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【個性的すぎる映画館】上映プログラムより更に大切な原点とは?復活18年の名画座「新文芸坐」

 池袋駅東口を出て徒歩約3分、大通りを少し外れた雑然とした繁華街の中においてひときわ目を引くガラス張りのビルの3階に、名画座 「新文芸坐」はある。かつてこの地にあった名画座「文芸坐」は、1997年に老朽化などにより閉館を余儀なくされたが、2000年にマルハンが跡地を「マルハン池袋ビル」として再建、その3階に新文芸坐をオープンした。

新文芸坐の入り口(撮影:久田絢子)

個性的なプログラムの決め方

 ビルの地下1階から地上2階まではパチンコ店。午前10時より少し前には、パチンコ店のオープンを待つ客と10時開映の作品を待つ客とが入り乱れて、ビルの前はちょっとした人だかりができていた。新文芸坐の入場整理券を手に待っていた人は、学生風の若者もいれば60代以上とおぼしき人もいたが、いずれもほぼ男性ばかり。そのことを新文芸坐の支配人・矢田庸一郎さんに伝えると、「お客様は男性の方、しかも私よりも上の世代の方が圧倒的ですね」と教えてくれた。旧文芸坐から新文芸坐に移ってきたスタッフは4名、現在も全員がここで勤務している。矢田さんもそのうちの1人だ。

新文芸坐の支配人・矢田庸一郎さん(撮影:久田絢子)

 マニアックでありながらも魅力的な作品が揃う新文芸坐の上映プログラム。取材に訪れた日は、「ジェラール・フィリップ 銀幕に輝く永遠の美貌」と銘打った特集上映が行われていた。1940年代~50年代のフランス映画を集めたプログラムで、よほど映画好きでないとなかなかこの時代の作品まで知っている人はいないだろう。

1階の地上エントランスには上映中作品の看板が出ている(撮影:久田絢子)

 これらのプログラムは、主に矢田さんともう1名のスタッフとで話し合って決めているのだという。決める際のポイントはあるのだろうか?

 「同じ俳優の出演作、あるいは同じ監督の作品でプログラムを組む、というのが一番わかりやすいですね。一般公開されている新作映画については、宣伝も様々されていますから皆さん知る機会もあると思いますが、同じ俳優、あるいは同じ監督の旧作は知らないという方も多くいらっしゃいます。そこで『この俳優、この監督だったらこんな映画もありますよ』と提示するのが名画座の役割の一つです。組み合わせによっては、それぞれ単独の面白さというだけじゃなくて、多面体になるというか重層的になるという効果があると思います」

必然性と意外性、それぞれに良さがある

 プログラムを組む際には「今、この作品をぜひ見て欲しい」というメッセージを込めて作ることが多い。

 「例えば、生誕何年とか没後何年とか、今やる必然性がはっきりわかるとお客様も見る気がわきます。11月から12月にかけて「2018年の森田芳光」という映画祭の企画上映をしているのですが、とにかく「森田芳光監督の映画をぜひ見て欲しい」という森田監督夫人ら関係する方々の熱い思いから始まった企画でした。なぜ今、森田監督なのか、というと森田監督の長編デビュー作であり注目を浴びるきっかけとなった『ライブイン茅ヶ崎』(1978)という映画からちょうど40年、そして2020年で生誕70年なのでそれに向けての企画です」

1階エントランス脇には上映する作品のビジュアルがずらり。通りすがりに“どんな作品があるのか”とのぞき込む人の姿を多く見かけた(撮影:久田絢子)

 しかし、プログラムの組み方について、他にも考え方や方法は様々あるという。

 「普通はホラー映画とラブロマンスで二本立てを組んだりしないと思いますが、同じテーマを扱っているとか実はストーリーが似ているとか、そういう視点で考えればその二本立てもありだと思うんですよね」

 更には「そんな繋がりもなく、全然関係のない作品の二本立てもありではないか」と矢田さんは感じている。

 「喜劇と悲劇とか、アクション映画とラブロマンスとか、なぜこの二本なのかわからない組み合わせなんだけど、どちらか一本を目当てで来たお客さんが、二本立てだからついでに見てみたら目当てじゃない方もすごく面白かった、というケースもあるんですよね。必ずしもよく練られ考えられた二本立てというコンセプトじゃなくても、意外性の面白さということでお客様の心にヒットする場合もあります」

清潔感のあるロビーは居心地のよい空間(撮影:久田絢子)

