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『アナ雪』に『スター・ウォーズ』…ノルウェー・ベルゲン急行で行く映画の世界

 1本の映画に誘われて旅に出る―― 。そんな経験、ありますか?

 ノルウェーに向かったのは、『ホルテンさんのはじめての冒険』(2007)との出会いから。主人公はベルゲン急行の運転士で、40年間勤め上げた最後の日にうっかり寝坊したことで、思わぬ冒険をすることになるヒューマンコメディです。そのファーストシーン。オスロからベルゲンに向けて列車が出発するとパーッと雪景色が広がり、まるで川端康成の「雪国」の世界が! 思わず旅情をそそられ赴いてみたら、数々の映画との出会いが待ち受けていました。

ノルウェーとマリリン・モンローの意外な接点とは?

 ノルウェーでは毎年8月に、港町ハウゲスンで ノルウェー国際映画祭 が開催されます。ロケ地巡りはその帰路に決行。なので『ホルテンさんのはじめての冒険』では首都オスロ→港町ベルゲンへ向かいますが、逆ルートでの旅です。

 映画祭ではノルウェーの民族衣装に身を包んだ女の子たちがゲストを迎えてくれました。ひときわキュートで鮮やかな衣装は、先住民族サーミ族のもの。彼らが受けた迫害の歴史を描いた映画『サーミの血』(2016)の舞台はスウェーデンでしたが、ノルウェー、そしてフィンランドやロシアにも暮らしています。同作の主演女優レーネ=セシリア・スパルロクもノルウェー人です。

カラフルなサーミ族の民族服(撮影:中山治美)

 ハウゲスンでは、まさかの“永遠のセックス・シンボル”の異名を持つマリリン・モンローとの出会いも。彼女の父とされるエドワード・モーテンソンがこの町の出身だからと銅像を建てちゃったらしい。モンローもあの世でビックリ!?

ハウゲスンにあるマリリン・モンロー像(撮影:中山治美)

『アナ雪』のモデル、日本映画のロケ地にも

 ハウゲスンから路線バスで約140km北上するとノルウェー第2の都市ベルゲンです。ベルゲンは近年、ディズニー・アニメ『アナと雪の女王』(2013)のアレンデール王国のモデルとして注目されました。

『アナと雪の女王』のアレンデール王国のモデルといわれるベルゲンのブリッゲン。世界遺産です(撮影:中山治美)

 そういえば町を一望できる フロイエン山 には、あちこちにノルウェーの妖精トロールが置かれる公園があります。

フロイエン山から見たベルゲンの街並み(撮影:中山治美)

 ここは東映で育った筆者にとっての聖地。日本を代表する二大女優・吉永小百合様と岩下志麻姐さんが、『霧の子午線』(1996)のロケを行った場所なのです。生涯の友という設定の2人は、学生運動に身を投じていた大学時代、同じ男性に恋をした過去があり、その林隆三演じる元カレの消息を訪ねて、ベルゲンを訪れます。中世の香り漂う町が、大人の切ない恋をドラマチックに盛り上げるのです。

フェリーに乗って絶景を堪能!

 ベルゲンからベルゲン急行に乗って一気にオスロに向かうのも可能ですが、ノルウェー名物フィヨルド(峡湾)・ツアーを体験しましょう。

ベルゲン港からソグネフィヨルド・ツアーへと出港するフェリー(撮影:中山治美)

 ベルゲンからは、『霧の子午線』のエンディングロールにも登場する、世界最大級のソグネフィヨルドを眺めるツアーが出ています。急峻な山が連なるフィヨルドを縫うように進むフェリーに乗れば、『霧の子午線』を手がけた名カメラマン、木村大作ならずとも、その絶景をカメラに収めずにはいられなくなるでしょう。

ソグネフィヨルドで立ち寄るフロムの村。船が通らない早朝なら、水面に映る絶景を鑑賞できる(撮影:中山治美)

 この辺りでは、イギリスのSFサスペンス『エクス・マキナ』(2015)の撮影も行われています。ちょっと足を伸ばして、AIロボット開発の研究施設として使用されたヴァルダールにある 「Juvet Landscape Hotel(ジュヴェ・ランドスケープ・ホテル)」 に宿泊し、俗世から逃れてみるのもいいですね。

鉄ちゃん憧れ! レトロなフロム鉄道

 ベルゲンから約5時間かけて到着したのは、山間の愛らしい村・フロム です。ここは世界の鉄道ファン憧れの列車、フロム鉄道の発着地。フロムからベルゲン急行の停車駅ミュルダールまでは20.2kmにもかかわらず、高低差が886mもあるため、列車は1時間かけて緩々と登っていきます。ドイツ製の無骨な車体がなんとも頼もしいじゃないですか。

全世界の鉄ちゃん大興奮! のフロム鉄道。先頭車両の下の部分には、雪かきをするためのV字型鉄板が付いている(撮影:中山治美)

超レトロな趣のフロム鉄道の車内(撮影:中山治美)

 途中、ホームから豪快なショース滝を眺められる、ショースフォッセン駅で列車は停車。5分間の記念写真タイムがある。アトラクションとしても最高です。

フロム鉄道で立ち寄るショース滝。豪快に流れる滝の近くには水力発電所がある(撮影:中山治美)

ベルゲン急行の車窓から見る『スター・ウォーズ』の世界

 標高866.8mにあるミュルダール駅に到着すると、向かいのホームにベルゲン急行が待っています。

ミュルダール駅で写真左のフロム鉄道から右のベルゲン急行に乗り換え(撮影:中山治美)

