個性的すぎる映画館 ① 開館10年、映画の町・尾道の顔となった「シネマ尾道」~20代の女性映画ファンがミニシアターを開館させた奇跡

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 小津安二郎監督の不朽の名作『東京物語』(1953)や『転校生』(1982)、『時をかける少女』(1983)、『さびしんぼう』(1985)など大林宣彦監督の三部作の舞台となった広島・尾道。JR尾道駅から商店街へ30秒歩くと、「シネマ尾道」の看板が飛び込んでくる。

4月に新たな看板が登場したシネマ尾道のエントランス(提供:シネマ尾道)

映画の街・尾道唯一の映画館

 “映画の町”として知られる尾道だが、映画館がない時代があった。そんな時、映画ファンだった女性支配人・河本清順(かわもと・せいじゅん)さんが2008年10月にオープンさせたのがこの「シネマ尾道」だ。映画人がこぞって舞台あいさつに駆けつけるミニシアターは今年で10周年を迎える。

シネマ尾道の支配人・河本清順さん(提供:シネマ尾道)

 シネマ尾道は尾道唯一の映画館。支配人の河本さんは祖父が大好きだった鈴木清順監督から名前を取ったという“生まれながら”の映画ファン。

 2001年に最後の映画館「尾道松竹」が閉館された際、当時20代の河本さんが「映画の街なのに映画館がないのは寂しいよね。尾道に映画館、なんとか作れんかねぇ」と映画好きの友人に声をかけたのが誕生のきっかけだった。

「尾道で映画館は無理」なのか?

 河本さんたちは「人口14万人以下の小さな町で映画館経営は無理」と言われる中、新潟、群馬、埼玉、京都、大阪など全国のミニシアターをめぐって、映画館経営の調査をする一方、2か月に1度のペースで、ホールや商店街で上映会活動を実施。

入り口にある受付とポスター

 4年がかりで、ノウハウや資金を集め、「尾道松竹」の跡地に新たなミニシアターを誕生させた。座席数112席。現在、年間約140本の良質な映画を上映している。

 2018年4月1日には、かわいらしい手作りの看板が完成した。手がけたのは、大林監督の『花筐/HANAGATAMI』(2017)に出演した俳優の満島真之介と呉市出身の絵本作家の長田真作さんと地元の小中学生たち。満島と長田さんは10年来の親友で、旅で訪れた尾道に魅了され、シネマ尾道に出会った。

看板を作ることになったきっかけ

 河本さんは言う。「ずっと看板を作らないといけないと思っていたんですが、駅前の顔となる場所に位置していますから、責任があるというか、怖かったということもありました」。

看板の制作風景(提供:シネマ尾道)

 今年3月上旬、満島から「何でシネマ尾道には看板がないのか?」との連絡があり、事情を説明すると、「僕たちが作るから、任せて欲しい」との申し出があったという。

 デザインは長田さんによるもの。3月31日、4月1日の両日、小中学生たちが白いペンキを塗った。「道」という文字の部分には、赤と青の2色が使われ、アクセントとなっている。余った木材で、ドアにかける「上映中」「少しお待ち下さい」といった小さな看板も作った。

多くの映画人が尾道に「また来たい」と思う理由

 この看板は早くも大好評。観光客が劇場前に足を運び、インスタグラムに写真をアップするなど観光スポットの一つになっている。「看板がなかった以前は場所の問い合わせの電話も多かったのですが、数が減りました。駅前が明るくなったという声も聞かれます。」と河本さん。

完成した看板を設置する様子(提供:シネマ尾道)

 開館以来、数多くのゲストが足を運んだ。尾道出身の大林宣彦監督はもちろん、尾道出身の声優・細谷佳正、塚本晋也監督、美術監督の種田陽平氏、奥田瑛二、永瀬正敏、村上虹郎、安藤サクラ、常盤貴子……。ゲストとしてオファーした人以外にも、自作の公開のタイミングで、自費で駆けつけてくれる映画人も多い。

「町の魅力を感じてくれる人が多いんでしょうね。尾道は風光明媚。町の人は、芸能人扱いをしない人が多いんです。町を歩いていても、若い俳優たちと自分の息子のように接する。それで、また来たいと思ってくれるんじゃないでしょうか」

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一番難しいことは何か?

 オープンにあたっては、一からNPO法人を立ち上げ、数千万円の資金調達を行うなど困難も多かったが、続けることの方が難しいという。

「開館のときは、劇場をつくるという明確なゴールがあったので、それに突き進めばよかったんです。大変だったのは、14年のデジタル映写機の導入でした。デジタル化の流れで、フィルムのプリント数が激減していたんです。多い時は100本くらいあったのが、2本しかないという状況で、フィルムの到着を待っていると、東京での公開から半年遅れ。お客さんの足も遠のいてしまうという負のスパイラルに陥り、一時は閉館も考えました」

館内の様子(提供:シネマ尾道)

 デジタル映写機の導入費用は約500万円。採算ギリギリの地方ミニシアターにとっては、大きすぎる額だった。実際、同時期、廃業を決断した地方映画館も多い。そんな中、助けになったのは、ミニシアターやコミュニティシネマの仲間だ。

 大分・シネマ5や東京・渋谷のユーロスペースが呼びかけ人となり、ネットで募金を呼びかけ、約500万円が集まった。まだ手元に現金はなかったが、閉館した映画館からデジタル設備を6年ローンで買い入れることができた。

“映画の町”の発信地として

 昨年は広島・呉を舞台にしたアニメ『この世界の片隅に』(2016)、建築家の老夫婦の生活を追ったドキュメンタリー『人生フルーツ』(2016)といったヒット作の上映もあり、過去最大の年間動員を記録。「シネマ尾道友の会」(1口1万円以上、10枚の招待券を進呈)の会員数も増えた。

ロビーに置かれた交換日記(提供・シネマ尾道)

 ロビーには観客が自由に意見や感想を書き込める「交換日記」を設けたり、尾道市などの支援を受けて、子どもや高校生向けのワークショップを開催するなど、“映画の町”の発信地となっている。

開館10周年に向けて

 今年10月には10周年。河本さんは「開館の時は『100年続けたい』と宣言しましたが、実際は1年先、2年先を見ながらの、決して楽ではない経営でした。いろんな方々に助けられてきましたね。10周年は節目。ゆかりのある方々をお呼びして記念のグッズも作りたいと考えています」と意気込む。

小津安二郎監督の名作『東京物語』のロケ地となった住吉神社(撮影:平辻哲也)

 尾道には『東京物語』(1953)の住吉神社や浄土寺、『さびしんぼう』(1985)と『あした』(1995)などの福本渡船、『転校生』(1982)とNHK連続テレビ小説『てっぱん』の振袖天満宮、『あの、夏の日~とんでろ じいちゃん~』(1999)と『日本殉情伝 おかしなふたり ものくるほしきひとびとの群』(1988)、『てっぱん』の千光寺・鼓岩など、映画やドラマのロケ地が多い。

映画『ふたり』『さびしんぼう』に登場した福本渡船。(写真:平辻哲也)

 7月には大林監督が約20年ぶりに故郷で撮る『海辺の映画館―キネマの玉手箱―(仮題)』(来春公開予定)のロケも行われ、河本さんも楽しみにしている。

シネマ尾道 WEB
住所 広島県尾道市東御所町6-2
電話 (0848)24-8222

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