映画祭でめぐる日本 ① 2度の大地震を乗り越えた日本最古の映画祭~湯布院映画祭

ツイート シェア

 夏休みに映画と温泉、観光を楽しめる映画祭がある。日本一の“おんせん県”で知られる大分の湯布院映画祭だ。1976年、映画館のない町で始まった日本最古の映画祭は地震をきっかけに誕生し、16年4月の熊本・大分地震も乗り越えた。第43回を数える今年は8月23日(木)~26日(日)の4日間開催され、日本映画界を代表する名優・佐藤浩市の特集上映が組まれる。

由布院駅。映画祭の告知が大きく貼り出されている。(写真:平辻哲也)

湯布院ってどんな町?

 湯布院は大分空港から高速バスで約55分。雄大な由布岳の麓にある金鱗湖周辺に広がる温泉地だ。

 1955年に由布町と湯平町が合併した町で、観光地は「湯布院」、市の名称は「由布市」、駅は「由布院駅」、最近では「ゆふいん」と表記されることもある。大分県出身の世界的な建築家、磯崎新氏が設計したモダンな由布院駅からは風情のある辻馬車が蹄の音を立てながら、温泉街に向かって走る。

町を走る辻馬車(撮影:平辻哲也)

 土産屋、雑貨店、カフェ、ギャラリーが立ち並ぶメインストリート「湯の坪街道」で買い物、食べ歩きをするのも楽しい。特産のブランド牛「湯布院牛」を始め、美味しいものがいっぱい。食事する店選びも迷うほどだ。映画だけではなく、食・温泉・観光のすべてが揃っている。

goo旅行で大分県の観光地をチェック!

映画祭誕生のきっかけ

 映画祭誕生のきっかけは、1975年4月21日に発生した大分中部地方を震源地とする大分中部地震。最大震度4だったが、M6.4は九州内陸で起こった直下型地震としては戦後最大。震源地付近では家屋が全壊し、湯布院でも負傷者6人、建物半壊24戸などの被害が出た。

 決壊した九州横断道路の復旧には数ヶ月を要したものの、旅館は営業できる状態になった。しかし、「湯布院の旅館、ホテルは潰れてしまった」といった風評被害が広がり、観光客が激減してしまった。

第38回映画祭の上映会場となった由布市湯布院公民館(撮影:平辻哲也)

 立ち上げメンバーの一人で、現在、映画祭の顧問を務める伊藤雄さんが誕生の経緯を明かす。

「当時、湯布院は地震の影響で観光客が来ないと悩み、牛喰い絶叫大会(大声コンテスト)を開催して、町の復興をアピールしていたんです。大分市内で映画を自主上映するグループをやっていた私たちに『映画祭をやりませんか』との申し出があったんです。大分市内で映画祭をやっても福岡や東京には負けてしまう、でも、湯布院ならと思ったんです。実はそれまで1度も湯布院に行ったことはありませんでした」

 8月の第1回は『仁義なき戦い』(1973)、『赤ちょうちん』(1974)、『新幹線大爆破』(1975)、『四畳半襖の裏張り』(1973)など12本を湯布院公民館で上映。当時、キネマ旬報編集長だった評論家の白井佳夫さんの尽力もあり、斎藤耕一監督、神代辰巳監督、森崎東監督、佐藤蛾次郎らがやってきた。

 ラインナップの中には3本の日活ロマンポルノが含まれていたことから、地元からは「教育上よくない」との批判もあった。こうしたエッジの効いたセレクションをするのも、湯布院映画祭の特徴だ。以後、映画祭は夏の風物詩となり、ファンを増やしていった。

goo旅行で湯布院温泉ツアーをチェック!

