日本映画散歩 ③ 『カメラを止めるな!』の埼玉県・SKIPシティ~上田監督が明かした撮影裏話とは

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 今年、一番ホットな映画『カメラを止めるな!』のロケ地ツアーイベントに参加した! メインロケ地は、茨城県水戸市にある1932年に設立され、1993年まで稼動していた「芦山浄水場(あしやま)浄水場」WEB。37分ワンカットの撮影が行われた、この芦山浄水場にはとても惹かれる。上田信一郎監督も、ロケハン一カ所目だったこの場所に一目ぼれしたそう。「日本軍の秘密基地だったかもという設定にぴったりな、いかがわしそうな機械があったり、吹き抜けになっていたり、古びている感じもよかった」という。

『カメラを止めるな!』公開中 (c)ENBUゼミナール

 しかし今回は、メインロケ地と主演の日暮監督(濱津隆之)の家を除く場面を撮った埼玉県川口市のSKIPシティにある「彩の国ビジュアルプラザ」を訪ねた。なんとSKIPシティ内のロケ地を、上田監督が案内してくれるというのだ。監督自ら案内してくれるなんてめったにない機会! 参加しないわけにはいかない。

SKIPシティにゾンビ異常発生!?

 午前と午後、2回に分けて行われたイベントの、午後の部に参加。映像ホールに入ると、325席の約8割が、胸に「ONE CUT OF THE DEAD」と書かれた、監督とお揃いのTシャツ着用の人々で埋まっていた。暗がりの中では目立たないものの、集団で移動するとかなりなインパクト。

SKIPシティ 彩の国ビジュアルプラザ(撮影:Avanti Plus)

 この日は、上田監督傑作選として『恋する小説家』(2011)、『テイク8』(2015)、『猫まんま』(2015)の3作品が上映されたが、終映後、血しぶきをあしらったこのTシャツを着た人々が、急に明るいところに出た時の虚ろな目で、何百人も連なって帰路についたところに出くわした。まじめな話、背筋が粟立つほど驚いたので、このTシャツを着ている際は、いつも以上に明るく、しゃべりながら移動していただくことを懇願する。

上田慎一郎監督とヒロイン松本逢花を演じた秋山ゆずきさん(撮影:Avanti Plus)

 “ゾンビもの”で“生中継”で“ワンカット”な撮影に挑む人々のバックステージものでもある本作。ゾンビ映画撮影中に本物のゾンビが襲来。リアリティを追究する監督は、それでも「カメラは止めない」と彼らに言い放つ。次々と餌食になり、逃げ惑うキャスト、スタッフ。日頃のうっ憤がたまった監督の暴走で、低予算の現場はとんでもない修羅場と化す。37分の作品は果たして完成するのか? ここに監督一家の問題も絡み、物語は息もつかせぬ速さで展開する。

SKIPシティ『カメ止め』ロケ地① あの稽古場は研修室

 さて、撮影された場所に行ってみよう。ロケ地はSKIPシティ敷地内の4カ所。

映画のように飾り付けられた研修室で(撮影:Avanti Plus)

 最初のロケ地は、暴走する主演の日暮監督(濱津隆之)とスタッフ、キャストが顔合わせする稽古場。撮影は「彩の国ビジュアルプラザ」4階の研修室で行われた。ツアー参加者が部屋に到着すると、そこにはなんとゾンビ映画のヒロイン、松本逢花を演じた秋山ゆずきさんが! ゆずきさんの登場に興奮したイベント参加者は、ゾンビのようにわらわらと群がっていく。二人ともノリノリで反応してくれたのだが、細かく説明するとネタバレしそうなので割愛。

 上田監督とゆずきさんのコンビは、上田監督初参加の2012年「SKIPシティ国際Dシネマ映画祭」入選作『恋する小説家』以来。監督は、同作品のヒロインオーディションに訪れた18歳のゆずきさんを見た瞬間、「この子だ!」と思ったという。ちなみに研修室のシーンで大泣きしていた赤ちゃんは、監督の息子さん。撮影当時、3カ月だった彼を泣かせておくのは忍びなかったが、作品のためと心を鬼にしたのだそう。「本当はもっとかわいい顔を撮影してお見せしたかった」と親心も吐露した。

撮影に使われた衣装。皆さん、意外と(失礼!)細身(撮影:Avanti Plus)