 いよいよホルテンさん体験です。オスロまで約5時間の旅。でもちっとも飽きません。

大自然を貫くように進むベルゲン急行(撮影:中山治美)

 8月なのに車窓から見える山には白いものが。雪ではありません。氷河です。フィンセからトレッキングツアーで約4時間の場所にある、ハルダンゲル氷河で『スター・ウォーズ エピソード5/帝国の逆襲』(1980)の撮影が行われ、惑星ホスとして登場したというじゃありませんか。
ホルテンさんは約40年間、こんな景色を眺めながら運転していたんだなぁと感慨深く見入ってしまいます。

『スターウォーズ エピソード5/帝国の逆襲』の惑星ホスの場面はフィンセで撮影された。8月なのに氷河が残っている(撮影:中山治美)

 感動ポイントは車外だけではありません。ベルゲン急行にはファミリー専用車両があって、プレイルームまで用意されています。さすが社会福祉が発達している国! あらゆる層への配慮が行き届いています。ホルテンさんがベルゲン急行の運転士であることを誇りに思い、定年まで勤め上げた気持ちがよーく分かり、涙腺がウルッとしてしまいました。

こんな筏で太平洋横断!? コンチキ号博物館

 映画の余韻に浸っていたら、あっという間にオスロに到着です。ここはもう映画ゆかりの地の宝庫。筏で太平洋横断に挑戦した学者トール・ヘイエルダールの偉業を伝える コンチキ号博物館 がビグドイ半島にあります。
 

オスロのコンチキ号博物館(撮影:中山治美)

 館内では、第24回アカデミー賞長編ドキュメンタリー映画賞を受賞した『Kon-Tiki』(1950)の鑑賞ができ、再現された筏も展示されています。よくぞこの開放感あふれる筏で101日も生活したなと、改めて驚かされます。2012年に製作された実写版『コン・ティキ』も、第85回のアカデミー賞に外国語映画賞部門でノミネートされました。

左/コンチキ号を再現した船。101日間も洋上を旅過したのだからアッパレ! 右/第25回アカデミー賞長編ドキュメンタリー賞を受賞した『Kon-Tiki』撮影で使用したカメラや、オスカー像がコンチキ号博物館に展示されている(撮影:中山治美)

ノルウェーの国民的画家ムンク

 ノルウェーといえば代表作「叫び」で知られる画家エドヴァルド・ムンクの 「ムンク美術館」 も見逃せない。訪問する前に、ムンクの日記や手紙から彼の生涯を追ったドキュメンタリー映画『エドヴァルド・ムンク -生命のダンス-』(1997)を鑑賞すると絵に込められた彼の思いを知ることができます。

左/オスロの「ムンク美術館」。写真左から「叫び」、「不安」、「絶望」 右/ムンク美術館のカフェで味わえるムンク・ケーキ(撮影:中山治美)

 ムンクのライバルと称される彫刻家グスタフ・ヴィーゲランの彫刻が212点も展示されているヴィーゲラン公園もぜひ訪れたい場所です。2人の鬼才を育んだノルウェーの懐の深さを実感することでしょう。

園内にはこのようなユニークな彫刻が212点も。全力で人々を楽しませてくれるヴィーゲラン公園(撮影:中山治美)

ノーベル平和賞の街・オスロ

 オスロはまた、ノーベル平和賞の授賞式開催地としても有名です。授賞式が行われるのは オスロ市庁舎、その斜め前には歴代受賞者の功績を伝える ノーベル平和センター があります。

ノーベル平和賞の授賞式が行われるオスロ市庁舎。オスロ市創立900年を記念し、1950年に建立(撮影:中山治美)

左/ノーベル平和センター 右/ノーベル平和センターの売店には、歴代のノーベル平和賞受賞者のポストカードがズラリ。映画の主人公になった方も多数(撮影:中山治美)

 授賞式の模様は、リュック・ベッソン監督『The Lady アウンサンスーチー ひき裂かれた愛』(2011)でも描かれています。ミャンマー国家最高顧問になったスーチーさんは今、ロヒンギャ問題で話題になってますけどね。

オペラハウスの屋根を歩こう!

 筆者のオススメは「オスロ・オペラハウス」 。ここを本拠地とするノルウェー国立オペラ・バレエ団で撮影されたドキュメンタリー映画には、ブリンシパル・西野麻衣子さんの活躍を追った『Maiko ふたたびの白鳥』(2015)、プロのダンサーを目指す少年3人を描いた『バレエボーイズ』(2014)などがあります。さらに10月20日公開のヨアキム・トリアー監督『テルマ』(2017)では、主人公たちが同所に観劇に訪れるシーンがあります。

 公演ももちろん楽しんでほしいのですが、まずご覧いただきたいのは“建物”。ヴィム・ヴェンダースが総指揮の、世界の著名監督が思い入れのある建築を愛でるドキュメンタリー映画『もしも建築が話せたら』(2014)でも紹介されているように、屋根の上まで自由に登ってビヨル湾の景色を楽しむことができるのです。手がけたのはノルウェーの建築事務所スノーヘッタ。外壁ガラスの一部分はソーラーパネルになっていて、環境にも優しい、一歩先を行く建築です。

オスロ・オペラハウス。屋根まで歩いて登れる(撮影:中山治美)

 芸術、建築、交通など生活の全てが神の恵みである自然と見事に調和されて成り立っているノルウェー。この国の映画が、もっと日本で上映されればいいのにぃ~。
 

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