映画に登場する鉄道で旅へ…評論家・川本三郎氏がその極意を伝授!~「あの映画に、この鉄道」

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『君の名は。』(2016)、『君の膵臓を食べたい』(2017)、『未来のミライ』(2018)――、映画の中には印象的な鉄道シーンが登場する。そんな鉄道を旅の足にすれば、映画旅への没入感は極まり、さらに思い出深いものになるのではないか? その鉄道も、JR東日本が誇るTRAIN SUITE四季島のような超豪華列車や、あっという間に風景が流れて行ってしまう新幹線などではなく、ローカル線をお勧めしたい。ローカル線が刻むリズムを身体に感じながら旅する。これぞ、鉄道旅の極意。そんな鉄道版「映画×旅」の楽しみ方を、著書「あの映画に、この鉄道」(キネマ旬報社 WEB)を上梓したばかりの評論家、川本三郎さんにうかがった。この本がすごいのは、登場する駅や鉄道すべてに、川本さんが訪ねていることだ。

『未来のミライ』全国東宝系でロードショー中 (C)2018 スタジオ地図

日本人の旅のスタイルの元祖とは?

 まずは、なぜ川本さんが鉄道で映画をめぐる旅を始めたのか、というところからお聞きした。

「日本人の旅は、辿る旅が多いんです。例えば、芭蕉が奥の細道で歩いたところを辿って旅するとか。そもそも芭蕉の旅自体、歌人であった僧、西行の跡を辿るものでもありました。日本人はあまり、前人未到のところへ行く旅は得意じゃないんですよね。だから西洋にあった大航海時代は、日本には訪れなかった。先人が旅したところを訪ねるのが好きなんです。私の旅は、昭和20年代、30年代の映画の中に登場した場所を、そこに出てきた鉄道で巡る。言ってみれば伝統的なスタイルに則った旅なんです」

川本三郎さんと著書「あの映画に、この鉄道」(撮影:Avanti Plus)

 新旧の映画を比べると、駅や鉄道の役割が随分変わってきたという。

「今の駅は、いろいろなものと合体していますよね。特に驚いたのが、去年の『男はつらいよ 口笛を吹く寅次郎』のロケ地になった備中高梁駅に行った時、駅舎がきれいになって、その駅中にカルチュア・コンビニエンス・クラブ(CCC)が経営するTUTAYA図書館、高梁市図書館ができていたんです。図書館と駅が合体しているところは、他にもいくつかあります。例えば、中軽井沢駅も、駅舎を新しくした時に、図書館を入れていました。駅と図書館が一緒になっているところは北海道にもありますし、公民館が入った複合施設もあります。昔の駅はただぽつんとプラットホームと駅舎があるだけでしたが、今は人の集まる場所にしたいんでしょうね」

高梁市図書館が併設された備中高梁駅

映画に出てくる鉄道で見える日本の未来?

「近代の日本の町は、まず鉄道が敷かれ、駅ができ、その駅の周りに商店街が作られる。駅を中心に町ができていくんですけれど、車社会になってからはそれが崩れてしまった。駅前商店街はシャッター通りになり、人が集まるのは国道沿いの大きなショッピングモール。私は車の運転をしないので、鉄道だけで旅ができるところに行くことが多いんですが、昔ながらの、駅の周りに町ができているところに行くと、ほっとしますね。

 例えば、水郡線の常陸大子。年に1回、必ず行く、大好きな町です。未だにあそこは駅前に商店街が2本あるんです。高い建物はほとんどなくて、2階建ての瓦屋根の商家が並ぶ商店街。20年以上通っていますが、変わらないですね、風景が。

 ちなみに、水郡線は東京近辺のローカル鉄道では最も好きな線で、毎年6月になると乗りに行きます。田植えが終わったばかりの水田を見に。和辻哲郎が『風土』の中で書いていますが、日本の風景は、モンスーン気候で湿っている時がいいんですよね。だから旅するなら6月。土砂降りではない、静かな梅雨時の雨が、竹藪やまだ稲が育っていない田んぼにしとしと降り注ぐ。両側はほとんど水田なので、水のたまった田んぼの中を行く水郡線は、水の上を走る『千と千尋の神隠し』の列車のようです。あの風景を見ていると本当にほっとしますね。房総半島の小湊鉄道や大井川鉄道、小海線の沿線にも若干そういう風景が残っています」

田んぼの中を走る水郡線の砕石輸送列車

 ローカル線の旅では、そんな日本の風景を感じることができる。だが運行本数が少なくなっている路線では、一度降りると大変なことも。

「今、鉄道マニアの間で流行っている秘境駅なんて、降りたら大変です。次の列車まで2、3時間待たなきゃならないし、秘境駅だから周りに何にもない。岡山県を走る因美線の美作滝尾駅とか。次が来るまですることが何もない。だから、秘境駅は列車の中から見るだけでしたが、『男はつらいよ 奮闘篇』にも出てきた五能線の驫木駅にはどうしても降りてみたかったので、一昨年、編集者に車で回ってもらい、初めてゆっくり眺めることができました」

美作滝尾駅の周りには何もない

 鉄道の旅をしたいのに、鉄道だけでは回り切れないのは少々寂しいところ。

「なるべく地元の人や学生が普段利用している、普通の列車、生活列車に乗りたい。イベント列車は大嫌い。うっかり乗って、ビンゴゲームをやらされたり、歌わされたりと、大変な目にあったことがありました(笑)」

鉄道好きがわかる映画監督とは?

