個性的すぎる映画館 ④ 視覚障がい者にも『バーフバリ』!~誰もが楽しめる日本初のユニバーサルシアター「CINEMA Chupki TABATA」

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 2016年9月に誕生した「CINEMA Chupki TABATA」(シネマ・チュプキ・タバタ)WEB は日本初のユニバーサルシアターにして、日本一小さい映画館だ。通常20席(最大25席)。「視覚障がい者にも映画を楽しんで欲しい」との思いで作られた。音響を設計したのは、人気アニメ『ガールズ&パンツァー』の音響監督で知られる岩浪美和さん。

CINEMA Chupki TABATA外観(撮影:平辻哲也)

 視覚障がい者の映画鑑賞をサポートする「音声ガイド」は健常者にも好評で、出演アニメ声優自らが音声ガイドを務めた“ガルパン”は連日、満席の大盛況。2018年9月から映画館をシェアできるサービスも本格化し、新たな広がりを見せそうだ。

『ガルパン』音響監督・岩浪美和さん設計の「フォレストサウンド」

 JR山手線・田端駅北口から徒歩約5分、レンガ飾りのビルの1階に映画館はある。「チュプキ」とはアイヌ語で、月や木洩れ日などの「自然の光」のこと。ロビーの壁には一面に「チュプキの樹」のイラストが描かれている。それぞれの葉っぱには、映画館設立の支援者の名前が並ぶ。創設時のクラウドファンディングで集まったのは、531人の支援者による約1,880万円。物件の契約金、防音設備など映画館設立に必要な資金は全額、募金で賄った。

シアター内の様子(撮影:平辻哲也)

 この日は、全国で大ヒット中のインド映画『バーフバリ 王の凱旋 国際版』(2017)が上映中。シアター内のスピーカーからは小川のせせらぎや風の音が流れ、まるで森の中にいるようなイメージだ。前面、側面、後面、天井にいたるまでスピーカーを配置し、それぞれの作品に最適な立体的な音場を創造。7.1.4chのサラウンドシステムは「フォレストサウンド」と命名された。アクションシーンでは体全体で音を感じることができるというド迫力。

天井に設置されたスピーカー(撮影:平辻哲也)

 映像の描写をサポートする「音声ガイド」は座席の脇に備え付けられているイヤホンジャックで聴くことができる。ケーブル出力なので、音ズレや雑音は一切なく、画面と完全にシンクロ。

音声ガイド用イヤホンジャック。左右の音量を別々に調整できる(撮影:平辻哲也)

 『バーフバリ 王の凱旋 完全版』の音声ガイドはボランティア・スタッフが録音し、視覚障がい者が入念にチェックし、完成まで約3か月を要した力作。セリフの場面では、日本語吹き替え版を聞いているような熱演! 音声ガイドを聴いていると、小道具の名称や物語の背景なども知ることができる。

音声ガイド制作のこだわり

「日本の作品では台本のト書きを参考にすることもできるのですが、(異文化の)海外の作品では調べ物に時間がかかります。一番大変だったのはチリの天文観測所を舞台にしたドキュメンタリー『光のノスタルジア』(2010)です。天文観測所の建物の位置関係をグーグルアースで確認したり、セリフのない長回しのシーンも多かったので、そこに言葉を当てはめていかないといけませんでした」

「バリアフリー映画鑑賞推進団体City Lights」代表の平塚千穂子さん(撮影:平辻哲也)

 こう話してくれたのは、運営母体「バリアフリー映画鑑賞推進団体City Lights」代表、平塚千穂子さん。団体名の由来は、浮浪者と目が不自由な少女の交流を描いた、チャールズ・チャップリンの名作『街の灯』(1931)から。2001年から目の不自由な人たちと共に映画鑑賞を楽しむために、言葉による音声ガイドをいち早く手がけ、視覚障がい者の映画鑑賞をサポートしてきた。

音声ガイド講習会の様子(提供:CINEMA Chupki TABATA)

 上映作品はすべて音声ガイド付き。最近では、あらかじめ音声ガイドが用意されている作品も増えているものの、ミニシアターで上映される作品にはほとんどない。平塚さんは毎回、ボランティア・スタッフと台本製作から録音まで行っていて、映画の初日直前は追い込み作業になるという。

なぜ視覚障がい者のための音声ガイドを作ろうと思ったのか?