 映画館の原点は「いろいろな映画を上映し、面白い映画を提供し続けること」とも語る。

 「二本立てとか特集の組み方というのは、もちろん必要で重要なことではありますが、その原点以上に大切かというと、そうではないんじゃないかと思います。映画館は、お客様が気持ちよく映画を見られる“場”を提供するのが使命。見る・見ないはお客様が自分で決めることですから」

多様化の時代、それでも映画館の持つ意義とは

 テレビやビデオ、パソコンやインターネットの普及に伴い、映画を見る方法は多岐にわたる時代になった。そんな現代において、それでもなお映画館に足を運ぶ意義について尋ねてみた。

 「現代は技術の進歩によって、映画館じゃなくても映画を簡単に見られるようになってきているけれど、その一方で人々の映画に対する愛情や執着のようなものが、皮肉なことにだんだん薄れてきているように感じることがあります。1960年頃の映画は娯楽の王様という時代を過ごしてきた人たちが持っている映画に対する愛着は、今の人とは全然違います。数十年前に、今の若い人は無声映画を知らない、なんて言われていたことがありましたが、最近だと白黒映画を知らない世代がいる。それはつまり映画の知識が継承されていない、という状況があるんです」

上演プログラムに関連したグッズ販売や、来場ゲストのサイン色紙展示など、映画館に足を運んだお客様に楽しんでもらえる工夫も常に考えている(撮影:久田絢子)

 昔の映画も手軽に見られるようになった現代において、実際に人々がそういった古い映画を見るかというと、決してそうではない。あまり宣伝されていないマイナーだったりマニアックな映画も同様だ。

 「知らない映画を見ようとはなかなか思わないわけです。11月24日(土)から12月2日(日)まで「映画の職人〈アルチザン〉 佐藤純彌」というプログラムを上映しています。今回上映される中だと、大作の『敦煌』(1988)とか、比較的最近の『男たちの大和/YAMATO』(2005)あたりは聞いたことある人が多いかもしれないけれど、佐藤監督は今86歳で、デビュー作の『陸軍残虐物語』は1963年の作品なのでさすがに知っている人は少ないでしょう。これまで監督を知らなかった人が “この監督ってすごいのかな、見てみようかな” と思ってくれたらいいですね。昔から名画座の役割というのは “これを見よう” と思えるきっかけを作ること。それゆえに名画座は「映画の学校」とも言われてきました」

映画を楽しむこと、それを教えてくれる場所

 たくさんある魅力的なラインナップの中からイチオシとして矢田さんが挙げたのは12月3日(月)~8日(土)の特集上映「映画の旅・鉄道への想い」だ。評論家・川本三郎さんの著作 「あの映画に、この鉄道」(キネマ旬報社 2500円+税)が出版されたことをきっかけに企画したのだという。

川本さんの刊行記念インタビューはこちら

 「高倉健主演の二本立て『鉄道員(ぽっぽや)』(1999)『駅 STATION』(1981)から、『喜劇 各駅停車』(1965)や『喜劇 急行列車』(1967)といった愉快な映画まで、鉄道が登場する幅広い年代の作品を取り揃えて出発進行!!です」と矢田さんの意気込みも十分。上映期間中はロビーで同著作も販売され、最終日8日の終映後には川本さんのトークも予定されている。

左/矢田さんイチオシの特集上映「映画の旅・鉄道への想い」。観客のみなさんもご一緒に「出発進行!」 右/2018年12月9日(日)からは江波杏子さんの追悼上映。9日には藤巻潤さんのトークショーも

 映画だけではなく、様々な娯楽が気軽に手に入る現代において、それでも映画館という場所で「面白い映画を見せる」という使命を担い、真摯にその役割を果たしている人々がいる。映画館で見ることの意義、それはやはり社会性なのではないか、と感じた。

 映画館、とりわけ名画座は、今この時代にこそ見るべき映画がある、と教えてくれる場所だ。もっと単純に、自分以外の誰かが「これ面白いよ」とおススメしてくれた映画に興味を持ち、じゃあ自分も見てみよう、と行動する。これも立派な社会性だ。テクノロジーの発達に伴い個人主義が先行しがちな現代だからこそ、映画に精通した“目利き”のいる映画館の果たす役割は大きい。新文芸坐が教えてくれる「面白い映画」にこれからも注目していきたい。

新文芸坐 WEB
住所 東京都豊島区東池袋1-43-5 マルハン池袋ビル

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