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レッドカーペットにシカ乱入!? 古都で2年に1度の映画祭~なら国際映画祭

 京都と並び、日本を代表する古都・奈良。しかし、その県庁所在地である奈良市には意外にも映画館がない。そんな奈良市で、映画監督・河瀨直美氏がエグゼクティブディレクターを務め、故郷に映画文化を根付かせようと始めたのが 「なら国際映画祭」だ。

オープニング・レセプションの河瀨直美監督(撮影:平辻哲也)

 奈良の平城遷都1300年目となる2010年に第1回をスタートし、偶数年の隔年開催。第5回を数えた今年は9月20日から24日までの5日間。その大きな特徴は国内外の新たな才能を発掘し、奈良で映画を作ることだ。

映画製作プロジェクト「NARAtive」とは

 なら国際映画祭は奇数年に映画製作プロジェクト「NARAtive(ナラティブ)」を実施している。「NARA(奈良)」と英語の「Narrative(物語性)」が由来。前回の映画祭のインターナショナルコンペティション部門で最高賞を受賞した若手監督が、奈良県を舞台に映画を製作するのだ。

 その製作を日本の第一線で活躍する映画スタッフやロケ地の地域の人々が支える。郷土愛を育み、他の地域から来た人々との新たなコミュニケーションを生み、奈良の魅力を世界に届けようという試みだ。第1回以前からスタートし、これまで6本の映画が作られたが、監督の国籍は日本、中国、韓国、メキシコ、キューバ、イランと実に多彩。完成作はなら国際映画祭でワールドプレミアされる。

『二階堂家物語』2019年1月25日(金)より新宿ピカデリーほかにて全国順次公開 配給:HIGH BROW CINEMA (C) 2018 “二階堂家物語” LDH JAPAN, Emperor Film Production Company Limited,Nara International Film Festival

 今年、お披露目されたのは、『二階堂家物語』(2019年1月25日公開)。イランの女性監督アイダ・パナハンデ氏が天理市を舞台に、息子の死をきっかけに跡継ぎ問題で揺れる名家の三世代の姿を描いた。加藤雅也が代々続く種苗会社の社長役、白川和子がその母、『映画 夜空はいつでも最高密度の青色だ』で2017年度の映画賞新人賞を総なめにした石橋静河が娘役を演じた。

『二階堂家物語』メイキング上映会での様子(撮影:平辻哲也)

 パナハンデ監督はロケ地となる天理市をシナリオハンティングする中、“婿養子”という言葉を何度も耳にし、物語の着想を得た。周囲からは「遠い異国の監督が日本の伝統的な家族の物語を撮れるのか」との心配の声もあったが、上映後はスタンディングオベーションが起こる好反応だった。観客からは「今どきの日本映画でもお目にかかれない良質な作品」「小津安二郎監督作品を思わせる」との感想も聞かれた。

まち全体が映画館! 古都を歩いてめぐる映画祭

 なら国際映画祭は歩いてめぐりたい映画祭だ。関連イベントを含めると10会場あるが、すべて徒歩圏内。

レッドカーペットの上をシカが悠然と歩く。(撮影:平辻哲也)

 レッドカーペット&オープニングセレモニーは奈良県文化会館。永瀬正敏、斎藤工、クリストファー・ドイルらがレッドカーペットを歩く中、なんとシカの姿も! 奈良ではシカは神の使いとして大切にされていることから、そのまま悠然と歩いていった。こんなハプニングもあるのも、奈良ならでは。

奈良市ならまちセンター(撮影:平辻哲也)

 最も多く作品を上映するのは観光客に人気の旧市街 「ならまち」の中心にある 「奈良市ならまちセンター」。その1階のカフェレストラン「cotocoto」では、映画祭の直前の9月15日に亡くなった樹木希林さんの追悼写真展「愛・樹木希林」(無料)が写真家レスリー・キーの尽力によって緊急開催され、多くの映画ファンを集めていた。樹木さんには映画祭から特別功労賞が贈られ、最後の主演映画となった『あん』(2015)は急きょ、追悼上映となった。

追悼写真展の様子(撮影:平辻哲也)

 都市景観形成地区である「ならまち」は奈良時代に平城京の外京として整備された一角。江戸中期にはお伊勢参りの宿場町として栄え、明治~昭和は奈良の商業の中心地となった。戦災もまぬがれ、古き良き日本人の生活風景を残した町家がいっぱいあり、ブラリ歩くのも楽しい。近畿日本鉄道(近鉄)奈良線の近鉄奈良駅周辺には、東大寺、元興寺、奈良公園があり、少し足を伸ばせば、春日大社もある。

世界遺産で映画が観られる?「NARAtive」だけでないユニークな試み

 第4回開催(2016)では奈良市議会の理解を得られず、補助金が打ち切られ、開催ピンチも伝えられた。第5回は補助金が復活し、当初の半額の1,000万円とふるさと納税などで集めた協賛金で運営。多数のボランティア、映画人によるサポートで開催が実現した。

オープニング・レセプションの斎藤工(撮影:平辻哲也)

 斎藤工は河瀨監督のオファーでアンバサダーに就任し、多忙な中、オープニングセレモニーのためだけに出席した。『二階堂家物語』の主演で奈良出身の加藤雅也も「数年前まで、こんな映画祭があるなんて知らなかった。自分にできることがあれば、協力したい」と名乗り出ている。

『二階堂家物語』レッドカーペットの加藤雅也(撮影:平辻哲也)

 映画祭では数多くのユニークな試みを行っている。「NARA-wave 学生映画コンペティション」、1980年まで映画館だった「尾花座」の跡地 「ホテルサンルート奈良」での「復活尾花座」と題する上映、自転車で発電してのアニメ上映会も。世界遺産の春日大社や東大寺でも映画を観ることができる。今年は新たに、「ベルリン国際映画祭」推薦の5本から10代の審査員が最優秀賞を決める「NIFFユース審査員プログラム」もスタートさせた。

奈良に根付きつつある映画文化

 2019年は、2018年にインターナショナルコンペティション及びNARA-wave 学生映画コンペティションの受賞監督の中から1名が奈良で映画製作する予定だが、河瀨氏は映画製作以外のイベント開催も考えている。

 「ユース審査員プログラムは来年もどこかで開催したいと思っています。応募してきてくれた子供たちはみんな映画も好きやし、10代からこういうことに関われることは、すごい財産になる」

映画祭ののぼり。期間中は映画祭の雰囲気が街中に広がる(撮影:平辻哲也)

 奈良の映画文化は着実に根付きつつある。映画祭と連動し、2013年からスタートした月1回の映画上映会 「ならシネマテーク」もシニア層を中心に人気。

 「映画館がない分、こういう場所で映画に慣れ親しんでもらいたい。実は、私自身が映画館を作っちゃおうかと思っているんです。2スクリーンぐらいのミニシアターができたらな、と。5年以内に、ね」

 奈良を舞台にした『萌の朱雀』(1997)で、カンヌ国際映画祭でカメラドール(新人賞)を受賞し、世界に羽ばたいた河瀨監督。映画と故郷への思いは強い。

なら国際映画祭 Nara International Film Festival WEB


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