 平塚さんが視覚障がい者と関わるきっかけはなにか?

「『早稲田松竹』という映画館で働いていた1999年に、あるサークルが『街の灯』を目が不自由な方に見せるという企画を立てたんです。それまで目が見えない方とは接点がなかったのですが、お話を伺うと、思いのほか映画に興味持っていらっしゃっていることが分かったんです。どうにかならないかという気持ちにさせられ、活動を始めました」

「親子鑑賞室」(撮影:平辻哲也)

 シネマ・チュプキは、“視覚障がい者のための専門映画館”という印象を持つ人もいるかもしれないが、そうではない。乳幼児連れのパパ、ママにも優しい。劇場の後部には窓からスクリーンを見ることができる完全防音の「親子鑑賞室」も用意されている。赤ちゃんが泣き出してしまった時や子供がぐずり出した時には離席して、気兼ねなく観ることができる、というわけだ。車いすスペースも完備。平塚さんが目指すのは、「障がいがある人もない人も、いろんな人が自然な形で混ざり合う場所」。日本一小さい映画館は、日本一優しい映画館でもある。

熱いメッセージとともに書かれたサイン(撮影:平辻哲也)

 そんな小さな映画館は、たくさんの映画人に愛されている。壁には、『あん』(2015)の故・樹木希林さん&永瀬正敏、『湯を沸かすほどの熱い愛』(2016)の中野量太監督、『この世界の片隅に』(2016)の片渕須直監督、“ガルパン”の関係者ら舞台挨拶を行った映画人のサインがズラリ。わずか20数人のために、舞台挨拶を行うのだから、贅沢な話だ。盲目のカメラマンと音声ガイド製作者の交流を描き、City Lightsも製作に協力した『光』(2017)の主演、永瀬正敏は「City Lights」の支援会員にもなったという。

新しい試みへの挑戦~人気声優の音声ガイドも続々

 オープンから2年。どんな変化があったのか?

「音声ガイドを、見えない人のためだけのものでなくしたら、もっと広がるんじゃないかと思い、声優さんを起用した音声ガイドを始めました。岩浪さんが小野大輔さんに声をかけてくださって、アニメの『ソング・オブ・ザ・シー 海のうた』(2014)の音声ガイドをやってくださいました。その第2弾、第3弾という形で、戸松遥さん、梶裕貴さんも……。そうすると、ファンの方が音声ガイドって何?と、実際に目を閉じて体験してくれ、『見えない人はこんなふうに楽しめるんだね』とSNSで広げてくださる。すごくいい影響が出ています」

ロビーの様子。壁には「チュプキの樹」が描かれ、葉に支援者の名前が連ねられている(撮影:平辻哲也)

 そんな中、最大のヒットとなったのは“ガルパン”だ。8月にも『ガールズ&パンツァー劇場版』(2015)と『ガールズ&パンツァー 最終章 第1話』(2017)を秋山優花里役の声優・中上育実さんによる音声ガイド付きで計6回上映し、連日満席となった。

「ホント、ガルパンさまさまです。今回は、1か所だけセリフが違う4バージョンを作ってみたんです。ものまねバージョンやノリノリバージョンとか……。ランダムに上映したところ、お客様にもゲーム感覚で楽しんでいただけたようです」と平塚さん。

 9月からは、午後7時からのレンタルサービスもスタート(WEB)。これまで1時間 7,500円だったレンタル料金は5,000円に値下げ。極上音響の映画館を気軽にシェアすることができる。自主上映会、誕生日や記念日などプライベートイベントにも活用できそう。オープンから2年経ったユニバーサルシアターは、誰もが楽しめるミニシアターになっていた。

CINEMA Chupki TABATA シネマ・チュプキ・タバタ WEB
住所 東京都北区東田端2-8-4 電話 (03)6240-8480 営業時間 10:00〜23:00(水曜休)