 この研修室は、これまでにもいろいろな映画のロケや、稽古に使われてきた。いや、研修室だけではない。SKIPシティでは、敷地に大規模なオープンセットを建てた『母べえ』(2008)、『舞子はレディ』(2014)を始め、大小さまざまな映画の撮影が行われている。

 撮影所でもないのになぜか? それは、ここSKIPシティが、映像ミュージアム、映像ホール、映像公開ライブラリーのほかに、ポストプロダクション、HDスタジオ、インキュベートオフィスなどを擁する、理論学習から撮影、ポストプロなどの実践と、上映までを一気通貫で行える映像制作の拠点だから。しかも、その施設をインキュベートオフィスに入居する若手作家たちに低価格で貸し出しているのだ。

SKIPシティ『カメ止め』ロケ地② 真央が絆創膏を貼っている理由は…

 続いて、日暮監督ののめり込みやすい性格の娘、真央(真魚)が、助監督として参加するVシネの撮影シーン。このロケ地は、彩の国ビジュアルプラザの建物横の大階段。

真央が助監督として携わったVシネはここ大階段で撮影されていた(撮影=Avanti Plus)

 このシーンの真央が頬に絆創膏を貼っているのは、初期段階のシナリオにあった彼女と女優が取っ組み合うという設定に基づいた、真魚さんの自主的な役作りなのだそう。

台詞がキャッチー(撮影:Avanti Plus)

 取材した日の大階段では、ガラスを鏡に見立て、若者がダンスの練習に没頭していた。いろいろな使い方ができそうな、気持ちのいい空間だ。

SKIPシティ『カメ止め』ロケ地③ 本物が欲しくてテイクを重ねた!?

 次は、俳優たちが稽古をする屋外のシーン。この木、なんの木、不思議な木とでも歌いだしたくなる、大きな木の下がロケ地だ。ここでは、少しずつ慣れてきたスタッフ、キャストが、撮影直前の不安を口にする。録音マン役の俳優、山越(山﨑俊太郎)が、新米ADの綾奈(合田純奈)に「メールもしたんですけど」と詰め寄るシーンは、映画の冒頭シーンの台詞さながら、かなりのテイク数を重ねたのだそう。

左手奥のこんもりした木の下で撮影は行われた(撮影:Avanti Plus)

 といっても演技が気に入らなかったわけではなく、むしろその逆。テイクを重ねるごとに、新しいパターンを投入してくる山﨑さんの演技が面白くて、何度もやってしまったのだという。さらには「カットをかけずに泳がしてしまいがち」だったと上田監督。

SKIPシティ『カメ止め』ロケ地④ 笹原Pの肩を揉んだ上田監督

 最後は、かなりアバウトそうな笹原プロデューサー(竹原芳子)らが番組を見守る、テレビ局会議室のシーン。撮影を行ったのは「映像ミュージアム」の301スタジオ。映画では、マイペースである意味、豪快な笹原プロデューサーも、撮影では多くのエキストラに囲まれ、ガチガチになっていたのだそう。「竹原さんの肩を揉んで緊張をほぐしたのは僕です(笑)」と上田監督。

テレビ局の会議室場面を撮影した301スタジオ(撮影:Avanti Plus)

 ちなみにこの「映像ミュージアム」。素晴らしく遊べる博物館で、展示で映像の歴史や仕組みを学ぶ映像学習ゾーンと、簡単な企画、美術、撮影、照明、編集、アフレコ、CG合成、アナウンサー体験、プロジェクションマッピングなどが体験できる映像制作ゾーンで構成されている。

ミュージアムは「彩の国ビジュアルプラザ」2階に。こちらは俳優とスタッフに分かれて撮影体験ができるスタジオ(撮影:Avanti Plus)

 301スタジオでは通常、合成撮影アトラクションやアナウンサー体験を行っている。百聞は一見に如かず。子どものみならず、大人も楽しい! 

左/合成撮影アトラクション 右/アナウンサー体験(撮影:Avanti Plus)

 ロケ地見学と合わせた来館をお勧めしたい。『カメラを止めるな!』ロケ地は、4階の研修室以外、いつでも自由にご覧いただけるとのこと。

SKIPシティ彩の国ビジュアルプラザ WEB
SKIPシティ映像ミュージアム WEB
住所 埼玉県川口市上青木3-12-63
映像ミュージアム開館時間 9:30~17:00 月・年末年始休(2018年10月5日までメンテナンス休館 ※変動の可能性あり)
映像ミュージアム入場料 大人510円 小中学生250円