ファンからも映画人からも愛される「映画祭の故郷」

 土地の魅力はもちろんだが、湯布院の手厚いおもてなしや映画への熱い愛に魅了された映画人は数多い。柄本明、奥田瑛二、脚本家の荒井晴彦氏らは常連で、「心の故郷」「映画祭の故郷」と呼ぶ。最多参加は7本を出品した故・若松孝二監督だ。

第38回湯布院映画祭の会場における登壇の様子(撮影:平辻哲也)

「主演の寺島しのぶがベルリン国際映画祭で主演女優賞を受賞した『キャタピラー』(2010年)の時は大分市内の映画館での公開が決まっていて、湯布院での上映が難しいという状況でした。それを知った若松監督は『なんで、俺の映画を湯布院でやらないんだ?』とわざわざ渡航先のパリから国際電話をしてきてくれました。その結果、映画館との調整し、上映することができたこともありました」と伊藤氏。

 長い歴史があるだけに、2世代にわたる常連もいる。柄本佑&安藤サクラ夫妻だ。

「佑はお父さんに連れられて、3歳の時から映画祭に来ていたので、スタッフもよく知っています。高校生になってからはボランティアスタッフもやってくれました。2回目に訪れた際に、黒木和雄監督の『美しい夏キリシマ』(2003年)の主演に抜擢され、映画祭でも上映されました。上映日はゲスト扱いでしたが、それ以外はスタッフ。奥田さんの次女・安藤サクラさんと結婚した2012年にはみんなで2人の結婚を祝いました」

第38回湯布院映画祭、『チチを撮りに』で上映後のシンポジウムに出席した中野量太監督(撮影:平辻哲也)

 楽しんでいるのは映画人だけではない。映画ファンには映画人との距離が近い映画祭として知られている。上映後には監督や出演者が登壇し、ファンからの質問に答えるシンポジウム、夜には映画人と交流できるパーティもある。

 特にシンポジウムは、時に率直な意見や辛辣な感想も飛び、監督がタジタジになったり、中には本気で怒り出す映画人もいて、見ている方も刺激的だ。それもこれも、誰もが映画を愛しているからこそ、なのだろう。

湯布院温泉の民宿・ペンション

二度目の震災を乗り越えて

 16年には開催が危ぶまれた。4月に発生した熊本・大分地震が原因だった。報道では熊本の被害が多く報じられたが、湯布院でも三大旅館の一つ「亀の井別荘」の庄屋造りの建物などが半壊するなど被害を受け、「今年の開催は見送った方がいいのでは」との意見もあった。この時も支えてくれたのは、常連の映画人と映画ファンだった。

「亀の井別荘」の敷地内にある食事処「湯の岳庵」(撮影:平辻哲也)

 荒井氏、柄本、奥田ら常連が思い思いの文章で映画祭の危機を訴え、全国にカンパを呼びかけた。

「上映施設には問題はなかったのですが、被害を受けたお店や旅館が多く、開催資金になる広告をもらいにくいという状況がありました。みなさんが呼びかけてくださったおかげで、びっくりするくらいの金額が集まりました。感謝の言葉もありません」と伊藤さんは言う。

2018年の見どころは?

 今年は『GONIN』(1995)、『雪に願うこと』(2005)、『壬生義士伝』(2002)、『トカレフ』(1994)など9作品を上映する佐藤浩市特集のほかに、若松監督率いる若松プロを舞台にした門脇麦、井浦新出演の新作『止められるか、俺たちを』(白石和彌監督、10月13日公開)、永瀬正敏、菜葉菜が主演する『赤い雪 Red Snow』(甲斐さやか監督、年内公開予定)などの上映もあり、佐藤、菜葉菜、阪本順治監督、椎井友紀子プロデューサー、甲斐監督ら約20人のゲストが予定されている。

 温泉の湯のごとく、情熱的で、温かい、アットホームな映画祭。夏のホットな思い出になること間違いない。

第43回湯布院映画祭 WEB
日程 2018年8月23日(木)~26日(日)

 
goo旅行で湯布院温泉ツアーをチェック!
goo旅行で湯布院の観光スポットをチェック!

湯布院温泉のハイクラス ホテル・旅館