個性的すぎる映画館 ⑤ 館長は大島渚監督作の主演俳優!~高校の映画仲間が作った「シネマハウス大塚」

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 JR山手線・都電荒川線の大塚駅から徒歩約7分。折戸通りのマンションの1階に、一風変わった“映画館”がある。2018年4月にオープンした「シネマハウス大塚」WEB だ。厳密には映画館ではなく、映画上映もできる多目的ホールである。

「シネマハウス大塚」外観・館長の後藤和夫さん(撮影:平辻哲也)

 運営するのは、学生運動が盛んだった1968年〜70年まで都立竹早高校(東京都文京区)で青春を送った同級生の男女6人。「表現の自由が危機に直面している」と感じ、高校時代のたまり場だった大塚に、自由な表現のための新たなスペースを立ち上げた。

上階はなんとマンション…シネマハウス大塚とは?

 シネマハウス大塚は、120インチのスクリーンに、移動可能の椅子が最大56席のミニシアター。後部座席は一段高くなっており、観やすい。上階はマンションということで、防音には最大の配慮がなされ、分厚い防音壁に、厚さ3センチ以上ある防音ドアを完備。フロント、リアスピーカーのほかに、重低音の響くウーファーもある。

シアターの様子(撮影:平辻哲也)

オープン以来、3回の大島渚監督の特集、15回忌を迎えた撮影監督・篠田昇さんの特集、ドキュメンタリー作家・三上智恵監督の沖縄三部作という5つのプログラムを企画上映したが、それ以外の上映作品はすべてレンタルスペースとして貸し出した自主興行。ほかにも、演劇、学習会、シンポジウムなどさまざまなイベントが行われている。

掲載情報のほか、近隣の飲食店マップも。(撮影:平辻哲也)

「常設の映画館だったら、たくさんの映画を借りて来ないといけない。それには相当の資金力もいるし、体力も必要です。我々にはそれだけのマンパワーはありません。自由な表現に出会い、共感し、語り合える場として、多くの人に開かれた広場を提供していきたいと思っています。どんどん使って欲しいですね」

 そう話すのは、館長の後藤和夫さん。テレビ朝日「報道ステーション」を始め、報道やノンフィクション番組のディレクター、プロデューサーを務め、アフガン、北朝鮮、パレスチナなどでの取材経験を綴ったノンフィクション「目撃者と傍観者のはざまで」や、サスペンス小説「新天国と地獄」などの著書もある。

開館のきっかけは仲間が集まった新年会

 きっかけは2015年、高校時代の自主映画の仲間が集まった新年会だった。

「安保をめぐって、国会を取り巻く若者グループがいたり、シニアも原発再稼働や安保法制に反対するために行動を起こしたりと、今の世の中が、我々が青春を過ごした50年前に似ているんじゃないかと話題になったんです。一方、上映会やイベントなどで、自粛という名の規制やさまざまな圧力が目につくようになり、表現の自由が危機を迎えているとも感じました」

館長の後藤和夫さん(撮影:平辻哲也)

 竹早高校に在籍していた1968年から70年は、世界中で反戦や民主化をスローガンに若者たちが声を上げた時代。日本でもベトナム戦争や日米安保条約に学生たちが反対運動を展開。さらには自治権をめぐって東大などで学生紛争も起きた。

 1969年には竹早高校では職員が修学旅行に際しリベートをもらっていたことが発覚。学生たちは猛抗議し、バリケード閉鎖もやった。そんな中、後藤さんらは自主映画製作サークル「グループ・ポジポジ」を結成し、学生運動と映画漬けの日々を送った。卒業後はそれぞれの道に進んだが、根っこには映画への熱い思いがあった。

「その後、男4人女2人で合同会社を立ち上げました。中には早くにリタイアした人もいますし、まだ現役で組織にいる人もいます」と後藤さん。

 スーパーバイザーを務める橋本佳子さんは制作会社「ドキュメンタリージャパン」所属の現役プロデューサー。『ニッポンの嘘 報道写真家 福島菊次郎90歳』(2012)、『フタバから遠く離れて』(2012、2014)、『FAKE』(2016)、三上監督の最新作『沖縄スパイ戦史』(2018)など、ドキュメンタリー映画をプロデュースしている。

館長自身が主演の大島渚監督作品も上映!

 オープニングは「1968年とニッポン−−大島渚監督特集」と題して、『絞死刑』(1968)、『東京戦争戦後秘話』(1970)、『夏の妹』(1972)の3本を上映した。『東京戦争戦後秘話』は後藤さんの主演作でもある。

『東京戦争戦後秘話』 発売元・販売元:紀伊國屋書店 価格:¥4,800+税 (c) 大島渚プロダクション

 卒業直前の1970年3月、「グループ・ポジポジ」制作の作品が出品された高校生映画祭に大島監督が来場。上映後に声をかけられた後藤さんらは数日後、大島監督の会社「創造社」に出向いた。

『東京戦争戦後秘話』は、映画で遺書を残した学生の物語という企画だった。

「麻布高校の卒業生で映画『おかしさに彩られた悲しみのバラード』で賞を取っていた原正孝(後に原將人と改名)さんと一緒に呼ばれ、大島監督からは『ストーリーを考えて欲しい』と言われました。結局、原さんのものが採用されたのですが、僕たちは映研グループの役で出演することになったんです」

 後藤さんは風景フィルムを残して自殺した男の足跡を追って、東京を駆け巡る主人公役を手にした。

“今こそ観るべき”作品を上映する映画館

 大島監督作品は今こそ観るべき作品だという。

「オウム事件の死刑囚の死刑が執行され、死刑制度が注目されましたが、実際に死刑がどのように執行されるのか、知っている人はほとんどいません。大島監督は50年前の映画『絞死刑』で既に描写し、問題提起しています。先日は、『少年』(当たり屋一家の事件をモデルにした1969年のロードムービー)を上映したのですが、若い観客が『万引き家族よりも面白い』というんです。そういう声を聞くと、映画館としては赤字ですが、やってよかったなと思います」

上映後は観客の語りの場になるロビー(撮影:平辻哲也)

 オープンの過程で、7人目の若い仲間が加わった。自身の摂食障害を基に、ヒロインの苦悩を描いた自主映画『空(カラ)の味』(2016)の塚田万理奈監督だ。「第10回田辺・弁慶映画祭」で弁慶グランプリ、映検審査員賞、市民賞、女優賞の4冠に輝いた期待の新鋭監督だ。

「オープン前の3月までは無料貸し出しするという話をしたら、『2週間貸してください』というわけです。彼女は監督仲間に声をかけて、インディペンデント映画祭みたいなことをやったんです。面白かったですね。こういう出会いがうれしいんです。60を過ぎて、文化祭の続きをやろうっていう感じでしょうか」

 シネマハウス大塚には、青春の夢が詰まっている。

シネマハウス大塚 WEB
住所 東京都豊島区巣鴨4-7-4-101
営業時間 イベントに準拠