底ゾッとする音が体験できるのだ。さらに座席は、座りごこちのよいキネット社製のものを、スクリーン生地にまでこだわって発注。前席と被りのないように設置した。

浅井隆アップリンク代表の真の狙いとは?

 映画館としてのスペックは想像以上。しかしアップリンク代表・浅井隆さんの、真の狙いは別のところにあった。

 「デザインよりも、まず真っ暗な空間で、画がパチッと見え、クリアに音が伝わる映画館を作りたかった。ほんのわずかな色や、音の違いにこだわる制作者にも満足してもらえるような。フィルムメーカーがこだわって作りあげた音や画を、どうすれば100%再現できるのか? それを第一に考えて作りました」

アップリンク代表・浅井隆さん(撮影:Avanti Press)

 とは言え、各々のスクリーンルームが個性的なのにも理由はある。

「色やデザインも重要です。それは、色や個性があることでその空間が、日常とは異なる場であることを認識できるからです。カラフルなTシャツなどの商品を際立たせるために無彩色を基調とした無印良品やユニクロの店舗設計とは目的が違う。映画館に来た若い人に、面白い場所に来たと実感してほしいんです」

左/スクリーンが高く、前の座席との被りがないので見やすい 右/「ストライプ」の椅子(撮影:Avanti Press)

 産まれた時からスマホがあって、YouTubeなど無料で見られるVODやデバイスに囲まれて育ってきた世代に、映画館での鑑賞体験、それも均一化したシネコンとは違うスタイルの映画館体験を楽しんで欲しいのだという。

 「映画を映画館で観ていない層、特に若い世代を引き込みたい。そうじゃないと映画の未来はありませんから」

アレハンドロ・ホドロフスキー監督『エンドレス・ポエトリー』(2016)がエスカレーター脇でお出迎え(撮影:Avanti Press)

 そのため鑑賞料金に、通常の一般1800円、シニア1100円、ジュニア800円料金に加え、1500円のユース料金を加えた。16歳以上22歳以下は、学生でなくてもユース料金で観ることができる。さらに年間会費500円を払えば特別上映を除き、ユースはいつでも1000円で鑑賞できる。

 「若い人が映画を観ないというのは嘘です。2018年の実写映画の興行1位は『コード・ブルー』ですよね。このヒットは、若い観客の支持があってこそ。普段、映画を観ない人が劇場に足を運んだから、あそこまでヒットしたわけです。シネコンで『コード・ブルー』を観た方々が、スマホやテレビで観るより、映画館で観たほうが面白いことに気付いて欲しい。映画館で観ると没入感が違いますから。それに気づいて、また映画館に行こうと思った時に、来やすいようにしたい。そう思ったわけです」

足かけ5年以上!アップリンク渋谷からの構想

 渋谷・宇田川町で10年以上、ミニシアター 「アップリンク」を運営してきた浅井さんは、5・6年前から新たなる劇場を作る場所を探していたという。

 「横浜や吉祥寺で探していましたが、なかなかこれぞという物件がない。不動産は出会いですから。この吉祥寺PARCO地下、もともと書店があったところには、そうする中で出合いました。ここは全フロアを使うと、100席のスクリーンを3つ作れる広さ。でも渋谷でマイクロミニシアターを運営してきた我々には、50席くらいのスクリーンで、ちゃんと動員し、ロングランさせてビジネスを回していける確信と実績がありました。それで5スクリーンにし、スクリーンごとに個性をつけたわけです」

 浅井さんは1993年、映画事業をまず配給会社としてスタートさせた。最初の配給作品は、デレク・ジャーマン監督の『エンジェリック・カンヴァセーション』(1985)。その後、同監督の『ザ・ガーデン』(1990)、『エドワードII』(1991)、『ヴィトゲンシュタイン』 (1993)、『BLUE ブルー』(1993)を共同製作し、配給。『BLUE ブルー』の公開準備をしている中で、デレク・ジャーマンの訃報はもたらされた。

デレク・ジャーマン監督作『Blue ブルー』(提供:アップリンク)

 TVドラマやドキュメンタリーを手掛け、黒沢清監督『アカルイミライ』(2004)ほかの映画の製作と買付・配給を並行しながら、『マルコムX自伝』など書籍も出版。1995年には各月刊のカルチャー誌『骰子』を創刊(2000年まで)。現在は、インターネット上で『webDICE(ウェブダイス)』を展開している。

