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ジェームズ・ボンドも注目!? 町に奇跡を起こしたスペイン・ビルバオの美術館とは

 現代アート界で燦然と輝くグッゲンハイム一族。その一人、現代美術のコレクター、ペギー・グッゲンハイムをフォーカスしたドキュメンタリー映画 『ペギー・グッゲンハイム アートに恋した大富豪』 が全国順次公開中です。

『ペギー・グッゲンハイム アートに恋した大富豪』シアター・イメージフォーラムほか全国順次公開 (C)Roloff Beny / Courtesy of National Archives of Canada

 一族の貢献は、アートにとどまらず、街をも変えてしまいます。その恩恵を受けたのがスペイン北部のバスク州第一の都市ビルバオです。

歴史ある建造物が立ち並ぶビルバオ旧市街エリア(撮影:中山治美)

フォトジェニックな旧市街の街並み(撮影:中山治美)

 衰退しかけていた工業都市であったビルバオは 「ビルバオ・グッゲンハイム・ミュージアム」を擁する文化都市として再生し、都市開発も進み、最近は美食の街としても注目を浴びています。では、この街を散策してみましょう。

世界に美術館を有するグッゲンハイム一族とは?

 “ビルバオ・エフェクト”という言葉を耳にした人も多いでしょう。寂れかけた工業都市を、美術館一つで復興させてしまった奇跡を指します。人口35万人の都市に、今や年間130万人の観光客が美術館に訪れるのですから奇跡と言われるのも納得です。

太陽を浴びるグッゲンハイム・ミュージアム(撮影:中山治美)

 その「ビルバオ・グッゲンハイム・ミュージアム」がオープンしたのが1997年。グッゲンハイムの名のつくミュージアムは、ベネチア、ニューヨーク、ビルバオ、そしてアブダビ(2020年完成予定)にもあり、全てグッゲンハイム家の四男ソロモンが設立したソロモン・R・グッゲンハイム財団が管理・運営しています。ただベネチアだけが少し異なり、ペギーの元邸宅に、彼女のコレクションを展示しています。

ペギーの元邸宅が美術館となったベネチアのグッゲンハイム 『ペギー・グッゲンハイム アートに恋した大富豪』シアター・イメージフォーラムほか全国順次公開 (C)Roloff Beny / Courtesy of National Archives of Canada

 『ペギー・グッゲンハイム アートに恋した大富豪』によるとペギーと叔父のソロモンはソリが合わず、でも自身の死後、膨大なコレクションを管理できる人は叔父しかいない、と托したことが描かれています。両者の性格の不一致さ加減は、貴族の邸宅を改装したベネチアと、著名建築家の大胆なアイデアを採用したビルバオなどの外観を見れば一目瞭然かもしれません。

船をかたどった「ビルバオ・グッゲンハイム・ミュージアム」(撮影:中山治美)

 ただ超個性的な外観なくして、「ビルバオ・グッゲンハイム・ミュージアム」の成功はなかったでしょう。手がけたのは、アメリカ・ロサンゼルスの「ウォルト・ディズニー・コンサートホール」などでも知られるカナダの建築家フランク・ゲーリー。港湾都市でもあるビルバオを象徴するかのように船を連想させる外観で、その外壁にはまるで鱗のようにチタンが張り付けられています。チタンが放つ無機質な光沢はインパクト大。

映画界は黙っていない ① 『007/ワールド・イズ・ノット・イナフ』

 この実に絵になる建物を、映画界が放って置くはずがありません! まずロケ地に採用したのが人気シリーズ『007/ワールド・イズ・ノット・イナフ』(1999)。本作はジェームズ・ボンド(ピアース・ブロスナン)が、テロリストに奪われた石油王ロバート・キング卿(デヴィッド・カルダー)の大金を無事に回収したと思ったところ、紙幣に罠が仕掛けられており、キング卿殺害事件が勃発。その犯人をボンドが追求していくという展開です。

グッゲンハイム・ミュージアムの脇には、六本木ヒルズとお揃いのルイーズ・ブルジョワによる巨大クモのオブジェ「ママン」がいる。定期的に炊かれるスモークに包まれると、まるで映画のワンシーンのような迫力が(撮影:中山治美)

 ビルバオのシーンが登場するのが映画冒頭。キング卿の金の受け取り場所として、「ビルバオ・グッゲンハイム・ミュージアム」前にあるスイス銀行ビルバオ支店にボンドが赴くという設定。とりたててビルバオである必要はないので、旬に敏感な007シリーズの姿勢が読み取れます。

ママンの後ろにあるのが、ピアーズ・ブロスナンも歩いたサルベ橋。毎年6月にはダイビング大会も行われるのだ(撮影:中山治美)

映画界は黙っていない1② 『ジュピター』

 近未来的な外観からイマジネーションし、ビルバオを一つの惑星に見立ててしまったのがウォシャウスキー姉妹のSF映画『ジュピター』(2015)です。宇宙最大の王族争いが描かれる本作で、ビルバオはエディ・レッドメイン演じるバレムが築いた惑星ザリンタイヤとして登場。ネルビオン川にかかるズビズリ橋などは残し、あとは全部グッゲンハイム・ミュージアム同様のチタンボディの建物に変えていますが、紛れもなくビルバオです。

