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「寝かせるべき」はワインよりも人生か~『おかえり、ブルゴーニュへ』

 「ボジョレー・ヌーヴォー」が2018年11月15日に解禁された。80年代後半バブル期の派手なブームからすると、ずいぶんと落ち着いた印象がある。同時に、日本におけるワインのイメージも幅が広がった。知識を深めてウンチクを語る層が増えたことで、小難しい印象を持つ向きもあるだろう。特に「フランスのワイン」となれば、なおさらかもしれない。

(C)2016 – CE QUI ME MEUT – STUDIOCANAL – FRANCE 2 CINEMA

 本作『おかえり、ブルゴーニュへ』はそのタイトル通り、フランス・ブルゴーニュ地方の家族経営ドメーヌ(ワイナリー)が舞台だ。10年前に家を飛び出した長兄のジャン(ピオ・マルマイ)、醸造家としてドメーヌを継ぐ妹のジュリエット(アナ・ジラルド)、他のドメーヌの婿養子になった末弟のジェレミー(フランソワ・シビル)。物語はジャンの帰郷から始まり、父親の他界と相続問題、さらにはそれぞれが抱える悩みを描く。

 描かれた1年のあいだにショッキングな事件は起こらない。3人の生活はブドウ畑の四季に先導される。父親の他界は収穫の直前だった。それでもブドウは待ってくれない。悲しみにくれる間もなく畑で実を齧り、収穫時期を決め、ワインを造る。相続税の支払い方法で口論を繰り返しても、それぞれのトラブルに頭を悩ませても、畑はただ春夏秋冬と色を変え続けるだけだ。とはいえ、単調なシーンが続くわけではない。監督は『猫が行方不明』(1996)、『スパニッシュ・アパートメント』(2002)のセドリック・クラピッシュ。ありふれた生活と日常を小気味良く描くテンポ感はさすがといえる。

(C)2016 – CE QUI ME MEUT – STUDIOCANAL – FRANCE 2 CINEMA

 とまれ、本作に登場するワインは高尚でもなければ、仰々しいうんちくも必要としない。ドメーヌとはブルゴーニュ地方でブドウ畑を所有し(賃借含む)、栽培から醸造、瓶詰までを一貫して行うワイン生産者を指す。3人のワイン造りは驚くほどのアナログ作業だ。実を齧り収穫時期を決め、大人数を集めて手で摘み、実についた小枝(梗)の除去率を決め、大樽の中で踏む。そして収穫祭では一晩中歌い踊り、ワインに酔いしれる。すべての作業に関する判断基準は、鍛えられた舌と経験値でしかない。

 能書きを並べる前にまず大切なものは、味と香りを「感じる」ことができるか、「味わう」ことができるか。3人は悩みを抱えながらも畑の四季に導かれ、感情と考えを徐々に整理していく。能書きを並べる前に感じるべき自身の感情とは、そして真に味わうべき人生、大切にすべき存在とは。「寝かせる」ことで味が豊かになるワインがある。3人のドメーヌで地下に眠るワインは、父や祖父たちが畑とともに生きた記録だ。3人が畑とすごした1年間もまた、ある意味での熟成期間だったのだろう。ワインが実際に眠る時間からすると、とてつもなく短いだろうが。

(C)2016 – CE QUI ME MEUT – STUDIOCANAL – FRANCE 2 CINEMA

 「ブルゴーニュのブドウ畑のクリマ(栽培区画)」は2015年、ユネスコ世界遺産に登録された。「人類が2千年をかけて育み、世界に伝播した他所にはないブドウ栽培のモデル」(France.frより)としてだ。それ以前から、ドメーヌ訪問ツアーに憧れるワインファンは多い。けれど本作を観たあとは、うんちくも解説も放棄して、畑のあいだをひたすら歩いてみたくなるだろう。四季折々に色を変え、人間と対話し続けてきたブドウ畑はおそらく、人生を考えるに適した場所だ。

『おかえり、ブルゴーニュへ』 WEB
11月17日(土)よりヒューマントラストシネマ有楽町、YEBISU GARDEN CINEAほか全国順次公開