 映画監督にはあきらかに鉄道好きだと思われる人がいる。「あの映画に、この鉄道」でも多数紹介されるが、山田洋次監督、森田芳光監督、山下敦弘監督らは、鉄道シーンを描くことが多い。川本さんに、鉄道シーンの多い一番印象的な監督はと聞いてみた。

「私が好きなのは、村山新治監督。東映の監督でご健在です。この監督が撮った『警視庁物語』シリーズ(1956~64)には、たいてい列車が出てきます。私が高校生の時に観た、新潟県を走る信越本線の中で通学の男子高校生と女子高校生が恋愛をする、村山監督の『故郷は緑なりき』(1961)には、SLが登場します。

 SLって案外、近年まで走っていたんですよね。デボラ・カーとロバート・ミッチャムが出ているアメリカのコメディ『芝生は緑』(1961)でも、イギリス貴族の女性(デボラ・カー)がロンドンに出るのに蒸気機関車に乗っている。この時代のイギリスでも、まだ蒸気機関車だったとはと驚きました!」

 さらに、駅を舞台にした印象的なシーンは? と聞いてみた。

「ビリー・ワイルダーの『昼下りの情事』の有名なラストシーン。日本は列車とホームの高さがほとんど同じですが、ヨーロッパ大陸やアメリカのホームは低いので列車に乗る時はデッキの階段を上ります。『昼下りの情事』では、列車に乗ったゲイリー・クーパーが、ホームを走るオードリー・ヘプバーンをひょいっと車中に抱き上げます。あれは、日本のホームでは映えない。ホームと列車に高低差があるからいいんです。いずれにしても自動で扉が閉まらないオープンデッキもなくなったので、もうできませんが」

 そう。映画の中の鉄道シーンを愛する川本さんが嘆くのは、現在の列車の仕様。もちろん乗降客を安全に目的地まで運ぶのが鉄道の目的なので、安全性が高く、乗り降りしやすいことにはなにひとつ問題はないのだが、これによって情緒のある別れのシーンを撮ることは難しくなった。

「高倉健の『駅 STATION』(1981)で、銭函の駅を発車する列車のデッキで、いしだあゆみが敬礼する有名なシーン。あれだって今の列車ではできません。自動で扉が閉まってしまうので。新幹線じゃ窓すら開かない。ああいう別れのシーンはもう描けなくなってしまったんですよね」

お勧めの駅6選!

 最後に映画に登場するお勧めの駅をあげていただいた。

「まず終着駅の形を持っている大きな駅でいうと『家族』(1970)に出てくる長崎駅。少し寂しいですが『男はつらいよ 夜霧にむせぶ寅次郎』(1984)にも登場する北海道根室駅。そして商店街があって、駅前にちょっとした食堂がある『わかれ雲』(1951)の山梨県の小淵沢駅でしょうか。小淵沢駅は、小海線との接続駅で、中央本線の主要駅でもありますが、駅前の風景が『わかれ雲』の頃と、ほとんど変わらないところがいいんです。海に近い駅もいいですね。『加耶子のために』(1981)の北海道函館本線の森駅、有名になりすぎましたけど『僕達特急 A列車で行こう』(2012)の鶴見線の海芝浦駅や、『男はつらいよ 寅次郎と殿様』(1977)の愛媛県の下灘駅も」

 映画には出てこないが、「鹿児島県の指宿枕崎線の終点、枕崎駅もよかったなぁ。福井県の三国港駅や、岐阜県を走る明知線の明智駅も。ああ、やっぱり終着駅はいいですね」と止まらない。

右/「あの映画に、この鉄道」(キネマ旬報社 2500円+税)2018年10月上旬発売 右/中表紙は『男はつらいよ 寅次郎と殿様』に登場する愛媛県の下灘駅

「あの映画に、この鉄道」には、映画に出てくる鉄道と駅でのエピソードが綴られている。そして、それぞれの駅でどんな映画が撮影されたか引ける索引もついている。本を片手にぜひ、自分の目で“映画の中の鉄道風景”を確かめる旅へ!

川本三郎
評論家。1944年東京生まれ。東京大学法学部卒業。91年「大正幻影」でサントリー学芸賞、97年「荷風と東京」で読売文学賞、2003年「林芙美子の昭和」で毎日出版文化賞と桑原武夫学芸賞、2011年「小説を、映画を、鉄道が走る」で交通図書賞、12年「白秋望景」で伊藤整文学賞を受賞。「キネマ旬報」の長期連載「映画を見ればわかること」では、キネマ旬報読者賞を7回受賞している。都市論、エッセイ、小説、翻訳などの著書多数。近著に「「男はつらいよ」を旅する」(新潮社)、「サスペンス映画ここにあり」(平凡社)、「成瀬巳喜男 映画の面影」(新潮選書)、「映画の戦後」(七つ森書館)、「映画の中にある如く」(キネマ旬報社)、「「それでもなお」の文学」(春秋社)がある。「あの映画に、この鉄道」(キネマ旬報社)は2018年10月上旬発売。2500円(税抜)。WEB