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映画を新たな観光資源に!カジノの街・マカオと映画の意外な関係

 中華人民共和国マカオ特別行政区で2016年に創設されたマカオ国際映画祭。第3回は2018年の12月8日~14日、マカオ文化センターを中心に開催されます。毎年、豪華スターがタレント・アンバサダーを務め、2018年はハリウッドスターのニコラス・ケイジ、“香港四天王”アーロン・クオック。

タレント・アンバサダーを務めるアーロン・クオック

 日本からは22歳の新鋭・奥山大史監督『僕はイエス様が嫌い』(2019年公開)がコンペティション部門に参戦します。

コンペティションに選ばれた奥山大師監督『僕はイエス様が嫌い』(C) Closing Remarks

 カジノの街で知られるマカオは、カルチャー発信基地として舵を切り始めました。

カジノの街の映画祭

 マカオと言えばカジノ。誰もが真っ先にそう思い浮かべるでしょう。ポルトガル植民地時代の1847年に合法化されて以来、実に170年以上の歴史を誇ります。古くは、クレージーキャッツ主演映画『無責任遊俠伝』(1964)、最近ではローワン・アトキンソン主演『ジョニー・イングリッシュ 気休めの報酬』(2011)やジェシー・アイゼンバーグ主演『グランド・イリュージョン 見破られたトリック』(2016)に、マカオでのカジノシーンが登場します。

マカオのシンボル!? 蓮の花をイメージしたという 「Grand Lisboa Macau(グランド リスボア マカオ)」。その前には老舗の「Casino Lisboa(カジノ・リスボア)」がある(撮影:中山治美)

 2001年にマカオ政府はカジノの経営権を外資にも開放。『グランド・イリュージョン 見破られたトリック』にも登場した 「SANDS MACAO」(サンズ マカオ)を皮切りに、カジノを併設した大型総合リゾート施設が続々誕生しました。特に韓国版のドラマ「花より男子」(2009)でも使用された 「The Venetian Macao」(ザ ベネチアン マカオ)がある新興埋立地のコタイ地区と、マカオ半島の南灣湖のウォーターフロントはラスベガスのごとく、24時間派手なネオンが輝きピッカピカです。ただその客の多くは中国人であったため、2013年に中国で「中央八項規定」(いわゆる「習八条」、官僚などのぜいたく禁止令)が制定されるとカジノにも収益にも影響が……。

 そこで、新たな観光の呼び水として始まったのがマカオ国際映画祭です。でもスターを招くだけではなく、地元の若手監督の育成はもちろん、さらにアジアの若手俳優をここから世界へ羽ばたかせようと、昨年から「アップ・ネクスト・アワード」を設置しました。

第1回のアップ・ネクスト・アワード受賞者。(写真左から)アン・ソヒョン、チュティモン・ジュンジャルーンスックジン、忽那汐里、ピオラ・パスカル、ラージクマール・ラーオ、ルディ・リン、セリーナ・ジェイド。今年は誰が選ばれるか!(撮影:中山治美)

 栄えある第1回の受賞者の中には、『デッドプール2』(2018)に出演した忽那汐里と、日本でも大ヒット中のタイ映画『バッド・ジーニアス 危険な天才たち』(2017)のチュティモン・ジュンジャルーンスックジンが選ばれています。

 本気で、ここからアジア映画の今を発信しようという気概が見て取れます。

日本とマカオの意外な接点

 もともとマカオは場所柄、東洋と西洋文化の交流地点。16世紀半ばには、ここから食や物資だけでなく、キリスト教がアジアへと普及していきました。その歴史の中で生まれた悲劇が遠藤周作原作、マーティン・スコセッシ監督『沈黙-サイレンス-』(2016)です。同作は主に台湾で撮影が行われましたが、映画冒頭でキチジロー(窪塚洋介)とロドリゴ神父(アンドリュー・ガーフィールド)が出会うのはマカオです。当時、日本ではキリスト教が禁じられていたため、キチジローのようにキリシタンが一時、マカオに逃れ、滞在していました。その痕跡がマカオの歴史地区に数多く残されており、聖ポール天主堂跡の裏側にある納骨堂には日本人の骨も納められています。鑑賞後に見学すると、一層胸に迫るものがあります。