『ジュピター』にも登場するズビズリ橋。ただし磯崎新が設計に参加したツインタワー“イソザキ・アテア”はCGで消されてしまった(撮影:中山治美)

映画界は黙っていない ③ 『スケッチ・オブ・フランク・ゲーリー』

 こんなふうに映画人をも刺激する建物をデザインしたフランク・ゲーリーの頭の中はどうなっているの? と思うでしょう。創造の源泉に興味を抱いた方には、シドニー・ポラック監督のドキュメンタリー『スケッチ・オブ・フランク・ゲーリー』(2005)がオススメです。

夜になると表情がガラッと変わり、一層近未来感が増すグッゲンハイム・ミュージアム(撮影:中山治美)

 ちなみに写真で見ると異様な建物に思えますが、実際目にすると朝昼晩と光の当たり方によって建物の表情が変わり、毎日眺めていても飽きません。その証に、ミュージアム周辺は市民が憩う広場になっており、ネルビオン川沿いは散歩やランニング・コースとして、常に人でいっぱい。観光客だけではなく、市民に愛されていることが分かります。都市開発が市民にとっていかにあるべきか。この街から学ぶべきことは多そうです。

ネルビオン川を挟んだグッゲンハイム・ミュージアムの対岸には、デウスト大学などがある。『ジュピター』では両岸にグッゲンハイムと同じくチタンの建造物を並べ、近未来空間を創っていた(撮影:中山治美)

バスク地方1の美食レストラン「アスルメンディ」も

 さてバスク地方で美食といえば、フランス寄りのサンセバスチャンが世界的にも有名ですが、ビルバオだって負けてはいません。ミュージアム内のレストラン 「Nerua」 (ネルア)もイギリスの雑誌「レストラン・マガジン」が100位までを選ぶ「世界のベストレストラン50」2018で57位にランクされる名店ですが、この街の食を牽引するのは、ビルバオ郊外ララベツにある 「Azurmendi」(アスルメンディ)です。東京やビルバオ市内にも系列店はありますが、せっかくなので本拠地へGO!です。

ガラス張りの「アスルメンディ」。屋上には畑もある(撮影:中山治美)

エントランスに植えられているゲルニカの木。ゲルニカの木は、ドイツ軍による空爆にフランコ政権下による圧政と思い歴史を背負ってきたバスクの人たちの自由のシンボルであり、文化遺産。エネコがバスク魂を大切にしていることを表している(撮影:中山治美)

 シェフは、ミシュランガイド2013年度版において、スペイン最年少の36歳で三ツ星を獲得したエネコ・アチャ・アスルメンディ。彼の取り組みはバスクの食材へのこだわりだけでなく、生産から輸送まで自然環境を考慮したエコシステムならぬ“エネコシステム”を実践していることでも注目されています。

左/エネコのワイナリーツアーで、アルコール発酵前の果汁を試飲させてくれたベルトル・イサギーレさん。エネコの従兄弟でもある 右上/エネコではこれまで考案したメニューを提供。こちらは、見目も麗しきホウレン草のビスケットに載ったチーズケーキ 右下/ペッパーソースによる小麦のシチュー、生卵乗せ。これが、まさに卵かけご飯の味でびっくり!(撮影:中山治美)

2012年まで「アスルメンディ」が営業していた場所に新たにオープンさせた「エネコ」。こちらは懐にも優しいカジュアルなスタイル(撮影:中山治美)

 そんな彼の料理哲学を描いたドキュメンタリー映画 『世界が愛した料理人』 も公開中です。

『世界が愛した料理人』(C)Copyright Festimania Pictures Nasa Producciones, All Rights Reserved.

2020年にはサッカーの国際大会も

 ビルバオでは、ザハ・ハディッドが考案した新たな都市開発プロジェクトも進んでおり、2020年にはサッカー欧州選手権「UEFA EURO 2020」の開催地の一つにも選ばれています。

リーガ・エスパニョーラのサッカークラブ「アスレティック・ビルバオ」が本拠地とする「サン・マメス・スタジアム」。2013年に新築され、5万3000人を収容する欧州最大のスタジアムに(撮影:中山治美)

ミュージアムやスタジアムなどを通り、観光に便利なビルバオ・トラム。議論を重ねてLRT(ライト・レール・トランジット)が導入されたという(撮影:中山治美)

 スペインといえばマドリッドとバルセロナが観光の定番ですが、ビルバオも加えてみてはいかがでしょう。

ビルバオ・グッゲンハイム・ミュージアム GUGGENHEIM BILBAO WEB
住所:Abandoibarra etorbidea, 2 – 48009 Bilbao
『ペギー・グッゲンハイム アートに恋した大富豪』WEB 全国順次公開中
『世界が愛した料理人』WEB 全国順次公開中


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