 劇場としては、1999年に映画の上映やイベントを行えるカフェ・シアター「アップリンク・ファクトリー」を開設。2005年に日本一小さな映画館「アップリンクX」をオープン。40席1スクリーンというミニシアターではあったが、音響や内装にこだわり、まだフィルムが主流の時代に他劇場に先駆けデジタル上映を採用した。2006年、現在アップリンクがある場所に、58席の「アップリンク・ファクトリー」、45席の「アップリンクX」、「アップリンク・ギャラリー」、カフェレストラン「タベラ」を集結させて移転。2012年には41席の「アップリンク・ルーム」に、アップリンク・マーケット」を加え、3つのスクリーンとカフェ、そして書籍、Tシャツ、DVDなどを販売するショップを持つ映画の総合拠点となっている。

アップリンク渋谷(撮影:Avanti Press)

 こうして振り返ってみると、アップリンク吉祥寺は、まさに“アップリンク”の発展形。理想的な進化といえる。

 「私たちは、アップリンク吉祥寺と渋谷とを合わせ、8スクリーンを編成するというふうに考えています。井の頭線で一本ですし、映画ファンは移動してくれると思っています」と浅井さん。

アップリンク吉祥寺で次々仕掛けられる試み

 オープン記念としては、ファッショニスタ御用達セレクトブティック「Sister」と、デレク・ジャーマンの『BLUE ブルー』をイメージしたフーディやTシャツなどコラボアイテムを制作。アップリンク吉祥寺内のショップほか Sister ONLINEで販売する。

Sister×アップリンク吉祥寺 コラボレーション商品(提供:アップリンク)

 またロビーには、デレク・ジャーマン作品の音楽を多く手掛けたサイモン・フィッシャー・ターナーによるオリジナル音源「MUSIC FOR CINEMA LOBBY」が流れ、同作にインスパイアされたメイン通路「青い洞窟」も私たちを優しく迎えてくれる。

デレク・ジャーマンの『Blue ブルー』にインスパイアされた青の洞窟(撮影:Avanti Press)

 同館のエントランス近くに、ギャラリーがある。ここは映画のチケットを購入しなくても、随時、変わる展示を見ることができる。また、ショップで買った武蔵野のクラフトビールや、クラフトコーラ専門店提供の「伊良(いよし)コーラ」などをユニークなフード類をロビーで楽しむこともできる。映画館体験で言えば、まずは映画館の入口まで足を運んでもらう作戦といえる。販売が限られる伊良コーラは、ぜひ飲んでみたいと、取材中ずっと心引かれていた。

これから上映される映画のチラシが並ぶロビースペース(撮影:Avanti Press)

 ロビーには「見逃した映画特集 Five Years」などのちらしがずらり。また「ぜひ見て欲しい」と強く勧められただけあって、女性用トイレもものすごく居心地よく作られている。

多機能トイレはもちろん、個室数、化粧スペースも充実の女性用トイレ(撮影:Avanti Press)

 1987年、法人としてアップリンクがスタートし、30年以上。スタート当初に見ていた未来形のビジョンを、浅井さんに聞いてみた。

 「映画館は、ラーメン屋やカフェと同じで現金収入ビジネス。加えてオンラインでのクレジットカード収入もあります。先に収入があって、経費や仕入れへの支払いは後から生じる信用商売。サイクルさえきちっと築ければ健全に回せるんです。一方、映画配給は、カンヌ映画祭でいい作品を買い付けられたとしても、契約し、公開できるのは約1年後。もちろん宣伝費もかかりますし、配給収入が入るのがさらに先。これは長続きしないビジネスだなと思いました。

 今は映画館を作る方が面白いし、大事。それに自分たちで映画館を持っていれば、小さい作品でも、リクープの目安が作れ、公開日も決められる。配給だけではきついと思います。最終的にはひとつのビルに映画関係のものすべてを集めたスペースを作りたい。でも不動産とは出会い。いつになることやら。建てたほうが安いのかもしれません」

 何本か続けて観る予定を立てて、再訪したい。そう思わせられた。アップリンク吉祥寺は、映画を観る特別な場所になりそうだ。

アップリンク吉祥寺パルコ WEB
住所 東京都武蔵野市吉祥寺本町1-5 吉祥寺PARCO B2F
電話 0422-66-5042

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