聖ポール天主堂跡の裏側にある 天主教藝術博物館には日本ゆかりの品、さらに納骨堂には日本人殉教者の骨も納められている(撮影:中山治美)

 西洋文化の名残りは、カラフルな洋風建築にも見られます。その街並みを巧みに映画に取り入れ、印象的なシーンに仕立て上げたのがジョニー・トー監督『冷たい雨に撃て、約束の銃弾を』(2009)です。主演は2017年に亡くなったフランスのロック歌手ジョニー・アリディ。何者かに殺されたマカオ在住の娘一家の復讐のためにやってきます。クライマックスシーンが撮影されたのは、 大堂(カテドラル)前の大堂広場。

 小洒落た平穏な街が、一瞬にして銃弾の飛び交う阿鼻叫喚の間となるギャップがたまりません。

聖ポール天主堂跡西側の昔ながらの路地では、『冷たい雨に撃て、約束の銃弾を』や『グランド・イリュージョン 見限られたトリック』などの撮影も行われた。(撮影:中山治美)

 そのほか本作は、マカオのシンボル「グランド・リスボア・マカオ」や昔ながらの店舗が並ぶ路地など、マカオらしい場所をロケ地に選びつつ、ジョー監督印のフィルム・ノワールに仕上げています。そこはチョウ・ユンファ主演『過ぎゆく時の中で』(1989)をはじめ、さまざまなマカオでロケを行い、街を知り尽くしているトー監督のなせる技でしょう。

映像遺産としての映画〜街の変化を記録する

 さて今年10月、実に9年の歳月をかけて建設していた香港とマカオを結ぶ 港珠澳大橋が開通しました。訪れる度に変貌を遂げるマカオ。思わず古い映画を見返してしまいます。

観光客でごった返す聖ポール天主堂跡(撮影:中山治美)

 大学生の加山雄三がプライベート・ジェットで香港からマカオ入りする主演『レッツゴー!若大将』(1967)、レスリー・チャンが恋人と 聖ポール天主堂跡やモンハの丘公園でデートする香港映画『レスリー・チャンの青春白書』(1982)、さらに昔のフェリー乗り場や、ポウサダ・デ・サンチャゴも登場するシルヴィア・チャンと鶴見辰吾共演のヨン・ファン監督『海上花』(1986)etc……。

聖ポール天主堂跡にも程近い 「Cinemathepue・Passion」(シネマテーク・パッション)のある坂道・戀愛巷(恋愛通り)はカップルの記念撮影スポット(撮影:中山治美)

 なぜか、マカオ人でもないのに郷愁にかられます。そして改めて実感しました。映画は、街の変化を記録する映像遺産であることを。

マカオ国際映画祭 International Film Festival & Awards.Macao WEB
2016年より毎年12月に開催。マカオの国際的知名度の向上とカジノに次ぐ新たな観光客の呼び水としてスタートし、日本映画も多数出品される。第1回では、三池崇史監督『土竜の唄 香港狂騒曲』や矢口史靖監督『サバイバルファミリー』、黒沢清監督『ダゲレオタイプの女』などが参加。第2回には、滝田洋二郎監督『ラストレシピ 〜麒麟の舌の記憶〜』、平柳敦子監督『Oh Lucy!』、森ガキ侑大監督『おじいちゃん、死んじゃったって。』の新作に加え、黒澤明監督の『羅生門』が出品された。第3回は、コンペ部門に選ばれた奥山大史監督の『僕はイエス様が嫌い』、ディレクターズ・チョイス部門の小津安二郎監督『秋刀魚の味』(1962)が上映される。